螺旋の黄龍騒動記・4。
2008年2月10日 螺旋の黄龍騒動記(完結)毎度おなじみご注意(しつこいですがお互いの安全のために)。
●これは「L the proLogue to DEATH NOTE 〜螺旋の罠」の名前自由入力主人公(新米FBI捜査官)が「東京魔人学園剣風帖」のデフォルト主人公緋勇龍麻だったら、という徹底した個人的趣味の二次創作モドキです。
●加えてこの緋勇さん、先日「九龍妖魔学園紀」の2周目オマケモード「黄龍妖魔学園紀」をクリア済です。
●故に時間軸は2005年9月のお話です。
●世界観はデスノの方ではなく、魔人+九龍をメインとしてますので、この世界の《L》は「魔人世界に存在するパラレル《L》」です。故にここは今後デスノ−ト事件は発生しないか、発生しても人死にほぼ0で速攻解決するような気楽な世界です。
●そんなパラレル冗談じゃないという方は、どうか脳内から削除の上リターンをお願いします。
●それでもいいか、とか寧ろドンと来い!という同好の志に楽しんでもらえたら望外の喜びです。
最後に・・『こんな二次創作に立ち向かう覚悟はありますか?』
<はい(の人は下へスクロール)
<いいえ(の人はリターンお願いします)
では、ゲーム再開です↓
※※※※※※※
画面の向こうで、静かに解体作業は続いている。
出来の悪い玩具の様な外見をした『もの』。
派手な色合いのコードと、点滅するランプ、執拗に存在を主張するボタンの数々。そんな付属品をごてごてと飾り付けたそれは、小型爆弾を収納した対人罠(トラップ)だ。
目の前の人物を殺傷するために作られた悪意の塊。
しかし、それを向けられた本人は・・・少なくとも私の見る限りでは・・・微塵も臆することなく悪意に立ち向かっていた。
やがて最後の部品となる火薬が取り外され、単なる残骸と成り果てた元爆弾を前に、解体者がゆっくりと息を吐く。
ああ、やはり彼も緊張していたのか。
私は何故か安堵と共にそう思った。
「・・・チェックメイトですね」
私の声に、作業中の手元を映していたカメラが視点を動かす。途端に広範囲が確認できるようになった画面の中に、青年の姿が映った。
『はい、有難うございます《L》』
解体中に行った助言に対してだろう、感謝を示す言葉を告げた彼の表情を画面に確認した時、私は不覚にも返す言葉を失った。
彼の浮かべていたものが、あまりにも邪気のない・・・まるで、無垢な子供のような笑顔だったために。
緋勇捜査官が目覚めた小部屋から隣り合う別室へと移動し、私がまず感じたのは充分な照明器具による明るさへの安堵だった。
充分な光源が確保できたことは有り難い。彼を救うために必要な情報は、現時点で犯人側から与えられたこの端末による僅かな映像と音声のみ。ならば出来うる限りその精度は最上の状態にしておかねばならない。それが、私の武器となり、彼の命綱となる。
故に私が彼に出した指示は「あらゆるものに対する注意深い調査」と「その状況を逐一映像に収めること」の徹底。
その判断が正しかったと確信する為に、要した時間は短かかった。
次の扉に仕掛けられたものを皮切りに、私たちはあらゆる箇所に潜む罠と対峙することになったのだから。
『・・・ふぅ・・・』
既に2つの罠を解体し、今また新たな罠を無力化した彼が息を吐く。短い呼吸から徐々に深く。先程から見ていると、呼吸を行なう数が減っていく程に彼の集中は高まっているらしい。
「お見事です、緋勇さん」
私の言葉に、通常の呼吸に戻った彼は画面越しにこちらへ向かい『有難うございます』と背筋の伸びた綺麗な礼をした。
その顔に、やはりあの笑顔が浮かんでいることを確かめて、私は小さく息を吐いた。集中を解くためではなく、些か混乱の域にある脳内を整理する目的で。
「何時に無く、悩んでいますね、《L》」
爪に噛み付いたまま身動きひとつせず画面を見つめる私の背に、ワタリが微かな笑いを交えてそんな言葉を投げて寄越した。
「そう見えるか?ワタリ」
自分でも測りかねる感情をたった一言で言い表されてしまい、奇妙に納得のいかない気分を覚える。わざと不機嫌さを露に見上げてみたが、有能にして親愛なる《W》はいっそ憎らしい程完璧なタイミングで紅茶とケーキを私の前に差し出した。
「ええ、あなたのそのような姿を見るのは久し振りです」
「・・・・・・」
紅茶でもケーキでもなく、その横に盛られていた角砂糖を口に放り込む。甘い塊を噛み砕く私の横で、ワタリは『何時に無く』楽しげな笑顔を見せていた。
誤魔化しても無駄か。
画面の向こう、丁寧かつ迅速に部屋の調査をしていく青年から目を離さぬままに、私はもう一度小さく息を吐いた。
「手馴れていると思わないか、ワタリ」
主語を省いた言葉は、こちらからの通信を遮断している為に『彼』には聞こえていない。
FBIから送られてきた『緋勇龍麻』のデータは、本人が映し出されている画面のすぐ横に配置された別のモニターに表示されていた。
何一つ問題のない、どれを取っても確実な裏付けの取れる経歴。そこから見えるものは、平凡にして善良なる一般市民の素顔だ。しかしもうひとつ、FBIによる適正試験の結果。それを並べると、微かな違和感が見えてくる。
「判断力、適応力、それにあの身体能力・・・年齢と経験を鑑みるなら、彼の能力は【高すぎる】」
もう1つ角砂糖を口に放り込み、噛み砕く。じゃり、という音と強い甘さが口の中に広がり、私の脳を適度に刺激する。
「加えて言うなら、緋勇龍麻・・・彼の存在感は【強すぎる】」
黙って銀のトレイを支えていたワタリが、深く頷いた。
そう、私を悩ませているのは、まさにその【存在感】だった。
「どうにも噛み合わない。高すぎる能力、完璧すぎる経歴、計ったような事件発生と、被害者という立場・・・犯人からの要請が『彼と私の直接連絡』だったことといい、考えれば考えるほどに彼ほど怪しい存在は無いはず、しかし」
言葉を区切り、少し冷めてしまった紅茶に手を伸ばす。齧りかけのものと手付かずのもの、合わせて5.5個の角砂糖を琥珀の中に落とし、溶けていく様を眺めながら、私は3度目の息を吐いた。
しかし。
その言葉の後が上手く続かない。
私のこの違和感はなんなのだろう。
「『しかし、信じたい』・・・そうではありませんか?」
「!」
不意の言葉に頭の後ろを殴られたような衝撃を感じ、私は目を見開いた。ぐるりと首を斜め横に向けると、ワタリの穏やかな笑顔と目が合う。
「・・・私が?」
動揺を隠さず問いかける。するとワタリは、既に分かっているはずだ、とでも言うように笑顔のまま頷いた。
ああ、そうだ、分かっているのだ、私は。
黙り込んだ私の目には、黙々と調査を続ける『彼』の映像が映っている。長い前髪に覆われた両目が、彼の動きに応じて見え隠れする。そこに、演技ではない真剣さが見えるのは、私の勘が衰えた所為ではないだろう。
あの瞳。
深い漆黒の中に黄金の輝きを宿した両眼が端末の画面越しに映し出されたその瞬間、私は確かに『直感で彼を信じた』。
ロジックでは言い表せない『何か』。そんな不確かなものを最優先にしようとする感情と、それを否定する機械的な思考。相反する2つが私を混乱させていたために、私は『悩んで』いたのだ。
「・・・彼には現在2つの可能性がある。1つは本当に『単なるFBI捜査官であり』、『偶然この事件の被害者として選ばれた』という可能性。2つめは、彼が『犯人側より送り込まれた人材』であり『意図的にこの立場を演じている』可能性。理論を優先するならば、後者の疑いが前者を上回る状況・・・。しかし、もう1つ、こう考えるのならば、それは変わってくる。彼が『単なるFBI捜査官でなく』しかし意図的にではなく偶然この事件に『巻き込まれた』人物であったとしたら?」
ワタリに語りかけているのか、独り言であるのか、私自身にも分からない言葉の羅列。
詭弁、と言えなくも無い。現状を都合よく感情に沿わせるため、そんな可能性を考え出したに過ぎないのかもしれない。
けれど。
「ワタリ、私の勘は外れたことがあったか?」
遠まわしな問い掛けに、ワタリが穏やかに笑う。
「いいえ、《L》。1度として」
期待を裏切らない答えが返り、私は満足げな笑いと共にフォークを手に取った。
「勝率が勘のみの賭け・・・初体験ですね」
白い生クリームの上で、たった一つ煌びやかに赤い苺をフォークの先でぷすりと突く。
真っ直ぐ口へと運んだそれは、私の期待を上回る清々しい甘さだった。
「どうやら、これが先へ進むための鍵になるようです」
『・・・見た目からして、明らかに違いますね』
シャッターの下りたホールで、配電盤に仕掛けられた罠と睨み合う。おそらくこれを解除すれば横のシャッターが開く仕組みなのだろう。しかし、無論それだけではない。
「緋勇さん」
呼びかけに、彼がカメラを覗き込む。その瞳が真っ直ぐにこちらを向いていることを確認してから、私は再び口を開いた。
「今までの罠は殺傷力の低い、脅しとも言えるものでした。しかし、『これ』は違う。解除すれば先へ進める代わりに、もし失敗すればペナルティは・・・貴方の命で支払うことになるでしょう」
私の言葉は冷たく突き放したものに聞こえただろう。
たとえ揺ぎ無い真実であっても、最早進むしか道の無い彼にとってそれは『死』に直面していることを他者から再確認させられることなのだ。
だが、彼は決して取り乱しも、怒りもしなかった。ただ静かに頷いて、そして、にこりと笑った。
・・・それは、先程の無邪気な喜びの笑顔ではなく。
『有難うございます《L》。でも大丈夫』
全てを包み込む、慈愛に満ちた・・・まるで、母が子供に向けるような微笑みで。
『俺は、誰も死なせません。・・・俺自身も含めて、絶対に』
カメラが再び罠に向けられる。その一瞬に、私が見たものは強い意思の光を湛えた漆黒の両眼。
【誰も死なせない、自分も死なない】
受け取りようによっては傲慢とも思える言葉だというのに、彼の目はそれが決して嘘ではないと言い切るだけの力を持っていた。
やはり、とこんな状況にも関わらず私の口元が笑う。
「私の勘は、確かなようです」
動き出す指先と、徐々に解体されてゆく罠。要所要所でいくつかの助言を挿みながら、私は最早不要となった『捜査官・緋勇龍麻』のデータを消すために、指先をキーボードへと伸ばした。
END。
※※※※※※
挟もうと思ったギャグが一個も入らなかった・・・(滅)。
そんな黄龍in螺旋、L視点二回目です。あったまいいひとの視点は難しいよ!(馬鹿)
Lと黄龍さんの相関図は現在
L→貴方に賭けてみましょう →黄龍
L←信頼してるが状況は複雑・・←黄龍
という感じになりました。Lコミュはハート2(疑惑度2、信頼度4、興味5)くらいかと(笑)。
疑惑が減ってきたので今後はきっとギャグ多めになります。如何せんうちのキャラはみんな能天気ですゆえ・・・。
●これは「L the proLogue to DEATH NOTE 〜螺旋の罠」の名前自由入力主人公(新米FBI捜査官)が「東京魔人学園剣風帖」のデフォルト主人公緋勇龍麻だったら、という徹底した個人的趣味の二次創作モドキです。
●加えてこの緋勇さん、先日「九龍妖魔学園紀」の2周目オマケモード「黄龍妖魔学園紀」をクリア済です。
●故に時間軸は2005年9月のお話です。
●世界観はデスノの方ではなく、魔人+九龍をメインとしてますので、この世界の《L》は「魔人世界に存在するパラレル《L》」です。故にここは今後デスノ−ト事件は発生しないか、発生しても人死にほぼ0で速攻解決するような気楽な世界です。
●そんなパラレル冗談じゃないという方は、どうか脳内から削除の上リターンをお願いします。
●それでもいいか、とか寧ろドンと来い!という同好の志に楽しんでもらえたら望外の喜びです。
最後に・・『こんな二次創作に立ち向かう覚悟はありますか?』
<はい(の人は下へスクロール)
<いいえ(の人はリターンお願いします)
では、ゲーム再開です↓
※※※※※※※
画面の向こうで、静かに解体作業は続いている。
出来の悪い玩具の様な外見をした『もの』。
派手な色合いのコードと、点滅するランプ、執拗に存在を主張するボタンの数々。そんな付属品をごてごてと飾り付けたそれは、小型爆弾を収納した対人罠(トラップ)だ。
目の前の人物を殺傷するために作られた悪意の塊。
しかし、それを向けられた本人は・・・少なくとも私の見る限りでは・・・微塵も臆することなく悪意に立ち向かっていた。
やがて最後の部品となる火薬が取り外され、単なる残骸と成り果てた元爆弾を前に、解体者がゆっくりと息を吐く。
ああ、やはり彼も緊張していたのか。
私は何故か安堵と共にそう思った。
「・・・チェックメイトですね」
私の声に、作業中の手元を映していたカメラが視点を動かす。途端に広範囲が確認できるようになった画面の中に、青年の姿が映った。
『はい、有難うございます《L》』
解体中に行った助言に対してだろう、感謝を示す言葉を告げた彼の表情を画面に確認した時、私は不覚にも返す言葉を失った。
彼の浮かべていたものが、あまりにも邪気のない・・・まるで、無垢な子供のような笑顔だったために。
緋勇捜査官が目覚めた小部屋から隣り合う別室へと移動し、私がまず感じたのは充分な照明器具による明るさへの安堵だった。
充分な光源が確保できたことは有り難い。彼を救うために必要な情報は、現時点で犯人側から与えられたこの端末による僅かな映像と音声のみ。ならば出来うる限りその精度は最上の状態にしておかねばならない。それが、私の武器となり、彼の命綱となる。
故に私が彼に出した指示は「あらゆるものに対する注意深い調査」と「その状況を逐一映像に収めること」の徹底。
その判断が正しかったと確信する為に、要した時間は短かかった。
次の扉に仕掛けられたものを皮切りに、私たちはあらゆる箇所に潜む罠と対峙することになったのだから。
『・・・ふぅ・・・』
既に2つの罠を解体し、今また新たな罠を無力化した彼が息を吐く。短い呼吸から徐々に深く。先程から見ていると、呼吸を行なう数が減っていく程に彼の集中は高まっているらしい。
「お見事です、緋勇さん」
私の言葉に、通常の呼吸に戻った彼は画面越しにこちらへ向かい『有難うございます』と背筋の伸びた綺麗な礼をした。
その顔に、やはりあの笑顔が浮かんでいることを確かめて、私は小さく息を吐いた。集中を解くためではなく、些か混乱の域にある脳内を整理する目的で。
「何時に無く、悩んでいますね、《L》」
爪に噛み付いたまま身動きひとつせず画面を見つめる私の背に、ワタリが微かな笑いを交えてそんな言葉を投げて寄越した。
「そう見えるか?ワタリ」
自分でも測りかねる感情をたった一言で言い表されてしまい、奇妙に納得のいかない気分を覚える。わざと不機嫌さを露に見上げてみたが、有能にして親愛なる《W》はいっそ憎らしい程完璧なタイミングで紅茶とケーキを私の前に差し出した。
「ええ、あなたのそのような姿を見るのは久し振りです」
「・・・・・・」
紅茶でもケーキでもなく、その横に盛られていた角砂糖を口に放り込む。甘い塊を噛み砕く私の横で、ワタリは『何時に無く』楽しげな笑顔を見せていた。
誤魔化しても無駄か。
画面の向こう、丁寧かつ迅速に部屋の調査をしていく青年から目を離さぬままに、私はもう一度小さく息を吐いた。
「手馴れていると思わないか、ワタリ」
主語を省いた言葉は、こちらからの通信を遮断している為に『彼』には聞こえていない。
FBIから送られてきた『緋勇龍麻』のデータは、本人が映し出されている画面のすぐ横に配置された別のモニターに表示されていた。
何一つ問題のない、どれを取っても確実な裏付けの取れる経歴。そこから見えるものは、平凡にして善良なる一般市民の素顔だ。しかしもうひとつ、FBIによる適正試験の結果。それを並べると、微かな違和感が見えてくる。
「判断力、適応力、それにあの身体能力・・・年齢と経験を鑑みるなら、彼の能力は【高すぎる】」
もう1つ角砂糖を口に放り込み、噛み砕く。じゃり、という音と強い甘さが口の中に広がり、私の脳を適度に刺激する。
「加えて言うなら、緋勇龍麻・・・彼の存在感は【強すぎる】」
黙って銀のトレイを支えていたワタリが、深く頷いた。
そう、私を悩ませているのは、まさにその【存在感】だった。
「どうにも噛み合わない。高すぎる能力、完璧すぎる経歴、計ったような事件発生と、被害者という立場・・・犯人からの要請が『彼と私の直接連絡』だったことといい、考えれば考えるほどに彼ほど怪しい存在は無いはず、しかし」
言葉を区切り、少し冷めてしまった紅茶に手を伸ばす。齧りかけのものと手付かずのもの、合わせて5.5個の角砂糖を琥珀の中に落とし、溶けていく様を眺めながら、私は3度目の息を吐いた。
しかし。
その言葉の後が上手く続かない。
私のこの違和感はなんなのだろう。
「『しかし、信じたい』・・・そうではありませんか?」
「!」
不意の言葉に頭の後ろを殴られたような衝撃を感じ、私は目を見開いた。ぐるりと首を斜め横に向けると、ワタリの穏やかな笑顔と目が合う。
「・・・私が?」
動揺を隠さず問いかける。するとワタリは、既に分かっているはずだ、とでも言うように笑顔のまま頷いた。
ああ、そうだ、分かっているのだ、私は。
黙り込んだ私の目には、黙々と調査を続ける『彼』の映像が映っている。長い前髪に覆われた両目が、彼の動きに応じて見え隠れする。そこに、演技ではない真剣さが見えるのは、私の勘が衰えた所為ではないだろう。
あの瞳。
深い漆黒の中に黄金の輝きを宿した両眼が端末の画面越しに映し出されたその瞬間、私は確かに『直感で彼を信じた』。
ロジックでは言い表せない『何か』。そんな不確かなものを最優先にしようとする感情と、それを否定する機械的な思考。相反する2つが私を混乱させていたために、私は『悩んで』いたのだ。
「・・・彼には現在2つの可能性がある。1つは本当に『単なるFBI捜査官であり』、『偶然この事件の被害者として選ばれた』という可能性。2つめは、彼が『犯人側より送り込まれた人材』であり『意図的にこの立場を演じている』可能性。理論を優先するならば、後者の疑いが前者を上回る状況・・・。しかし、もう1つ、こう考えるのならば、それは変わってくる。彼が『単なるFBI捜査官でなく』しかし意図的にではなく偶然この事件に『巻き込まれた』人物であったとしたら?」
ワタリに語りかけているのか、独り言であるのか、私自身にも分からない言葉の羅列。
詭弁、と言えなくも無い。現状を都合よく感情に沿わせるため、そんな可能性を考え出したに過ぎないのかもしれない。
けれど。
「ワタリ、私の勘は外れたことがあったか?」
遠まわしな問い掛けに、ワタリが穏やかに笑う。
「いいえ、《L》。1度として」
期待を裏切らない答えが返り、私は満足げな笑いと共にフォークを手に取った。
「勝率が勘のみの賭け・・・初体験ですね」
白い生クリームの上で、たった一つ煌びやかに赤い苺をフォークの先でぷすりと突く。
真っ直ぐ口へと運んだそれは、私の期待を上回る清々しい甘さだった。
「どうやら、これが先へ進むための鍵になるようです」
『・・・見た目からして、明らかに違いますね』
シャッターの下りたホールで、配電盤に仕掛けられた罠と睨み合う。おそらくこれを解除すれば横のシャッターが開く仕組みなのだろう。しかし、無論それだけではない。
「緋勇さん」
呼びかけに、彼がカメラを覗き込む。その瞳が真っ直ぐにこちらを向いていることを確認してから、私は再び口を開いた。
「今までの罠は殺傷力の低い、脅しとも言えるものでした。しかし、『これ』は違う。解除すれば先へ進める代わりに、もし失敗すればペナルティは・・・貴方の命で支払うことになるでしょう」
私の言葉は冷たく突き放したものに聞こえただろう。
たとえ揺ぎ無い真実であっても、最早進むしか道の無い彼にとってそれは『死』に直面していることを他者から再確認させられることなのだ。
だが、彼は決して取り乱しも、怒りもしなかった。ただ静かに頷いて、そして、にこりと笑った。
・・・それは、先程の無邪気な喜びの笑顔ではなく。
『有難うございます《L》。でも大丈夫』
全てを包み込む、慈愛に満ちた・・・まるで、母が子供に向けるような微笑みで。
『俺は、誰も死なせません。・・・俺自身も含めて、絶対に』
カメラが再び罠に向けられる。その一瞬に、私が見たものは強い意思の光を湛えた漆黒の両眼。
【誰も死なせない、自分も死なない】
受け取りようによっては傲慢とも思える言葉だというのに、彼の目はそれが決して嘘ではないと言い切るだけの力を持っていた。
やはり、とこんな状況にも関わらず私の口元が笑う。
「私の勘は、確かなようです」
動き出す指先と、徐々に解体されてゆく罠。要所要所でいくつかの助言を挿みながら、私は最早不要となった『捜査官・緋勇龍麻』のデータを消すために、指先をキーボードへと伸ばした。
END。
※※※※※※
挟もうと思ったギャグが一個も入らなかった・・・(滅)。
そんな黄龍in螺旋、L視点二回目です。あったまいいひとの視点は難しいよ!(馬鹿)
Lと黄龍さんの相関図は現在
L→貴方に賭けてみましょう →黄龍
L←信頼してるが状況は複雑・・←黄龍
という感じになりました。Lコミュはハート2(疑惑度2、信頼度4、興味5)くらいかと(笑)。
疑惑が減ってきたので今後はきっとギャグ多めになります。如何せんうちのキャラはみんな能天気ですゆえ・・・。
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螺旋の黄龍騒動記・3。
2008年2月9日 螺旋の黄龍騒動記(完結)毎度おなじみご注意(しつこいですが安全のため)。
●これは「L the proLogue to DEATH NOTE 〜螺旋の罠」の名前自由入力主人公(新米FBI捜査官)が「東京魔人学園剣風帖」のデフォルト主人公緋勇龍麻だったら、という徹底した個人的趣味の二次創作モドキです。
●加えてこの緋勇さん、先日「九龍妖魔学園紀」の2周目オマケモード「黄龍妖魔学園紀」をクリア済です。
●故に時間軸は2005年9月のお話です。
●世界観はデスノの方ではなく、魔人+九龍をメインとしてますので、この世界のLは「魔人世界に存在するパラレルL」です。故におそらく今後デスノ−ト事件は発生しないか、もしくは発生後人死にほぼ0で速攻解決します。いや死神より多分確実に《力》強いし魔人メンバー。
●そんなパラレルにも程があるものは許し難いという方は、すみませんがスルーの上忘れて下さい。お願いします。
●まぁいいやそれでも、とか寧ろ楽しんでやろうじゃん、という広ーい心の方にニヤッとしてもらえたら本望です。
最後に・・『こんな二次創作に立ち向かう覚悟はありますか?』
<はい(の人は下へスクロール)
<いいえ(の人はリターンお願いします)
では、ゲーム再開です↓
※※※※※※※
不味い。
本当に不味い。
外見はどうにか平静を保って見せているものの、俺はかなり動揺していた。
・・・まぁテロ組織に誘拐された挙句、何処とも知れない場所に監禁され、尚且つその監禁場所にはどうやら対人トラップが多数仕掛けられているようだ、なんて話を目が覚めた途端に聞かされて動揺しない人間も滅多にいないだろう。
勿論俺も、その点に関して『結構大変なことになったな』というくらいの危機感はちゃんと抱いている。
がしかし、俺をこんなにも焦らせている問題はそこではない。
問題とは、『この事件に《L》が介入している』ということだ。
自分で言うのも情けないが、現時点の俺は『犯罪者』だ。
経歴詐称でFBIに潜入し、《M+M機関》へ情報を流す。この行為が法に引っかからないわけがあろうか。いや無い。絶対。
とは言え、決して『悪事』を行っているのではなく、『人の世の常識』では解決できない事件を解決するために陰で動いているだけなのだが・・・そんな理屈、勿論一般的に通用するはずもない。
かくして『脛に傷持つ』俺は、当然目立たず、騒がず、大人しく任期を終えて、こっそりFBIから消える予定だった。
それなのに、よりにもよって。
《L》。
世界の頭脳、と賞賛される名探偵。
個人でありながら国家さえ動かすという、謎に満ちた超天才。
その卓越した推理力と知能において、世界の犯罪率を減少させているとさえ言われるその相手に。
(名前と顔を知られる羽目になるなんて、想定外もいいところだー!!!)
俺は故意か怠慢か、一字一句間違いなく『本名』で俺の潜入準備を整えてくれた鴉室さんを心の底から恨んだ。
今はまだいい。
今の俺は、あくまで『誘拐された被害者』。《L》にとっても救出対象でしかなく、『FBIの捜査官』という肩書き以外に意味は無いはずだ。
けれどもし、この救出劇の中で、その肩書きの裏に隠された俺の『捏造された経歴』に気付かれたら?
・・・悪寒がした。
確かに《M+M機関》の用意した『俺』の『偽の経歴』は完璧に等しかった。出生、学歴は勿論、アルバイト先や行きつけのカフェに至るまで隙無く設定があり、その証言を裏付ける友人や教師、隣人などの役どころを演じる人間まで揃えてあったのだから恐れ入る。
普通なら、決して疑われることなど無いだろう。
けれど、相手は《L》だ。
FBIに来るまでその存在さえ知らなかったが、たった3ヶ月でかの名探偵の有能さ・・・いや、敢えてここは恐ろしさというべきか・・・は骨の髄まで叩き込まれていた。
僅かなキーワードから的確に真実を導き出す彼(《L》に関しては本名はおろか性別、年齢すら知られていないのだから「彼」というのは俺が適当に言っているだけだが)の前では、一切の隠し事も企みも通用しないのだと。
そんな相手とこれから脱出まで(通信端末越しとは言えども)マンツーマン。
いくら村雨やら御門やらとの付き合いで、ポーカーフェイスにも腹芸にも多少鍛えられているとはいえ、基本的に俺は嘘が下手だ。自分でもそう思うし、人にも言われるので間違いないと思う。
そんな俺があんな相手に疑われない自信なんて、正直さっぱりない。
不味い。
本当に、不味いなぁ・・・。
救出されたと同時に『偽FBI捜査官、逮捕します』なんてことになったら目も当てられない。
うう、鴉室さんの馬鹿ー!!俺の人生どーしてくれるんですかー!
『・・・今、よろしいですか緋勇さん』
全ての元凶、某宇宙刑事への文句を心の中で絶叫していた俺は、突然端末から流れた呼びかけに、本気で吃驚した。
なんとか顔にも態度にも出さずには済んだけれど、ちゃんと意識してなかったらちょっとくらい飛び上がっていたかもしれない。
「はい、なんでしょうか」
努めて平静を装い、端末を覗き込む。
端末の画面は相変わらず真っ白で中央に《L》の飾り文字があるだけだったが、その向こう側から俺へと向けられる視線の鋭さが感じられた。
気のせいじゃない。
射抜くような強い視線。
(これはやっぱり・・・疑われてるのかな?)
内心冷や汗の俺を知ってか知らずか、《L》は一定して感情を表現することの無い機械音声で言った。
『顔を見せていただけますか』
「・・・・・・え?」
呼びかけられたときの比ではなく、心臓が跳ね上がる。
咄嗟に間が抜けた疑問符を吐き出してからやばい、と思ったけど後の祭りだ。
『いえ、単に確認です。先程から光量の不足で貴方の姿がはっきりと見えていない・・・。本当に貴方が緋勇さんなのか、失礼ですが調査を開始する前に確信を持っておきたいので』
理屈は完璧だ。
ここにいる『俺』が誘拐された被害者ではなく、犯人側の人間とすり替えられている可能性は否定できない。誘拐した捜査官は早々に殺害し、替え玉が《L》とコンタクトを取って犯人側に都合よく動く。そんな企みを防ぐ為にも、当然今通信機の向こう側にいる『俺』が間違いなく誘拐された捜査官であり、《L》側の人間だということを確認しなければならないのだ。
だがしかし。
(違う!絶対それだけじゃないー!!)
あくまで勘だが、《L》は何か違和感を既に感じ取っていて、こちらを試しているように思う。
あーそうだ、良く考えてみれば誘拐してからすり替えるんじゃなく、最初から犯人側に通じている捜査官を潜入させておいて狂言誘拐って手もあるんだ。当然そんな可能性だって《L》は探ってるに違いない。
待てよ。その調査段階で引っかかったとしたら、最悪テログループの仲間扱いか俺!あーもう、無事脱出できたら絶対鴉室さんには秘拳フルコース喰らわせてやるー!!
・・・・なんて脳内で一気に色々考えたものの、結局この状況下で俺が出来ることはただ1つ。
「分かりました、《L》」
何も問題なんてありませんよと素直に《L》の指示に従ってみせるしかない。
うう、なんでこんな疚しい思いをしなければならないんだ、俺。
考えてみれば結構酷い目にあってる被害者なのに。
泣き言を内に秘め、通信端末を持って部屋で唯一の光源である卓上ランプの前へ向かう。それほど明るいわけでもないけれど、顔を判別するくらいは問題ないはずだ。音を立てずに深呼吸し、心を落ち着けてから、俺はカメラの前に顔を向けた。
「確認できますか?」
自然に振舞っているつもりだけど、表情硬直して無いだろうか。かなり心臓ばくばく言ってるからなぁ。心音まで感知するような高性能マイクじゃなくて本当に良かった・・・。
『緋勇さん』
ぎく。
機械音声に名前を呼ばれ、反射的に身が竦みそうになる。
トラウマになりそうだな、これ。
「はい」
カメラに向かったまま返事をすると、再び硬直しそうな指示が来た。
『前髪を上げていただきたいのですが』
・・・そう来たか。
確かに俺は意図的に前髪を伸ばし、瞳を若干隠すようにしている。
理由はいくつかあるが、最も大きなものは『印象が薄れる』からだ。
《黄龍》の力が関係しているのか、俺の目は非常に強い印象を相手に残すらしい。好感を持ってもらえる場合もあるようだけど、不良に喧嘩を売られたり、変な人に声をかけられたりということも多くて、困った挙句に師匠の助言に従う形で前髪を伸ばすようになったというわけ。
勿論完全に目が隠れているというわけでもないので、本当に印象を薄める程度の効力しかないのだけれど・・・って、まぁそれは今どうでもいい話か。
今更じたばたしてもしょうがない、毒を喰らわば皿までだ。
「これでどうでしょうか?」
半ば開き直りの心境で、前髪をがっと掻きあげる。
カメラの向こうの《L》を正面から見つめるつもりで、俺は両の目を真っ直ぐに端末へ向けた。
『・・・・・・・』
「・・・・・・・」
うう、沈黙が痛い。何を考えての沈黙だろう。
感情が読めない相手と相対するのは怖いものだったんだなぁ・・・。
『緋勇さん』
「・・・はい」
何度やったっけ、このやり取り。
段々開き直ってきたのか、そんなことを考えてた俺は、次の瞬間カメラの前で本当に固まった。
『美人ですね』
・・・・・・・・・・・・・はい?
端末画面にも負けないくらい真っ白になりかけた俺の脳が、辛うじて停止する前に踏み止まる。
いやいやちょっと待て。
どういう意味だそれは。
『とても整った顔立ちをされています』
「そう・・・ですか?えーと、有難うございます・・・」
もしかして、褒められてるのだろうか。
とりあえずお礼を言ってみたが、はっきり言って脳内はそれどころじゃない状態だった。
他愛も無い雑談?
・・・まさか。《L》に限って、そんな事は有り得ない。
そう思った俺の直感は当った。
『その美貌で、何故FBIに?差支えなければお聞かせ願えますか』
本題は、そこか・・・!
美貌云々はどう考えても皮肉だけど(どーせ俺は母さん似で女顔の上童顔ですよっ)、雑談を装って話を核心に持っていく運びの巧さに愕然とする。
あーあ、間違いない、これは完全に探られてる。
こうなったらヤケだ、正面から行くしかない。どのみちどっかの陰陽師やギャンブラーや宇宙刑事なんかに引っ掛けられる程度の俺が、《世界の頭脳》なんて化け物クラス相手に頭脳戦出来るわけあるか!
「正直、私的なことなので申し上げるのがお恥ずかしいですが」
『はい』
「FBIに憧れるヒーローオタクから隠し撮り写真をネタに脅迫されたのが原因です」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
よし、絶句した。
くだらないけれどやられっぱなしだったところにやっと有効一本を取ったような気分で、ちょっとだけ嬉しい。
本当のことしか言ってないしな。冗談と取るか真実と取るかは《L》に任せよう。
『それは・・・災難でしたね』
・・・真実と取られたらしい。
「いえ、入ってみたら遣り甲斐もあったので結果オーライですが」
とりあえず正直にそう答えると、妙に納得したような気配がした。
『オーライですか。では脅迫者に対する告訴は行っていらっしゃらない、と』
うーん。
有効を取ったと思ったのもつかの間だ。返しがとにかく早い。
なんかちょっと楽しくなってきたな、この人との会話。
「はい。まぁ次に会ったら殴っとこうかな、とは思ってますが」
『そうですね。当然の報復です。しかし脅迫材料を増やすような殴り方だけはしない方がいいと思いますよ』
「分かりました、物分りが良くなっていただける程度に」
『はい、上出来です』
「・・・・・」
『・・・・・』
途切れた会話の直後、端末の向こうで微かな笑いの気配がした。
『お時間を取らせましたね、緋勇さん。では、今度こそ始めましょうか』
《L》の『声』が響く。
相変わらず抑揚の無い機械音声だけれど、何故か今はその中に感情を読み取ることが出来た。
うん。
俺、この人のこと結構好きだな、きっと。
「はい、《L》」
勿論、俺は正体がばれるわけにはいかないし、相手も犯罪を見逃すわけにはいかないだろうから、どこまでも緊張感の続く距離であることは変わりないけれど。
それでも俺は、この《星の巡り》にとことん付き合う気になっていた。
さてと、テログループの監禁場所からの脱出と、世界の名探偵の追及をかわすのと・・・果たしてどちらが本当に大変かな?
※※※※※
またしてもうっかり続けてしまいました黄龍in螺旋。
しかしいくらSSモドキとはいえ3回も書いてまだ最初の部屋ってどんだけ進行しないんだ。
そして続けると情景描写がオールネタバレになる危険性に今更ながら気が付いてみたり。
・・・どうするかな・・・・(汗)
●これは「L the proLogue to DEATH NOTE 〜螺旋の罠」の名前自由入力主人公(新米FBI捜査官)が「東京魔人学園剣風帖」のデフォルト主人公緋勇龍麻だったら、という徹底した個人的趣味の二次創作モドキです。
●加えてこの緋勇さん、先日「九龍妖魔学園紀」の2周目オマケモード「黄龍妖魔学園紀」をクリア済です。
●故に時間軸は2005年9月のお話です。
●世界観はデスノの方ではなく、魔人+九龍をメインとしてますので、この世界のLは「魔人世界に存在するパラレルL」です。故におそらく今後デスノ−ト事件は発生しないか、もしくは発生後人死にほぼ0で速攻解決します。いや死神より多分確実に《力》強いし魔人メンバー。
●そんなパラレルにも程があるものは許し難いという方は、すみませんがスルーの上忘れて下さい。お願いします。
●まぁいいやそれでも、とか寧ろ楽しんでやろうじゃん、という広ーい心の方にニヤッとしてもらえたら本望です。
最後に・・『こんな二次創作に立ち向かう覚悟はありますか?』
<はい(の人は下へスクロール)
<いいえ(の人はリターンお願いします)
では、ゲーム再開です↓
※※※※※※※
不味い。
本当に不味い。
外見はどうにか平静を保って見せているものの、俺はかなり動揺していた。
・・・まぁテロ組織に誘拐された挙句、何処とも知れない場所に監禁され、尚且つその監禁場所にはどうやら対人トラップが多数仕掛けられているようだ、なんて話を目が覚めた途端に聞かされて動揺しない人間も滅多にいないだろう。
勿論俺も、その点に関して『結構大変なことになったな』というくらいの危機感はちゃんと抱いている。
がしかし、俺をこんなにも焦らせている問題はそこではない。
問題とは、『この事件に《L》が介入している』ということだ。
自分で言うのも情けないが、現時点の俺は『犯罪者』だ。
経歴詐称でFBIに潜入し、《M+M機関》へ情報を流す。この行為が法に引っかからないわけがあろうか。いや無い。絶対。
とは言え、決して『悪事』を行っているのではなく、『人の世の常識』では解決できない事件を解決するために陰で動いているだけなのだが・・・そんな理屈、勿論一般的に通用するはずもない。
かくして『脛に傷持つ』俺は、当然目立たず、騒がず、大人しく任期を終えて、こっそりFBIから消える予定だった。
それなのに、よりにもよって。
《L》。
世界の頭脳、と賞賛される名探偵。
個人でありながら国家さえ動かすという、謎に満ちた超天才。
その卓越した推理力と知能において、世界の犯罪率を減少させているとさえ言われるその相手に。
(名前と顔を知られる羽目になるなんて、想定外もいいところだー!!!)
俺は故意か怠慢か、一字一句間違いなく『本名』で俺の潜入準備を整えてくれた鴉室さんを心の底から恨んだ。
今はまだいい。
今の俺は、あくまで『誘拐された被害者』。《L》にとっても救出対象でしかなく、『FBIの捜査官』という肩書き以外に意味は無いはずだ。
けれどもし、この救出劇の中で、その肩書きの裏に隠された俺の『捏造された経歴』に気付かれたら?
・・・悪寒がした。
確かに《M+M機関》の用意した『俺』の『偽の経歴』は完璧に等しかった。出生、学歴は勿論、アルバイト先や行きつけのカフェに至るまで隙無く設定があり、その証言を裏付ける友人や教師、隣人などの役どころを演じる人間まで揃えてあったのだから恐れ入る。
普通なら、決して疑われることなど無いだろう。
けれど、相手は《L》だ。
FBIに来るまでその存在さえ知らなかったが、たった3ヶ月でかの名探偵の有能さ・・・いや、敢えてここは恐ろしさというべきか・・・は骨の髄まで叩き込まれていた。
僅かなキーワードから的確に真実を導き出す彼(《L》に関しては本名はおろか性別、年齢すら知られていないのだから「彼」というのは俺が適当に言っているだけだが)の前では、一切の隠し事も企みも通用しないのだと。
そんな相手とこれから脱出まで(通信端末越しとは言えども)マンツーマン。
いくら村雨やら御門やらとの付き合いで、ポーカーフェイスにも腹芸にも多少鍛えられているとはいえ、基本的に俺は嘘が下手だ。自分でもそう思うし、人にも言われるので間違いないと思う。
そんな俺があんな相手に疑われない自信なんて、正直さっぱりない。
不味い。
本当に、不味いなぁ・・・。
救出されたと同時に『偽FBI捜査官、逮捕します』なんてことになったら目も当てられない。
うう、鴉室さんの馬鹿ー!!俺の人生どーしてくれるんですかー!
『・・・今、よろしいですか緋勇さん』
全ての元凶、某宇宙刑事への文句を心の中で絶叫していた俺は、突然端末から流れた呼びかけに、本気で吃驚した。
なんとか顔にも態度にも出さずには済んだけれど、ちゃんと意識してなかったらちょっとくらい飛び上がっていたかもしれない。
「はい、なんでしょうか」
努めて平静を装い、端末を覗き込む。
端末の画面は相変わらず真っ白で中央に《L》の飾り文字があるだけだったが、その向こう側から俺へと向けられる視線の鋭さが感じられた。
気のせいじゃない。
射抜くような強い視線。
(これはやっぱり・・・疑われてるのかな?)
内心冷や汗の俺を知ってか知らずか、《L》は一定して感情を表現することの無い機械音声で言った。
『顔を見せていただけますか』
「・・・・・・え?」
呼びかけられたときの比ではなく、心臓が跳ね上がる。
咄嗟に間が抜けた疑問符を吐き出してからやばい、と思ったけど後の祭りだ。
『いえ、単に確認です。先程から光量の不足で貴方の姿がはっきりと見えていない・・・。本当に貴方が緋勇さんなのか、失礼ですが調査を開始する前に確信を持っておきたいので』
理屈は完璧だ。
ここにいる『俺』が誘拐された被害者ではなく、犯人側の人間とすり替えられている可能性は否定できない。誘拐した捜査官は早々に殺害し、替え玉が《L》とコンタクトを取って犯人側に都合よく動く。そんな企みを防ぐ為にも、当然今通信機の向こう側にいる『俺』が間違いなく誘拐された捜査官であり、《L》側の人間だということを確認しなければならないのだ。
だがしかし。
(違う!絶対それだけじゃないー!!)
あくまで勘だが、《L》は何か違和感を既に感じ取っていて、こちらを試しているように思う。
あーそうだ、良く考えてみれば誘拐してからすり替えるんじゃなく、最初から犯人側に通じている捜査官を潜入させておいて狂言誘拐って手もあるんだ。当然そんな可能性だって《L》は探ってるに違いない。
待てよ。その調査段階で引っかかったとしたら、最悪テログループの仲間扱いか俺!あーもう、無事脱出できたら絶対鴉室さんには秘拳フルコース喰らわせてやるー!!
・・・・なんて脳内で一気に色々考えたものの、結局この状況下で俺が出来ることはただ1つ。
「分かりました、《L》」
何も問題なんてありませんよと素直に《L》の指示に従ってみせるしかない。
うう、なんでこんな疚しい思いをしなければならないんだ、俺。
考えてみれば結構酷い目にあってる被害者なのに。
泣き言を内に秘め、通信端末を持って部屋で唯一の光源である卓上ランプの前へ向かう。それほど明るいわけでもないけれど、顔を判別するくらいは問題ないはずだ。音を立てずに深呼吸し、心を落ち着けてから、俺はカメラの前に顔を向けた。
「確認できますか?」
自然に振舞っているつもりだけど、表情硬直して無いだろうか。かなり心臓ばくばく言ってるからなぁ。心音まで感知するような高性能マイクじゃなくて本当に良かった・・・。
『緋勇さん』
ぎく。
機械音声に名前を呼ばれ、反射的に身が竦みそうになる。
トラウマになりそうだな、これ。
「はい」
カメラに向かったまま返事をすると、再び硬直しそうな指示が来た。
『前髪を上げていただきたいのですが』
・・・そう来たか。
確かに俺は意図的に前髪を伸ばし、瞳を若干隠すようにしている。
理由はいくつかあるが、最も大きなものは『印象が薄れる』からだ。
《黄龍》の力が関係しているのか、俺の目は非常に強い印象を相手に残すらしい。好感を持ってもらえる場合もあるようだけど、不良に喧嘩を売られたり、変な人に声をかけられたりということも多くて、困った挙句に師匠の助言に従う形で前髪を伸ばすようになったというわけ。
勿論完全に目が隠れているというわけでもないので、本当に印象を薄める程度の効力しかないのだけれど・・・って、まぁそれは今どうでもいい話か。
今更じたばたしてもしょうがない、毒を喰らわば皿までだ。
「これでどうでしょうか?」
半ば開き直りの心境で、前髪をがっと掻きあげる。
カメラの向こうの《L》を正面から見つめるつもりで、俺は両の目を真っ直ぐに端末へ向けた。
『・・・・・・・』
「・・・・・・・」
うう、沈黙が痛い。何を考えての沈黙だろう。
感情が読めない相手と相対するのは怖いものだったんだなぁ・・・。
『緋勇さん』
「・・・はい」
何度やったっけ、このやり取り。
段々開き直ってきたのか、そんなことを考えてた俺は、次の瞬間カメラの前で本当に固まった。
『美人ですね』
・・・・・・・・・・・・・はい?
端末画面にも負けないくらい真っ白になりかけた俺の脳が、辛うじて停止する前に踏み止まる。
いやいやちょっと待て。
どういう意味だそれは。
『とても整った顔立ちをされています』
「そう・・・ですか?えーと、有難うございます・・・」
もしかして、褒められてるのだろうか。
とりあえずお礼を言ってみたが、はっきり言って脳内はそれどころじゃない状態だった。
他愛も無い雑談?
・・・まさか。《L》に限って、そんな事は有り得ない。
そう思った俺の直感は当った。
『その美貌で、何故FBIに?差支えなければお聞かせ願えますか』
本題は、そこか・・・!
美貌云々はどう考えても皮肉だけど(どーせ俺は母さん似で女顔の上童顔ですよっ)、雑談を装って話を核心に持っていく運びの巧さに愕然とする。
あーあ、間違いない、これは完全に探られてる。
こうなったらヤケだ、正面から行くしかない。どのみちどっかの陰陽師やギャンブラーや宇宙刑事なんかに引っ掛けられる程度の俺が、《世界の頭脳》なんて化け物クラス相手に頭脳戦出来るわけあるか!
「正直、私的なことなので申し上げるのがお恥ずかしいですが」
『はい』
「FBIに憧れるヒーローオタクから隠し撮り写真をネタに脅迫されたのが原因です」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
よし、絶句した。
くだらないけれどやられっぱなしだったところにやっと有効一本を取ったような気分で、ちょっとだけ嬉しい。
本当のことしか言ってないしな。冗談と取るか真実と取るかは《L》に任せよう。
『それは・・・災難でしたね』
・・・真実と取られたらしい。
「いえ、入ってみたら遣り甲斐もあったので結果オーライですが」
とりあえず正直にそう答えると、妙に納得したような気配がした。
『オーライですか。では脅迫者に対する告訴は行っていらっしゃらない、と』
うーん。
有効を取ったと思ったのもつかの間だ。返しがとにかく早い。
なんかちょっと楽しくなってきたな、この人との会話。
「はい。まぁ次に会ったら殴っとこうかな、とは思ってますが」
『そうですね。当然の報復です。しかし脅迫材料を増やすような殴り方だけはしない方がいいと思いますよ』
「分かりました、物分りが良くなっていただける程度に」
『はい、上出来です』
「・・・・・」
『・・・・・』
途切れた会話の直後、端末の向こうで微かな笑いの気配がした。
『お時間を取らせましたね、緋勇さん。では、今度こそ始めましょうか』
《L》の『声』が響く。
相変わらず抑揚の無い機械音声だけれど、何故か今はその中に感情を読み取ることが出来た。
うん。
俺、この人のこと結構好きだな、きっと。
「はい、《L》」
勿論、俺は正体がばれるわけにはいかないし、相手も犯罪を見逃すわけにはいかないだろうから、どこまでも緊張感の続く距離であることは変わりないけれど。
それでも俺は、この《星の巡り》にとことん付き合う気になっていた。
さてと、テログループの監禁場所からの脱出と、世界の名探偵の追及をかわすのと・・・果たしてどちらが本当に大変かな?
※※※※※
またしてもうっかり続けてしまいました黄龍in螺旋。
しかしいくらSSモドキとはいえ3回も書いてまだ最初の部屋ってどんだけ進行しないんだ。
そして続けると情景描写がオールネタバレになる危険性に今更ながら気が付いてみたり。
・・・どうするかな・・・・(汗)
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螺旋の黄龍騒動記・2。
2008年2月8日 螺旋の黄龍騒動記(完結)毎度おなじみご注意(長いですよ)。
●これは「L the proLogue to DEATH NOTE 〜螺旋の罠」の名前自由入力主人公(新米FBI捜査官)が「東京魔人学園剣風帖」のデフォルト主人公緋勇龍麻だったら、というそりゃもう個人的趣味オンリーの二次創作モドキです。
●加えてこの緋勇さんは先日「九龍妖魔学園紀」の2周目オマケモード「黄龍妖魔学園紀」をクリア済です。
●故に時間軸は2005年9月となっています。
●世界観はデスノートの方ではなく、魔人(剣風)をメインとしてますので、この世界のLは「魔人世界に存在するパラレルL」です。故におそらく今後デスノ−ト事件は発生しないと思われます。いやなんせ死神ですら平気で使い魔にしそうな人とか、時空越えて死者復活させる人がいますんで魔人世界。
●そんな滅茶苦茶なものは不快だという方は、すみません。どうぞこんなものは忘れてリターンをお願いします。
●それでもいいよ、とか寧ろどんと来いや!という方のみニヤリとしていただければ幸いです。
最後に・・『こんな二次創作に立ち向かう覚悟はありますか?』
<はい(の人は下へスクロール)
<いいえ(の人はリターンで)
では、ゲーム再開です↓
※※※※※※※
「またかぁぁーーーーー!」
・・・唐突に放たれた叫び声があまりにも予想外だったために、私はほんの一瞬ではあるが放心していたように思う。
横に控えていたワタリに視線を向けてみたが、老練なる彼ですら私同様にどういった反応をすべきか図りかねているようだった。
FBIの捜査官とはいえ、『彼』はまだ正式配属から3ヶ月しか経っていない新人だという。テロ組織に誘拐された上、何処とも知れない場所に監禁されているという自分の状況を理解した時に、パニックになる可能性は少なからずあるだろうとは思っていた。
しかし、『またか』とは、どういう意味だろうか。
無論、現状に混乱して出た叫びということも考えられる。が、それにしては、そこに込められたやり切れなさというか、怒りというか・・そんな感情がはっきりとし過ぎている。
「・・・ワタリ、私は彼と仕事をしたことがあったでしょうか」
「いいえ、そういった記録はございません、《L》」
ワタリの返答に、ですよね、と頷く。
興味のある事柄以外は早々に脳内から排除してしまう私ではあるが、《L》として接触した相手のデータをまったく記憶していないなどという事は有り得ない。
では、『またか』というのは私に関することではない、ということか。
そこまで考えた時、モニターの向こうで『彼』が一転、落ち着いた口調で語りかけてきた。
『・・・失礼しました。ちょっと気持ちを切り替えたかったもので』
先程の叫びとは随分と異なる穏やかな声は、取り乱したことを恥じているのか、幾分小さい。
「そうですか。・・・切り替わりましたか?」
とりあえずそう聞き返してみた私に、返された言葉はシンプルだった。
『ええ、準備完了です』
完了されているのならば、仕方が無い。
多少引っかかりはしたものの、私は『またか』の意味を追求することを一先ず忘れて『彼』への状況説明を始めた。
あの作戦日から既に3日が経過しているということ。
犯人は、私こと《L》宛てに通信端末を送りつけ、人質である『彼』と私の直接通信のみで脱出させろと言ってきているということ。
あらゆる手段を講じてはいるが、未だ監禁場所については特定できていないということ。
「つまり、残念ながら現状ではあなた自身の力でそこから脱出していただくしか方法は無いと言えます」
冷酷とも取れるだろう私の言葉を受け、『彼』がまた何か特異な反応を返すのではないだろうかとも思っていたが、薄暗い画面の向こうに映る人影はさほど驚いた様子も無く『分かりました』と答えた。
どうやら『切り替えた』というのは本当のようだ。
正直なところ、話が早くて有り難い。相手方から正確な制限時間については何の通告も無かったが、そうそう多くの時間が与えられているはずも無いだろう。
それに・・・。
「では、早速動きましょう。・・・と言いたいところですが、1つ確認しておきたいことがあります」
『なんでしょうか』
聞き返す声はしっかりとしている。が、しかし、『彼』は既に3日間という拘束時間を経ているのだ。
「あなたの身体状況です。体力、運動能力、思考能力など、あらゆる点において、通常より低下を感じる部分、もしくは明確でなくとも違和感を感じる部分はありますか」
私に言われ、改めて『彼』も自分が長時間の拘束を受けていたことを思い出したのだろう。はっとした気配が端末越しにも伝わる。
「誘拐されてからの3日間について、何か記憶は?」
意識が有ったのか無かったのかによっても、現状は大いに異なる。重ねて問いかけた私に対して、『彼』は僅かな時間、沈黙と共に記憶を辿り答えを出した。
『いいえ。現場で強い衝撃・・・おそらくスタンガンかと思いますが、それを受けて意識を失ってからはまったく』
では、その後は投薬により強制的に意識を失わされていた可能性が高い。
そんな私の思考と同調したかのように、端末の向こうで『彼』はシャツの腕をまくり、自身の腕を確認してこくりと頷いた。
『点滴の針の後があります。空腹感は無いので、睡眠薬と同時に栄養剤も投与されていたようですね。思考力については、自分で感じられる範囲内での判断ですが、投薬の影響はないようです』
「なるほど・・・」
私は少なからず『彼』の適応力に感心していた。
時間があまり無いことを理解しているのだろうか、無駄なく必要なことだけを口にしている。
FBIから連絡が来た時、『彼』に対しての反応がやや過剰だったのは、こうした有能さを惜しんでのことだろうか。
「では、身体はどうでしょうか?」
意識は問題が無くとも、拘束による筋力低下や薬物による神経の損傷等が発生していないとも限らない。現状では誰一人、実質的に手助けを出来る者がいないのだ。出来るだけ『彼』には自身の身体能力を把握しておいて貰わねばならない。
すると、『彼』は軽く両手を握るような仕草を2度ほど繰り返した後、私に告げた。
『確認します。30秒ほど時間を下さい』
「分かりました」
私がそう答えると同時に、『彼』は立ち上がった。
辛うじてシルエットのみが分かる画面の中で、予想より小柄に見える体躯が背筋を伸ばす。
直後のことだ。
「・・・!」
空気の切れる音がした。
画面の向こうの影が、事も無げに天へ向けた右足で自在に空間を切り裂く。続いて左足、右腕、左腕。
しなやかに伸びる四肢全てを自在に操り、思うままに空間を支配するその動作は、高速の鋭さを持ちながらどこか柔らかく、舞踊を思わせた。
人の動きとは、こんなにも鮮やかなものだったろうか。
『お待たせしました』
その動作が静かに停止し『彼』が端末の前へ戻ってきた時、私は惜しいとすら感じていた。
時間を見れば、きっかり30秒が経過している。
「影響は、無いようですね」
『ええ。流石に3日間身体を動かしていない分、若干の衰えは感じましたが、軽く調整しましたので』
「・・・あの動きで、ですか」
思わず眉根を寄せてモニターを凝視してしまう。
確かにスポーツ選手などは1日身体を動かさなければ、その分を取り戻すために3日はかかる、などとよく言うが。では、衰えていなければ『彼』はどれだけの運動能力を発揮できると言うのだろうか。
しかも、今の動きで軽く、とは。
「何か、武術をご経験ですか」
時間が無いと思いつつも、私はその質問を投げかけることだけは自身に許した。
FBIからの資料と、この通信端末が届いたのは、ほんの数時間前のことだ。無論、あらゆるデータは即時ワタリによって収集されているが、最優先されているのは人質である『彼』の居場所や犯人の情報であるため、私の元に届いている『彼』自身のデータは名前や簡単な経歴、そして顔写真程度のものである。
しかもその顔写真すら、何故こんなものしか寄越さないのだろうかといぶかしむほどに小さい証明写真のコピーでしかない。なおかつその写真が、故意か怠慢か長い前髪に両眼がほぼ覆われているものであると来ては、何か悪意すら感じる始末だ。
つまるところ、私は『彼』を知らない。
そして。
『はい、日本の古流武術を幼少から』
「そうですか。美しい動きだったので、一瞬日本舞踊かとも思ってしまいました」
『あ、はい。日本舞踊も嗜み程度ですが』
「・・・そうでしたか」
なかなかに意表を突くこの青年に、『救出しなければならない人質』という以上の興味を持ち始めている。
根拠の無い勘。
しかし、『彼』には単なる新米捜査官以上の何かが隠されているはずだ。
そんな確信にも近いものが、私の中に芽生え始めている。
(ワタリ)
私の視線を受け、ワタリが無言で頷いた。その背がパソコンへと向かう。数分とかからず、『彼』についての詳しい資料が私の手元に届くだろう。
そこに何か、ヒントがあるだろうか。
(この事件の?)
問いかける私自身に、今の私はまだ無言で爪を噛むしかなかった。
「では、そろそろ始めましょう『緋勇さん』」
私の声に薄暗いモニターの向こう側で青年が短く『はい』と答え、それから一瞬、戸惑うような気配の後にこう聞いた。
『・・・《Mr.L》でよろしいでしょうか』
私の唇が、軽く笑いの形に引き上がる。
私自身すら知らぬうちに浮かんだそれは、決して不快なものではなく。
「《L》と呼んで下さい」
まるで、これから始まる何かを待ち望む子供のような笑みだった。
END。
※※※※※
感想頂いたりしたもので、うっかり調子に乗って続いてしまいました(笑)。ありがとうございますー!!!
今回はL視点です。パラレルな剣Lですが。(予防線)
今現在多分『 信頼度ー1 疑惑度1 興味4 』(5段階)くらいなLから黄龍への相関図。てかそりゃそうだ怪しいよ黄龍さん・・・。
この先本当にちゃんと仲良くなったりするのでしょうか。書いた本人にも謎です。そしてまだ続くのでしょうか。それも謎です。
●これは「L the proLogue to DEATH NOTE 〜螺旋の罠」の名前自由入力主人公(新米FBI捜査官)が「東京魔人学園剣風帖」のデフォルト主人公緋勇龍麻だったら、というそりゃもう個人的趣味オンリーの二次創作モドキです。
●加えてこの緋勇さんは先日「九龍妖魔学園紀」の2周目オマケモード「黄龍妖魔学園紀」をクリア済です。
●故に時間軸は2005年9月となっています。
●世界観はデスノートの方ではなく、魔人(剣風)をメインとしてますので、この世界のLは「魔人世界に存在するパラレルL」です。故におそらく今後デスノ−ト事件は発生しないと思われます。いやなんせ死神ですら平気で使い魔にしそうな人とか、時空越えて死者復活させる人がいますんで魔人世界。
●そんな滅茶苦茶なものは不快だという方は、すみません。どうぞこんなものは忘れてリターンをお願いします。
●それでもいいよ、とか寧ろどんと来いや!という方のみニヤリとしていただければ幸いです。
最後に・・『こんな二次創作に立ち向かう覚悟はありますか?』
<はい(の人は下へスクロール)
<いいえ(の人はリターンで)
では、ゲーム再開です↓
※※※※※※※
「またかぁぁーーーーー!」
・・・唐突に放たれた叫び声があまりにも予想外だったために、私はほんの一瞬ではあるが放心していたように思う。
横に控えていたワタリに視線を向けてみたが、老練なる彼ですら私同様にどういった反応をすべきか図りかねているようだった。
FBIの捜査官とはいえ、『彼』はまだ正式配属から3ヶ月しか経っていない新人だという。テロ組織に誘拐された上、何処とも知れない場所に監禁されているという自分の状況を理解した時に、パニックになる可能性は少なからずあるだろうとは思っていた。
しかし、『またか』とは、どういう意味だろうか。
無論、現状に混乱して出た叫びということも考えられる。が、それにしては、そこに込められたやり切れなさというか、怒りというか・・そんな感情がはっきりとし過ぎている。
「・・・ワタリ、私は彼と仕事をしたことがあったでしょうか」
「いいえ、そういった記録はございません、《L》」
ワタリの返答に、ですよね、と頷く。
興味のある事柄以外は早々に脳内から排除してしまう私ではあるが、《L》として接触した相手のデータをまったく記憶していないなどという事は有り得ない。
では、『またか』というのは私に関することではない、ということか。
そこまで考えた時、モニターの向こうで『彼』が一転、落ち着いた口調で語りかけてきた。
『・・・失礼しました。ちょっと気持ちを切り替えたかったもので』
先程の叫びとは随分と異なる穏やかな声は、取り乱したことを恥じているのか、幾分小さい。
「そうですか。・・・切り替わりましたか?」
とりあえずそう聞き返してみた私に、返された言葉はシンプルだった。
『ええ、準備完了です』
完了されているのならば、仕方が無い。
多少引っかかりはしたものの、私は『またか』の意味を追求することを一先ず忘れて『彼』への状況説明を始めた。
あの作戦日から既に3日が経過しているということ。
犯人は、私こと《L》宛てに通信端末を送りつけ、人質である『彼』と私の直接通信のみで脱出させろと言ってきているということ。
あらゆる手段を講じてはいるが、未だ監禁場所については特定できていないということ。
「つまり、残念ながら現状ではあなた自身の力でそこから脱出していただくしか方法は無いと言えます」
冷酷とも取れるだろう私の言葉を受け、『彼』がまた何か特異な反応を返すのではないだろうかとも思っていたが、薄暗い画面の向こうに映る人影はさほど驚いた様子も無く『分かりました』と答えた。
どうやら『切り替えた』というのは本当のようだ。
正直なところ、話が早くて有り難い。相手方から正確な制限時間については何の通告も無かったが、そうそう多くの時間が与えられているはずも無いだろう。
それに・・・。
「では、早速動きましょう。・・・と言いたいところですが、1つ確認しておきたいことがあります」
『なんでしょうか』
聞き返す声はしっかりとしている。が、しかし、『彼』は既に3日間という拘束時間を経ているのだ。
「あなたの身体状況です。体力、運動能力、思考能力など、あらゆる点において、通常より低下を感じる部分、もしくは明確でなくとも違和感を感じる部分はありますか」
私に言われ、改めて『彼』も自分が長時間の拘束を受けていたことを思い出したのだろう。はっとした気配が端末越しにも伝わる。
「誘拐されてからの3日間について、何か記憶は?」
意識が有ったのか無かったのかによっても、現状は大いに異なる。重ねて問いかけた私に対して、『彼』は僅かな時間、沈黙と共に記憶を辿り答えを出した。
『いいえ。現場で強い衝撃・・・おそらくスタンガンかと思いますが、それを受けて意識を失ってからはまったく』
では、その後は投薬により強制的に意識を失わされていた可能性が高い。
そんな私の思考と同調したかのように、端末の向こうで『彼』はシャツの腕をまくり、自身の腕を確認してこくりと頷いた。
『点滴の針の後があります。空腹感は無いので、睡眠薬と同時に栄養剤も投与されていたようですね。思考力については、自分で感じられる範囲内での判断ですが、投薬の影響はないようです』
「なるほど・・・」
私は少なからず『彼』の適応力に感心していた。
時間があまり無いことを理解しているのだろうか、無駄なく必要なことだけを口にしている。
FBIから連絡が来た時、『彼』に対しての反応がやや過剰だったのは、こうした有能さを惜しんでのことだろうか。
「では、身体はどうでしょうか?」
意識は問題が無くとも、拘束による筋力低下や薬物による神経の損傷等が発生していないとも限らない。現状では誰一人、実質的に手助けを出来る者がいないのだ。出来るだけ『彼』には自身の身体能力を把握しておいて貰わねばならない。
すると、『彼』は軽く両手を握るような仕草を2度ほど繰り返した後、私に告げた。
『確認します。30秒ほど時間を下さい』
「分かりました」
私がそう答えると同時に、『彼』は立ち上がった。
辛うじてシルエットのみが分かる画面の中で、予想より小柄に見える体躯が背筋を伸ばす。
直後のことだ。
「・・・!」
空気の切れる音がした。
画面の向こうの影が、事も無げに天へ向けた右足で自在に空間を切り裂く。続いて左足、右腕、左腕。
しなやかに伸びる四肢全てを自在に操り、思うままに空間を支配するその動作は、高速の鋭さを持ちながらどこか柔らかく、舞踊を思わせた。
人の動きとは、こんなにも鮮やかなものだったろうか。
『お待たせしました』
その動作が静かに停止し『彼』が端末の前へ戻ってきた時、私は惜しいとすら感じていた。
時間を見れば、きっかり30秒が経過している。
「影響は、無いようですね」
『ええ。流石に3日間身体を動かしていない分、若干の衰えは感じましたが、軽く調整しましたので』
「・・・あの動きで、ですか」
思わず眉根を寄せてモニターを凝視してしまう。
確かにスポーツ選手などは1日身体を動かさなければ、その分を取り戻すために3日はかかる、などとよく言うが。では、衰えていなければ『彼』はどれだけの運動能力を発揮できると言うのだろうか。
しかも、今の動きで軽く、とは。
「何か、武術をご経験ですか」
時間が無いと思いつつも、私はその質問を投げかけることだけは自身に許した。
FBIからの資料と、この通信端末が届いたのは、ほんの数時間前のことだ。無論、あらゆるデータは即時ワタリによって収集されているが、最優先されているのは人質である『彼』の居場所や犯人の情報であるため、私の元に届いている『彼』自身のデータは名前や簡単な経歴、そして顔写真程度のものである。
しかもその顔写真すら、何故こんなものしか寄越さないのだろうかといぶかしむほどに小さい証明写真のコピーでしかない。なおかつその写真が、故意か怠慢か長い前髪に両眼がほぼ覆われているものであると来ては、何か悪意すら感じる始末だ。
つまるところ、私は『彼』を知らない。
そして。
『はい、日本の古流武術を幼少から』
「そうですか。美しい動きだったので、一瞬日本舞踊かとも思ってしまいました」
『あ、はい。日本舞踊も嗜み程度ですが』
「・・・そうでしたか」
なかなかに意表を突くこの青年に、『救出しなければならない人質』という以上の興味を持ち始めている。
根拠の無い勘。
しかし、『彼』には単なる新米捜査官以上の何かが隠されているはずだ。
そんな確信にも近いものが、私の中に芽生え始めている。
(ワタリ)
私の視線を受け、ワタリが無言で頷いた。その背がパソコンへと向かう。数分とかからず、『彼』についての詳しい資料が私の手元に届くだろう。
そこに何か、ヒントがあるだろうか。
(この事件の?)
問いかける私自身に、今の私はまだ無言で爪を噛むしかなかった。
「では、そろそろ始めましょう『緋勇さん』」
私の声に薄暗いモニターの向こう側で青年が短く『はい』と答え、それから一瞬、戸惑うような気配の後にこう聞いた。
『・・・《Mr.L》でよろしいでしょうか』
私の唇が、軽く笑いの形に引き上がる。
私自身すら知らぬうちに浮かんだそれは、決して不快なものではなく。
「《L》と呼んで下さい」
まるで、これから始まる何かを待ち望む子供のような笑みだった。
END。
※※※※※
感想頂いたりしたもので、うっかり調子に乗って続いてしまいました(笑)。ありがとうございますー!!!
今回はL視点です。パラレルな剣Lですが。(予防線)
今現在多分『 信頼度ー1 疑惑度1 興味4 』(5段階)くらいなLから黄龍への相関図。てかそりゃそうだ怪しいよ黄龍さん・・・。
この先本当にちゃんと仲良くなったりするのでしょうか。書いた本人にも謎です。そしてまだ続くのでしょうか。それも謎です。
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螺旋の黄龍騒動記・1
2008年2月7日 螺旋の黄龍騒動記(完結)ご注意。
●これは「L the proLogue to DEATH NOTE 〜螺旋の罠」の名前自由入力主人公(新米FBI捜査官)が「東京魔人学園剣風帖」のデフォルト主人公緋勇龍麻だったら、というなんじゃそりゃ無茶苦茶な的ネタで書かれる勝手な二次創作モドキです。
●しかもこの緋勇さんは先日「九龍妖魔学園紀」の2周目オマケモード「黄龍妖魔学園紀」をやってきたばっかりという更にちょっと待て的な設定です。
●「螺旋の罠」のゲーム内攻略についてのネタバレはしませんが、ネタはギャグな上、書いてる人間の個人的な趣味丸出しありえねークロスオーバー満載なので、苦手な方はレッツリターンでお願いします。
●それでもいいよって人だけ、ちょっと読んで笑ってもらえれば重畳。
●あと時間軸は勝手に2005年(九龍ED後)です。デスノ本編始まってるとか言われそうですが、そもそもここにいるLが「剣風世界のパラレルL」なのでデスノ事件そのものが無かったオチでお願いします。
いやーここまで来ると流石に引かれますよね!・・え、それでもよろしいですか?
<はい(の人は下へスクロール)
<いいえ(の人は別のところに飛んでね)
では、ゲームスタート!↓
※※※※※※※
2005年、9月7日。
アメリカ。
「・・・・・なんでだろ」
ビルの谷間に沈む夕日を見つめながら、俺はぼんやり『日本語』でそう呟いた。
「どうした、何を黄昏てるんだ緋勇?」
ぽん、と気遣うように肩を叩かれ、振り返る。目を向けた先には、すっかり見慣れた『先輩』の姿があった。
「そう見えましたか?」
かけられた言葉は『英語』。
「ああ、ホームシックにでもかかったのかと思ったぞ」
冗談を交じえて軽快に笑う彼へと返した俺の言葉も、また『英語』。
当然、と思うだろう。ここは『アメリカ』なのだから。
でも俺は、最初の言葉を引っ込める訳には行かなかった。
「しかし、もう三ヶ月になるんだな。早いものだ」
「ええ、どうにかやって来られました。色々と気を遣って下さって、先輩には感謝しています」
俺の心からの言葉に、『先輩』と呼ばれた彼は少し照れたようだった。
「いや、私の出来たことなど大したことじゃないさ。それより緋勇、どうにかなんてものじゃないだろう。君の能力の高さにはみんな舌を巻いてるぞ。期待のホープ、とね」
「・・・はは、煽てても何も出ませんよ」
微妙に乾いた笑いで誤魔化した俺に、「そうやってすぐに『ケンソン』するのは日本人の悪い癖だな」という言葉が返る。
やや真面目な色合いがそこに含まれているのは、おそらく彼の大事な女性のことを思い出したからだろう。俺と同じく日本の血を引いているという彼女が、『謙遜』を美徳とする性格かどうかまで俺は詳しくないのだが。
ひとしきりそんな無駄話を交わした後、わずかな沈黙が流れる。
どうやら『仕事』かな、と、斜めに腰掛けていた椅子を彼の正面へと向ければ、予想通りにそれは来た。
「緋勇、作戦が明日に決定した」
緊張と慎重を込めた言葉は、次の一文の為だったのだろう。
「『前回』は、入ったばかりの君にバックアップを務めてもらったが、今回はフォワードだ。・・・この作戦には国家の威信がかかっているからな。任せたぞ、緋勇」
じわりと重い言い回しに、まぁそうだろうと心の中だけで呟く。『前回』は、酷い失態と多数の犠牲の上に『ある人物』の助力によって辛うじて解決できた事件なのだ。その事件と関わりのある今回の『作戦』では、もう失敗は許されないに違いない。
「了解しました」
先輩・・・・『レイ・ペンバー捜査官』に敬意を表し、深く頷いた俺は、去っていく彼の背中を数秒ほど眺めた後、再び窓の外へ視線を移した。
夕日はもうビルの向こうへと消えてしまい、空の高いところには微かだが星が瞬き始めている。
都会の喧騒と、濁った空気の上で、遥か昔の光を投げかける星。
その星へ向かい、俺はもう一回日本語を、今度はちょっと違う発音で呟いた。
「・・・・だから、本当に・・・『なんでやねん』」
弟のように思っている、何故か関西弁の中国人から学んだ『ツッコミ』は、誰の耳にも届かずむなしく消えていった。
時は3ヶ月前に遡る。
俺、一般的な日本人である(というと流石に仲間内からちょっと待てと言われるだろうが)緋勇龍麻は、エジプトから始まった壮大なる人違いの日々を終え、久し振りに穏やかな日常を母国で過ごしていた。
心配していた龍脈の活性化もなく、これなら日本に戻って普通に生活できるのかな、などと淡い期待が芽生え始めた、そんな時。
俺の携帯に入った1本の電話。
それが新たな事件の幕開けを告げることになろうとは・・・・勿論俺は思いもせずに、通話ボタンをONにした。
《頼むー!助けてくれ龍麻君ー!!》
「鴉室さん?」
途端、受話口から飛び出した声に、慌ててその人の名前を呼びかける。
「何かあったんですか?」
《いやー、それがもうお兄さん本気で困っちゃってて!どうにもこうにも身動き取れないんだよー!頼む!手を貸してくれないか!》
無論、友人に手を貸すにやぶさかではない、が。
「・・・《M+M》絡みですか?」
諸事情が絡めば、そう簡単に承諾も出来ない。
そんな俺の言葉に、電話の向こうは「うっ」と大げさに呻いた。
《やー、相変わらず鋭いね〜。どうだい龍麻、本当にウチに・・・》
「行きませんから」
《つれないねぇベイビー》
最初の必死さはどこへやら、すっかりいつもの調子に戻った鴉室さんに、俺は深々とため息を吐いた。
「で、なんなんですか、俺に手伝わせたいことって」
《お、聞いてくれるか!流石に話が早い!》
「協力するとは言ってませんからね」
一応釘を刺しておいたが、聞いていないのか聞かない振りなのか、テンション高く声は一方的に続く。
《実は今、ちょっと厄介な事件に巻き込まれてさぁ、とある組織に潜入してる仲間が軒並み病院送りになっちまってねー。あ、いやいや、組織っつっても国家機関でいつもはそんな危ない所じゃないぞ?寧ろ青少年が誰も一度は憧れる特殊機関、いやぁ俺も後数年若かったら・・・ってまぁお兄さん今でも若いけどな?》
「で?」
《・・・おいおい冷たいなぁ、龍麻〜。天香卒業してから表裏の彼に感化されてないか?》
「卒業してませんから」
一瞬切ろうかな、と思ったが、諦めてそんな一言だけにしておく。しかしそんな俺の機嫌急降下を察したのか、鴉室さんはやや慌てたようにゲフンゴフンとわざとらしく咳をした。
《いや、ま、それでな?どーしても緊急にその組織に潜入して活動を手伝ってくれる人間が必要なんだが・・これがまた情けないことに、我が機関も人材不足でねぇ。勿論人手だけならどうとでもなるが、問題はその能力なんだよ。優秀かつ、有能にして信頼おける相手となると、もう俺にはたった1人しか思いつく相手がいなくて!しかも今ちょーど壬生君も長期の仕事で連絡取れなくて好都合・・・いやなにこっちの話》
嫌な予感がじんわりと背中を這い登る。
「・・・まさか」
《そのまさか!頼むよ龍麻君!半年・・・いや3ヶ月!3ヶ月だけでいいから!!》
新聞の勧誘みたいなことを言う。
しかし事は月額3千円税別洗剤つきで済む問題じゃない。
大体、ちょっと特殊な宿星の元に生まれた俺だ。大げさかもしれないが、世界の為にもわざわざ騒乱の中に飛び込むなんて話は避けなければならない。
「鴉室さん・・・・」
俺にはちょっと。
そう答えようとした時、言いようも無い悪寒が先ほどの嫌な予感さえ飲み込んで全身を走った。
待て。
こんな話を《俺》に持ちかける?
仮にも《M+M機関》の彼が?
俺の表裏たる壬生紅葉、俺と共に歩む宿星を背負った弟を持つ劉瑞麗、その2人の同僚である彼が?
何の勝算も無しに・・・・?
電話の向こうで、にやりと笑う鴉室さんの顔が見えた気がした。
《勿論、給料は組織の方からも機関の方からもちゃんと出るぞー。それと一緒に、お兄さんからもイイモノを進呈しよう!》
「・・・いい、もの?」
引きつった俺の声に、嬉々とした声が重なる。
《そう!愛と青春のメモリー、天香学園での思い出のスナップアルバムだ!あ、ちゃんとネガは付けるから》
・・・携帯電話を握りつぶさなかったのは、理性というより静か過ぎる殺意のためだったような気がする。
「・・・で、何処へ行けばいいんですか」
低く呟いた俺は、あっさりと返された単語を全力で復唱する羽目に陥った。
《FBI》
「・・・え、『FBI』ィーー!?」
なんでやねん。
今弦月がここにいてくれたら、すかさずそう突っ込んでくれるだろうになぁ。
そんな逃避とも思えることを頭の片隅で考えながら。
そんな訳で、気がつけば俺はアメリカでFBIの捜査官になっていた。(何をどうしたらこんなにあっさり潜入できるのかは分からないが、今更知りたくも無い)
最初の1週間は本当に何の冗談かと思っていたが、赴任早々テロ組織の摘発などにも加わる羽目になり、否が応にも順応せざるを得ない状況へ流れ流れて早3ヶ月弱。
ため息と疑問は尽きないが、それでもどうにか捜査官の任務と《M+M機関》の手伝いを平行してこなし、残りの潜入期間もあと3日となっていた。
「・・・やっと帰れるなぁ」
先ほどレイ捜査官が言っていた『作戦』が、偽捜査官・緋勇龍麻の最後の仕事になるだろう。
その後は新たなM+Mの人間が現場復帰し、俺は晴れてお役御免となる。
「まぁ、滅多に無い経験は出来たし、いいか」
FBIなんて、正直漫画やドラマの中のイメージしかないものだった。その中に自分が所属して、僅かながらも職務を果たしたというのは、終わりも間近い今にして思えばだが、貴重な体験だ。
今度鴉室さんに会ったら《秘拳・黄龍》かな、と思っていたところを《龍星脚》にまけてもいいくらいには。
ただ少々残念なのは、ここで知り合った人々とはもう二度と会えないだろうということだが。
「・・・仕方ないよな・・・」
席を立ち上がり、オフィスを後にする。ふうっと吐いた短いため息は、いつものものと少し違う意味を持っていた。
翌日。
緊張感に満ちた現場で、俺はレイ捜査官と共にある倉庫へと向かっていた。
今日の任務は、『前回』の事件で壊滅したと思われていたテロ組織の残党を摘発するというものだ。
大きな被害を受けた前回の事件ではあるが、今回はあくまで『残党を摘発する』ことが目的であるため、比較的作戦は楽に進むものだと思われていた。
だが。
『緋勇!逃げろ、罠だっ!・・・ぐッ・・』
「レイ先輩!」
倉庫の外で待機していたレイの声が通信機から響く。苦しげな様子からして、負傷したのだろう。
発炎筒の煙に包まれ、視界を奪われた倉庫内で、しかし俺は確実に入口へ向かって駆け出した。
視界に頼る必要など無い。空気の流れと気配、肌に感じる全てが俺にあらゆる情報を伝えてくれる。
それは、俺が長い戦いの中で身に付けてきた《能力》だ。
この《力》は、常に俺を裏切ることは無い。
『相手が人である限り』・・・いや、あるいは『人ではなくても』、そう簡単に、この身を傷付けることは出来ない。
はず、だった。
けれどその時、たった一瞬、何かが俺の足を止めた。
頭蓋を貫いて、全身を駆け抜ける強い感覚。
(これは!?)
その感覚へ俺が意識を向けた僅かな時間・・・ほんの1秒にも満たなかったはずの隙に、俺の身体へと何かが押し当てられた。
「っ・・!!」
電流が全身を走る。薄れ行く意識に、まさか、と思う。
(馬鹿な・・こんな衝撃くらいで・・)
俺が、倒れるはずなんて無いのに。
ありえない事態に呆然とする俺の脳裏で、微かに閃いたのはあの感覚。
逃れられぬ何かが、その意思でこの道を踏破してみせろと挑む、そんな、幾度も覚えのある・・・・。
(ああ、あれは)
星の導きだ。
・・・その思考を最後に、俺の意識は闇に沈んだ。
・・・・どこかで、何かが電子音を立てている。
ピピピ、ピピピ、と規則正しく鳴り響くその音に、俺はゆっくりと目を開けた。
ここは何処だろう。
薄暗い中に、ぼんやりと見えるものは埃っぽい部屋。
そして。
電子音の鳴り響く、携帯端末。
どことなく《H.A.N.T》を思い出させるそれを、俺は僅かな躊躇いの後に手にした。
端末を開くと、白一色の画面にたった一つのアルファベットが表示されていた。
「・・・・『L』」
読み上げたそのアルファベットに、不意に意識が覚醒する。
この3ヶ月で知った、そのアルファベットの『特別な意味』。
それは、確か・・・・・。
『緋勇さん』
端末が、合成された機械音声で俺の名を呼んだ。
『緋勇龍麻さん。・・あなたは、緋勇さんですか?』
それが問いなら、俺の答えはたった一つしかない。
「はい」
短い俺の返事に、感情の無い機械音声がそれでも何故か満足げに聞こえる[音]を返す。
『よかった。ご無事でしたか』
今のところは。と思ったのは、俺か、相手か・・・両方か。
そうして、機械音声は告げたのだ。
俺の『最後の任務』がそう簡単に終わるはずなどないのだと。
『・・・私は《L》です』
世界の頭脳、と呼ばれる、希代の名探偵。
その名を耳にして、俺はどうしても堪えきれず、一言だけ・・・ただし、力一杯叫んだ。
「またかぁぁぁぁぁーーーーー!!」
・・・これが俺の、《いつもの》巻き込まれ事件始まりの合図となったのだ。
END。
※※※※※
ついついやっぱり書いてしまった[螺旋の罠・黄龍編]。
続くような続かないような続けたいような(苦笑)。
すみませんまぁ見逃してください。
●これは「L the proLogue to DEATH NOTE 〜螺旋の罠」の名前自由入力主人公(新米FBI捜査官)が「東京魔人学園剣風帖」のデフォルト主人公緋勇龍麻だったら、というなんじゃそりゃ無茶苦茶な的ネタで書かれる勝手な二次創作モドキです。
●しかもこの緋勇さんは先日「九龍妖魔学園紀」の2周目オマケモード「黄龍妖魔学園紀」をやってきたばっかりという更にちょっと待て的な設定です。
●「螺旋の罠」のゲーム内攻略についてのネタバレはしませんが、ネタはギャグな上、書いてる人間の個人的な趣味丸出しありえねークロスオーバー満載なので、苦手な方はレッツリターンでお願いします。
●それでもいいよって人だけ、ちょっと読んで笑ってもらえれば重畳。
●あと時間軸は勝手に2005年(九龍ED後)です。デスノ本編始まってるとか言われそうですが、そもそもここにいるLが「剣風世界のパラレルL」なのでデスノ事件そのものが無かったオチでお願いします。
いやーここまで来ると流石に引かれますよね!・・え、それでもよろしいですか?
<はい(の人は下へスクロール)
<いいえ(の人は別のところに飛んでね)
では、ゲームスタート!↓
※※※※※※※
2005年、9月7日。
アメリカ。
「・・・・・なんでだろ」
ビルの谷間に沈む夕日を見つめながら、俺はぼんやり『日本語』でそう呟いた。
「どうした、何を黄昏てるんだ緋勇?」
ぽん、と気遣うように肩を叩かれ、振り返る。目を向けた先には、すっかり見慣れた『先輩』の姿があった。
「そう見えましたか?」
かけられた言葉は『英語』。
「ああ、ホームシックにでもかかったのかと思ったぞ」
冗談を交じえて軽快に笑う彼へと返した俺の言葉も、また『英語』。
当然、と思うだろう。ここは『アメリカ』なのだから。
でも俺は、最初の言葉を引っ込める訳には行かなかった。
「しかし、もう三ヶ月になるんだな。早いものだ」
「ええ、どうにかやって来られました。色々と気を遣って下さって、先輩には感謝しています」
俺の心からの言葉に、『先輩』と呼ばれた彼は少し照れたようだった。
「いや、私の出来たことなど大したことじゃないさ。それより緋勇、どうにかなんてものじゃないだろう。君の能力の高さにはみんな舌を巻いてるぞ。期待のホープ、とね」
「・・・はは、煽てても何も出ませんよ」
微妙に乾いた笑いで誤魔化した俺に、「そうやってすぐに『ケンソン』するのは日本人の悪い癖だな」という言葉が返る。
やや真面目な色合いがそこに含まれているのは、おそらく彼の大事な女性のことを思い出したからだろう。俺と同じく日本の血を引いているという彼女が、『謙遜』を美徳とする性格かどうかまで俺は詳しくないのだが。
ひとしきりそんな無駄話を交わした後、わずかな沈黙が流れる。
どうやら『仕事』かな、と、斜めに腰掛けていた椅子を彼の正面へと向ければ、予想通りにそれは来た。
「緋勇、作戦が明日に決定した」
緊張と慎重を込めた言葉は、次の一文の為だったのだろう。
「『前回』は、入ったばかりの君にバックアップを務めてもらったが、今回はフォワードだ。・・・この作戦には国家の威信がかかっているからな。任せたぞ、緋勇」
じわりと重い言い回しに、まぁそうだろうと心の中だけで呟く。『前回』は、酷い失態と多数の犠牲の上に『ある人物』の助力によって辛うじて解決できた事件なのだ。その事件と関わりのある今回の『作戦』では、もう失敗は許されないに違いない。
「了解しました」
先輩・・・・『レイ・ペンバー捜査官』に敬意を表し、深く頷いた俺は、去っていく彼の背中を数秒ほど眺めた後、再び窓の外へ視線を移した。
夕日はもうビルの向こうへと消えてしまい、空の高いところには微かだが星が瞬き始めている。
都会の喧騒と、濁った空気の上で、遥か昔の光を投げかける星。
その星へ向かい、俺はもう一回日本語を、今度はちょっと違う発音で呟いた。
「・・・・だから、本当に・・・『なんでやねん』」
弟のように思っている、何故か関西弁の中国人から学んだ『ツッコミ』は、誰の耳にも届かずむなしく消えていった。
時は3ヶ月前に遡る。
俺、一般的な日本人である(というと流石に仲間内からちょっと待てと言われるだろうが)緋勇龍麻は、エジプトから始まった壮大なる人違いの日々を終え、久し振りに穏やかな日常を母国で過ごしていた。
心配していた龍脈の活性化もなく、これなら日本に戻って普通に生活できるのかな、などと淡い期待が芽生え始めた、そんな時。
俺の携帯に入った1本の電話。
それが新たな事件の幕開けを告げることになろうとは・・・・勿論俺は思いもせずに、通話ボタンをONにした。
《頼むー!助けてくれ龍麻君ー!!》
「鴉室さん?」
途端、受話口から飛び出した声に、慌ててその人の名前を呼びかける。
「何かあったんですか?」
《いやー、それがもうお兄さん本気で困っちゃってて!どうにもこうにも身動き取れないんだよー!頼む!手を貸してくれないか!》
無論、友人に手を貸すにやぶさかではない、が。
「・・・《M+M》絡みですか?」
諸事情が絡めば、そう簡単に承諾も出来ない。
そんな俺の言葉に、電話の向こうは「うっ」と大げさに呻いた。
《やー、相変わらず鋭いね〜。どうだい龍麻、本当にウチに・・・》
「行きませんから」
《つれないねぇベイビー》
最初の必死さはどこへやら、すっかりいつもの調子に戻った鴉室さんに、俺は深々とため息を吐いた。
「で、なんなんですか、俺に手伝わせたいことって」
《お、聞いてくれるか!流石に話が早い!》
「協力するとは言ってませんからね」
一応釘を刺しておいたが、聞いていないのか聞かない振りなのか、テンション高く声は一方的に続く。
《実は今、ちょっと厄介な事件に巻き込まれてさぁ、とある組織に潜入してる仲間が軒並み病院送りになっちまってねー。あ、いやいや、組織っつっても国家機関でいつもはそんな危ない所じゃないぞ?寧ろ青少年が誰も一度は憧れる特殊機関、いやぁ俺も後数年若かったら・・・ってまぁお兄さん今でも若いけどな?》
「で?」
《・・・おいおい冷たいなぁ、龍麻〜。天香卒業してから表裏の彼に感化されてないか?》
「卒業してませんから」
一瞬切ろうかな、と思ったが、諦めてそんな一言だけにしておく。しかしそんな俺の機嫌急降下を察したのか、鴉室さんはやや慌てたようにゲフンゴフンとわざとらしく咳をした。
《いや、ま、それでな?どーしても緊急にその組織に潜入して活動を手伝ってくれる人間が必要なんだが・・これがまた情けないことに、我が機関も人材不足でねぇ。勿論人手だけならどうとでもなるが、問題はその能力なんだよ。優秀かつ、有能にして信頼おける相手となると、もう俺にはたった1人しか思いつく相手がいなくて!しかも今ちょーど壬生君も長期の仕事で連絡取れなくて好都合・・・いやなにこっちの話》
嫌な予感がじんわりと背中を這い登る。
「・・・まさか」
《そのまさか!頼むよ龍麻君!半年・・・いや3ヶ月!3ヶ月だけでいいから!!》
新聞の勧誘みたいなことを言う。
しかし事は月額3千円税別洗剤つきで済む問題じゃない。
大体、ちょっと特殊な宿星の元に生まれた俺だ。大げさかもしれないが、世界の為にもわざわざ騒乱の中に飛び込むなんて話は避けなければならない。
「鴉室さん・・・・」
俺にはちょっと。
そう答えようとした時、言いようも無い悪寒が先ほどの嫌な予感さえ飲み込んで全身を走った。
待て。
こんな話を《俺》に持ちかける?
仮にも《M+M機関》の彼が?
俺の表裏たる壬生紅葉、俺と共に歩む宿星を背負った弟を持つ劉瑞麗、その2人の同僚である彼が?
何の勝算も無しに・・・・?
電話の向こうで、にやりと笑う鴉室さんの顔が見えた気がした。
《勿論、給料は組織の方からも機関の方からもちゃんと出るぞー。それと一緒に、お兄さんからもイイモノを進呈しよう!》
「・・・いい、もの?」
引きつった俺の声に、嬉々とした声が重なる。
《そう!愛と青春のメモリー、天香学園での思い出のスナップアルバムだ!あ、ちゃんとネガは付けるから》
・・・携帯電話を握りつぶさなかったのは、理性というより静か過ぎる殺意のためだったような気がする。
「・・・で、何処へ行けばいいんですか」
低く呟いた俺は、あっさりと返された単語を全力で復唱する羽目に陥った。
《FBI》
「・・・え、『FBI』ィーー!?」
なんでやねん。
今弦月がここにいてくれたら、すかさずそう突っ込んでくれるだろうになぁ。
そんな逃避とも思えることを頭の片隅で考えながら。
そんな訳で、気がつけば俺はアメリカでFBIの捜査官になっていた。(何をどうしたらこんなにあっさり潜入できるのかは分からないが、今更知りたくも無い)
最初の1週間は本当に何の冗談かと思っていたが、赴任早々テロ組織の摘発などにも加わる羽目になり、否が応にも順応せざるを得ない状況へ流れ流れて早3ヶ月弱。
ため息と疑問は尽きないが、それでもどうにか捜査官の任務と《M+M機関》の手伝いを平行してこなし、残りの潜入期間もあと3日となっていた。
「・・・やっと帰れるなぁ」
先ほどレイ捜査官が言っていた『作戦』が、偽捜査官・緋勇龍麻の最後の仕事になるだろう。
その後は新たなM+Mの人間が現場復帰し、俺は晴れてお役御免となる。
「まぁ、滅多に無い経験は出来たし、いいか」
FBIなんて、正直漫画やドラマの中のイメージしかないものだった。その中に自分が所属して、僅かながらも職務を果たしたというのは、終わりも間近い今にして思えばだが、貴重な体験だ。
今度鴉室さんに会ったら《秘拳・黄龍》かな、と思っていたところを《龍星脚》にまけてもいいくらいには。
ただ少々残念なのは、ここで知り合った人々とはもう二度と会えないだろうということだが。
「・・・仕方ないよな・・・」
席を立ち上がり、オフィスを後にする。ふうっと吐いた短いため息は、いつものものと少し違う意味を持っていた。
翌日。
緊張感に満ちた現場で、俺はレイ捜査官と共にある倉庫へと向かっていた。
今日の任務は、『前回』の事件で壊滅したと思われていたテロ組織の残党を摘発するというものだ。
大きな被害を受けた前回の事件ではあるが、今回はあくまで『残党を摘発する』ことが目的であるため、比較的作戦は楽に進むものだと思われていた。
だが。
『緋勇!逃げろ、罠だっ!・・・ぐッ・・』
「レイ先輩!」
倉庫の外で待機していたレイの声が通信機から響く。苦しげな様子からして、負傷したのだろう。
発炎筒の煙に包まれ、視界を奪われた倉庫内で、しかし俺は確実に入口へ向かって駆け出した。
視界に頼る必要など無い。空気の流れと気配、肌に感じる全てが俺にあらゆる情報を伝えてくれる。
それは、俺が長い戦いの中で身に付けてきた《能力》だ。
この《力》は、常に俺を裏切ることは無い。
『相手が人である限り』・・・いや、あるいは『人ではなくても』、そう簡単に、この身を傷付けることは出来ない。
はず、だった。
けれどその時、たった一瞬、何かが俺の足を止めた。
頭蓋を貫いて、全身を駆け抜ける強い感覚。
(これは!?)
その感覚へ俺が意識を向けた僅かな時間・・・ほんの1秒にも満たなかったはずの隙に、俺の身体へと何かが押し当てられた。
「っ・・!!」
電流が全身を走る。薄れ行く意識に、まさか、と思う。
(馬鹿な・・こんな衝撃くらいで・・)
俺が、倒れるはずなんて無いのに。
ありえない事態に呆然とする俺の脳裏で、微かに閃いたのはあの感覚。
逃れられぬ何かが、その意思でこの道を踏破してみせろと挑む、そんな、幾度も覚えのある・・・・。
(ああ、あれは)
星の導きだ。
・・・その思考を最後に、俺の意識は闇に沈んだ。
・・・・どこかで、何かが電子音を立てている。
ピピピ、ピピピ、と規則正しく鳴り響くその音に、俺はゆっくりと目を開けた。
ここは何処だろう。
薄暗い中に、ぼんやりと見えるものは埃っぽい部屋。
そして。
電子音の鳴り響く、携帯端末。
どことなく《H.A.N.T》を思い出させるそれを、俺は僅かな躊躇いの後に手にした。
端末を開くと、白一色の画面にたった一つのアルファベットが表示されていた。
「・・・・『L』」
読み上げたそのアルファベットに、不意に意識が覚醒する。
この3ヶ月で知った、そのアルファベットの『特別な意味』。
それは、確か・・・・・。
『緋勇さん』
端末が、合成された機械音声で俺の名を呼んだ。
『緋勇龍麻さん。・・あなたは、緋勇さんですか?』
それが問いなら、俺の答えはたった一つしかない。
「はい」
短い俺の返事に、感情の無い機械音声がそれでも何故か満足げに聞こえる[音]を返す。
『よかった。ご無事でしたか』
今のところは。と思ったのは、俺か、相手か・・・両方か。
そうして、機械音声は告げたのだ。
俺の『最後の任務』がそう簡単に終わるはずなどないのだと。
『・・・私は《L》です』
世界の頭脳、と呼ばれる、希代の名探偵。
その名を耳にして、俺はどうしても堪えきれず、一言だけ・・・ただし、力一杯叫んだ。
「またかぁぁぁぁぁーーーーー!!」
・・・これが俺の、《いつもの》巻き込まれ事件始まりの合図となったのだ。
END。
※※※※※
ついついやっぱり書いてしまった[螺旋の罠・黄龍編]。
続くような続かないような続けたいような(苦笑)。
すみませんまぁ見逃してください。
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