ネタバレその他色々ご注意(安全の為どうぞ一回は必ず目を通してください)。

●これは「L the proLogue to DEATH NOTE ~螺旋の罠」の名前自由入力主人公(新米FBI捜査官)が「東京魔人学園剣風帖」のデフォルト主人公緋勇龍麻だったら、というマジ妄想1000%な二次創作モドキです。
しかも元のゲームが推理ものなため、もう完全に隙間なくネタバレです。販売元のこにゃみさん本当に申し訳ない…。

●加えてこの緋勇さん、先日「九龍妖魔学園紀」の2周目オマケモード「黄龍妖魔学園紀」をクリア済の人です。

●故に本編の時間軸は2005年9月(※ゲーム通りデスノート本編開始前の設定)、今回の番外編は2006年2月に起こった話となっています。

●メインの世界観はデスノではなく、魔人+九龍です。故に、この世界の《L》たちデスノ勢は「魔人世界に存在するパラレルキャラクター」となっています。つまりこの世界ではデスノートや死神より魔人の《力》の方が強い(※死神=旧校舎でガンガン倒してたレベルの相手)という格差社会になっておりますので、デスノ原作好きさんには眉を顰められることでありましょう。

●今回の話は番外編のオチなので、龍麻もLも出ません。代わりに魔人の面子と、デスノのあの人が出ます。

●新世界の神(仮)が酷い目に合うので、信者の方は本格的にこの時点でやめといたほうがいいなと思ってください。読んだらいけません。いけませんったら。

●二次創作にしてもそんなのは酷い!とおっしゃる方もいらっしゃいましょうが、どうぞ広い心でスルーしていただけます様お願いいたします。本当にお願いします。

●まぁ二次創作だし多少のやんちゃは許してやるよとか、新世界の神(仮)はいじられてナンボ!とか、名前自由入力主人公に「緋勇龍麻」と入れるのは最早天命です(キリッ)、という方に少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

最後に・・『こんな二次創作に立ち向かう覚悟はありますか?』

<はい(の人は下へスクロールを)

<いいえ(の人はどうぞこのままリターンをお願いします)


では、ゲーム再開です↓

※※※※※※※


新宿歌舞伎町、21:05。
裏路地。

「…五光ッ!」
短く発せられた役の名前と共に、色鮮やかな札が地面へと広げられる。
桜に幕、芒に月、松に鶴、柳に小野道風、桐に鳳凰…。見間違えようもない5種の光札に、対峙する青年の口から締め付けられるような呻きが漏れた。
「バカな、まさか、三度も続いて」
掠れた声でそう呟く青年の手から、札がバラバラと落ちた。札数の多さから分かるのは、まだ勝負は始まったばかりだったということだ。震えた手が、地面に広がる札をかき混ぜる。
「そんな、そんなことがあるわけがッ…」
敗北を覆す何かを探そうとするその様子に、青年の正面で悠然と胡坐をかいていた男がわざとらしいため息を吐いた。
「やれやれ、札を切ったのも配ったのもアンタだぜ兄さんよ」
呆れ果てたと言いたげな声音に青年が這い蹲った姿勢から顔を上げれば、男はニヤリと皮肉気に無精髭を散らした口元を引き上げた。
「そろそろ時間もタネ銭も切れる頃だが…まだ勝負してくかい」
奇妙に抑揚を抑えたその言葉は、青年にとって嘲りにしか聞こえなかった。やめといたほうがいいんじゃないのかねェ、と男が言うのも聞かず、無言で散らばった札をかき集める。一枚一枚確かめながら札をまとめていく青年を、男はただ黙ってにやにやと笑いながら見ていた。
(なにか仕掛けがあるはずだ)
青年は血走った目で自分の手元に集まった札を確認しながら、記憶にあるカードマジックのトリックを片端から引き摺り出して照合していく。
(そうでなければ、毎回最短手であんな大きな役が揃うわけがない)
初回は一手目で三光が揃った。
その時は単に相手の幸運へ心の中で舌打ちをしただけだった。
だが、二回目も一手目で今度は雨四光が揃った。
おかしい、と思った。
疑いの眼差しで男を見れば、相手は飄々とした面持ちで札をすべて投げて寄越した。好きに切って配れと言われたのでその通りにした。
そして三回目。二手目で、五光。
(手札が良いだけで、そんなに都合よく揃うわけがない)
確かに札は自分が切って配った。男が余計な動きのできないよう監視していたし、山から札をめくる時はどちらの順番であっても自分が山札をめくり、場に出した。けれど、これを偶然とは認めない。認められるわけがない。
(そんな偶然が有り得るはずがない!…必ず見破ってみせる…僕の目を誤魔化せるわけがない…そんなわけがない!札に仕掛けがないのなら、手先で札をすり替えているだけだ。次は必ず見破る!僕が、僕が負けるはずなどない!)
そうして青年は、再び札を配り始めた。
…配りながら、ふと思った。
―――――――――そういえば僕は、何故こんなところにいるんだろう…?
その疑問が、とてもとても重要な意味を持つことに気付かぬままに。

裏路地に、獣のような怒声が響き渡ったのは、札が配り終えられた直後のことだった。

「有り得ない…!有り得るか!こんなイカサマがぁぁぁぁ!!」
青年の端正な顔立ちが悪鬼のそれに歪む。
目の前に散らばった札は、青年が地面へと叩きつけた彼の持ち札だ。そこには芒、桜、松の三枚の光札が含まれていた。この上なく有利に始まるはずだった四回目の勝負を前にして、青年はその札をすべて投げ捨てていた。
何故か、と、聞く者は、場を見て次の言葉を呑み込むだろう。
男の前に広がる札は八枚。すべてカス札だが、その種類は四種…八枚がいずれもペアになっている。
花札は通常であれば札を配り、そこから場札と手札を取り合うことによって点数が発生する。だが、手札がこのような組み合わせになっていた場合は、この時点で『くっつき六文』という役が出来上がる。
つまり、勝負は始まる前から終わっていたのだ。
「嘘だ」
しかも今回、男は札に触ることすらしていない。
青年が札を配り終えた後、男は相変わらずどこか人を小馬鹿にしたようなにやにや笑いを張りつかせて「ハンデをやる」と言った。手札を公開し、自身では一切触ることなく、ゲームを進めると。
「最初から仕掛けてあったんだ…でなけりゃそんな不利な条件を言い出すことがおかしいだろう!最初から金をだまし取ろうとしたんだろうがこのペテン師がッ!!」
「おいおい、イカサマだろうがなんだろうが見破れる自信があったから乗ったんだろう?兄さんよ」
「ッ…!!」
突如自分に潜む慢心を指摘され、青年が言葉に詰まる。
そうだ、確かに自分は見抜けると思った。
どんなイカサマだろうが、自分は、自分だけは引っかかりはしないという自信があった。
(自信…?)
そこでまた、何かが揺らいだ。自信は確かにあった。負けるはずなど無いと思っていた。
けれど、だからといって、自分はこんな賭け事に乗るような性格をしていただろうか?
(僕は、何故、こんな男と花札を始めた?そもそも何故、僕は、こんなところに来た?)
唐突に、全身がぞわりと総毛立った。
おかしい。
何かが、根本的な何かが狂っている。
地面に散らばる花札の毒々しいまでに鮮やかな色合いと、男がまとったやけに白く目に焼き付くコートの対比に精神がかき乱される。
「イカサマ…イカサマだ…僕は…僕が負けるはずは…」
恐怖と嫌悪に駆られ、振り上げた足で札を蹴散らした。足元にまとわりつくように落ちた芒の光札を踏みつける。踏みつける。何度も、踏みつける。
赤地に浮かぶ、大きな満月。
その柄が、何を示しているのかを考えないようにしながら、踏む。
札が壊れればカラクリが見付かると信じたくて、踏み続ける。
そんな青年の壊れた動きを、男の声が押し止めた。
「悪いねェ兄さん。実は残念ながらどこを探してもイカサマなんざ見付からないのさ」
足が、止まった。
ぎこちない動きで首が男の方を向く。
気味の悪いものを見る目。そんな青年の目に見詰められながら、男はやはりにやにやと笑って言った。
「ただ単に…俺は人並み外れて《運》が良いってだけだからな」
「…運、だと…?」
呟く青年の顔が、怯えを超えて憎悪に歪んだ。今にも殺意を持って飛び掛かってこようかという形相だが、正面の男は欠片も動じることはない。むしろ青年の豹変ぶりを面白がっているようにすら見える。
「ああ。まァ運の強さってヤツをイカサマだとアンタが言い張るってんなら、そりゃ勝手だが?」
敢えて挑発するかのような物言いに、さらに激高した青年が札を強く踏みにじり、吠えた。掴みかからんばかりに身を乗り出し、わなわなと全身を震わせて口を開く。
「ふざけるな!そんな非科学的なものッ…」
…そこで、青年の怒鳴り声は止まった。
一瞬前までの怒気とは違うものに見開かれた目が、不自然に宙を見つめる。
「…あ…あ」
怒りに握りしめていた手が緩々と解かれ、何かを掬い取ろうとするような形に手の平が上を向く。徐々に大きくなる震えと共に、青年の表情に恐れが混じる。

非科学的なもの。

そんなもの。

そんなもの?

自分にすら聞こえない声で青年は呟く。
(そうだ、僕は)
そんなものを、『知っている』。
(ほんの数日前から)
そんなものを、『受け入れた』。
(僕は、この世界を)
そんなものを、『使って』。
(僕は、わるいものたちを)
そんなものは、『確かに存在する』。
(僕は、僕は、僕は僕はぼくはぼくはぼくはボクハ)

僕は

何を

した?

茫然と立ち尽くす青年に、男の低い声が語りかける。
「さて、賭けは仕舞いだ。負けが込んだなァ兄さん…ちょいとアンタの財布じゃ大分アシが出るぜ。まァしょうがねェ、面倒だが現物で支払ってもらうとしようか」
支払いと現物、の言葉に青年の背筋をぞくりと悪寒が走った。何を要求しようというのだろうか。反射的に所持品から換金できそうな品物を探す。時計か、電子辞書か、それともブランドものの鞄やマフラーだろうか。無論素直に渡すつもりなどなかったが、適当なものを渡して被害届を出せばこの男を摘発できるかもしれない。
ほんの少し冷静さを取り戻した青年が、男に目を戻すと…何故か男はにやにや笑いを引っ込めて、何かを背後から拾い上げて、言った。
「兄さん…アンタ『夜神 月』って書けば、死ぬのかい?」
その手にある黒い冊子の名を。
青年は…いや、『夜神 月』は知っていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」
絶叫が空気を揺るがした。
「馬鹿な馬鹿な馬鹿なァッ!」
半狂乱で手元に置いてあったはずの鞄を引き寄せ、引き千切るように開く。肌身離さず、用心深く仕舞い込んであったはずのそれを探し、すべての中身をぶちまけるが、黒いノートはどこにも無かった。男の手にあるものが本物なのだと否応なく認識させられ、吐き気が込み上げる。
あの男は知っている。あのノートが何であるかも、その利用法も、『彼』の本名さえも!
「ひッ…!!!」
何故かは分からないが、これがどれほど危険な状況なのかは瞬時に理解できた。
「リューク…リューク!いないのか!?おい!?」
辛うじて吐瀉を堪えた喉から発したのは、ノートの『元の所有者』の名前だ。
「リューク!!!」
最早取り繕うつもりもなく、虚空に向かって『人ではないもの』の名を呼ぶ。人知を超えた存在である『彼』であれば、あのノートを取り返せるのではないか。…けれど、その微かな望みにに答える声は無かった。混乱した頭で考える。たまたまどこか遠くに行ってしまっているのか、それとも見限られたのか、それとも、それとも。
(まさか、この男に…?)
そんな馬鹿な、と言い切ることは出来なかった。
男は特に身構えるわけでもなく、無造作に黒いノートを手にして立っている。今なら飛び掛かって取り返すこともできるはずだ。荒事の経験はそれほど多くないが、身体能力には自信がある。…だが今は、その確固として持っていたはずの『自信』こそがまったく信用できない状況下であった。認めたくはないが、認めざるを得ないのだ。『この男が、ただの人間だという証拠はどこにもない』ということを。
(まさか、まさか、まさか)
既に『人ではない』異形の生き物が存在することを知ってしまっている彼には、『人とそっくりな異形の者』の存在を否定する根拠など何もない。死神は人を狩るという。では、その死神を狩るものも、存在してもおかしくはないではないか。
…気付けば飛び掛かるどころか腰が抜け、震える足は思考と関係のないところで男から少しでも離れようと必死に地面を蹴っていた。足元にぼろぼろに汚れた芒の光札がまとわりついて彼をさらにゾッとさせる。赤い背景に浮かぶ大きな満月。己の名と同じそれを踏み躙った罰か、それとも予兆だったのか。
頭の隅で、なんと滑稽なのだろうと誰かがせせら笑う。お前はこれから、神になるつもりだったのだろうと。それがこんな路地裏で、惨めに地べたへ這いつくばったまま、ゴミのように殺されるのだ、と。
(殺さ、れる)
その言葉を脳裏に思い浮かべた途端、恐怖は絶望に代わった。殺される、死ぬ、命が終わる。あのノートを手にした瞬間、その意味を最も理解しているのは自分だと確信したはずだった。命の価値を量る資格はこの手にあるのだと、誇らしく宿命を受け入れたはずだった。ああ、それが。
(殺される殺される殺される僕は殺される死ぬ僕は死ぬ死ぬ死ぬ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない)
壊れたレコードの如く繰り返す思考の中に、ガチガチという不協和音が混じる。怯えを掻き立てるそれが小刻みに震える自分の歯が立てる音だなどと、気付く余裕はもう無い。
(たすけて)
絶望の果てにたどり着いたのは、余りにも陳腐な言葉。
(助けて、父さん、母さん)
神になると誓った者が、死の恐怖を前に只人たる両親に縋る。惨めで滑稽で哀れで、故に真摯である願い。だが、勿論その願いは届きはしない。
届いたところで、人を超える何かを前に父母にできることなどないだろう。けれど、彼はそれでも最後の最後に手を伸ばす相手に家族を選んだ。みっともなく震えて這いずる自分の前で、黒いノートを手にした男がゆっくりと立ち上がり、近づいてくるのを感じながら。腹の底から、ただの…愛しい人に助けを求めた。
「父さん、母さん…助けて!助けて!嫌だ!死にたくないよぉぉぉ!!!」
涙と鼻水で顔中をぐしゃぐしゃにした『ただの人間』の青年は、近付く『何か恐ろしい存在』の前でただ泣き叫ぶことしか出来ずに死を待った―――――――――。
だが。
「…?」
想像していた心臓が停止するその瞬間がいつまでも訪れないことに気付き、恐る恐る青年は顔を上げた。
薄暗い路地裏で、見上げた空に月が浮かぶ。その月を背に、男はやはりそこにいた。ひらひらと黒いノートを見せつけるように振って。
「なぁ兄さんよ、負け分として身ぐるみ全部は置いてってもらうが、ひとつオマケに残してやるぜ」
からかうような、惑わすような、憐れむような、どれとも読めない声音で男が言う。その中にほんの僅か、優しさのようなものが含まれている気がしたのは、単に青年の願望ゆえか。
男が、ふいと顔を上げる。月明かりに照らし出されたその顔は、闇と光の境目で酷く愉快そうににやりと笑った。
「さぁて…パンツとノート、どっちを選ぶ?」


―――――――――新宿・歌舞伎町。
時計の短針が本日二度目の天へ近付く頃合いになっても、まだこれからが真骨頂と言い放つ騒々しいこの街で、ひと騒動巻き起こったのは22時を過ぎてまもなくのことだった。
「うわぁあああああああああぁぁぁああぁー!!!」
「きゃあ!?」
「なッ、なんだなんだ!?」
「てめぇなにしてやがる!」
「いやぁん!なぁにぃ?どこの店のサービスぅ?」
悲鳴と怒号と時折黄色い声の混じる中、絶叫しながらネオンの街を走り抜ける影…。
強面のお兄さんや、青ひげのうっすら浮くオネエサンの手をどうにかこうにか掻い潜り、猛スピードで道路を駆けていくそれは。
パンツ一丁の青年―――夜神月、だった。
「あああああああああああああああ!!!」
咆哮が夜空に木霊する。
遠くなっていく悲しい声に、パトカーのサイレン音が重なり、そして。
「…なんか、五・六年前にも似たようなことがあった気がすんな…」
開店十周年を来月に控えるキャバクラ店長が、そんな呟きを残して店内に戻る頃には、もうどちらの音も聞こえなくなっていた…。
――――しばらくはざわざわと別種の賑やかさに支配されていた空気も、時間の経過と共にいつもの喧騒へと戻っていく。行き交う誰もが互いのことなど気にもせず、明るいネオンに吸い込まれていく街。
そんな誰もが目を向けることすらないネオンとネオンの隙間…路地裏の闇から、人影が三つ現れた。
「ダメね~。あそこでノートを取れてたら~、立派な《神》になれたのに~。うふふ~」
ずるりと黒のローブを引き摺った女が、水晶を撫でまわしながらスローに笑う。
「しかし、それを選ばれれば私達も彼を滅ぼす以外にありませぬゆえ」
それに答えたのは、体線にぴたりと合った黒のスーツをまとい、長い黒髪とまるで人形のように整った美貌を持つ女だった。だが、彼女が美しいだけの人形と決定的に違うのは、黒いローブの女に向けた表情が安堵するような優しい笑みだったところと…。
「街を騒がせずに済んでようございました。…途中、杜撰な策に冷や冷や致しましたが」
「おーおー、相変わらず怖いねェ」
後ろへ撫でつけたボサ髪を誤魔化すようにガシガシと掻く例の男へ、冷たい目線と共にさり気なく嫌味を放ったところだ。
「ま、いいじゃねェかよ無事に片付いたんだ」
当の男は睨まれたことなど欠片も気にしてはおらず、へらへらと笑っている。更に一言二言付け加えてやろうかと目を吊り上げたスーツの女の横で、ローブの女がうふふ~と地を這うような声で笑った。
「あとはサツの出番だ。…帰ろうぜ。これ以上遅くなると、『先生』にバレちまわァ」
先生、の呼称にスーツの女の怒気が一瞬で霧散した。それをにやりと無言の笑みで見やり、男は返事を待たず歩き始める。いつの間にか既に歩き始めていたローブの女と、男の後を、スーツの女が少し慌て気味に追いかけた。
実に奇妙にして不釣り合いな三人であったが、それぞれでも人目を引く彼らが人通りの多い表通りを連れ立って歩いていても、気に留める者は一人もいない。
それがこの街の特性ではあるものの、些か度を越して無関心すぎはしないだろうか。
知らぬ者がみたら間違いなくそう思うだろう。
けれどそれが当たり前というように、三人は歩く。人ごみの中を、誰を避けることもなく、誰に避けられることもなく。まるで普通の友人同士のような会話に、ところどころ不可解な部分を含ませながら。
「にしても、見事にエリートさんが蓬莱寺の二代目になっちまったもんだな。いやぁ、遠野の姉さんに教えてやりたかったぜ」
「…遠野様であれば、既に写真は入手し、明日には記事を書いておられるのでは…」
「うふふ~、アン子ちゃ~んは~、時々ミサちゃ~んより千里眼~」
「おい、やめてくれ、寒気がしてきたぞ…」
男がわざとらしくコートの前をかき抱いて身を竦める真似をしてみせると、おどけた様子につい女性陣から笑い声が上がる。その笑い声が薄れた後、幾ばくかの無言の時間が過ぎてから再び男が口を開いた。
「…あんなモンで気軽に人が殺せるってのはおっかねェもんだな。詳しく聞いちゃいたが、現物に触るとなったら流石にゾッとしたぜ」
愚痴る男に、スーツの女が今度は素直に頷く。
「マサキ様の星見によれば、あのまま彼がノートを持ち続けていれば、夥しい数の人間が殺され続けただろう…と。初めは犯罪者と認定された者のみではあるけれど、いずれは…それも、そう遠くない時期に、その殺意は罪のない人間にまで及んだだろうとのこと…」
「違いないね~」
ローブの女が、大事そうに抱えた水晶を顔の前にかざしながら同意を示す。
「大いなる禍の星が味方~、魂が曇れば曇るほど~、凶星の加護で力をつけてたはず~。こんな簡単にどうにかなったのはまだ早い段階だったから~。それと~」
黒布の下から覗く瞳が、きらりと光った。
「彼の『敵』となるはずの存在が~、凶星を打ち払う《黄龍》の加護を得たから~。…うふふ~、ひーちゃんの敵は~ミサちゃんの敵~。うふふふふ~」
悦に入った不気味な笑いでローブを波打たせる姿に、慣れているはずの男も思わず足が一歩離れた。
「…へッ、あの兄さんにゃ可哀想だが、相手が悪かったとしか言いようがねェか…。『先生』の『ダチ』をむざむざ死なせるわけにもいかねェし」
「確かに…」
珍しく意見の合った白黒の男女がそれぞれ皮肉を交えた笑顔と渋面とに表情を変えた横で、ローブの女だけは心からの喜びを全身で表現していた。
「ミサちゃん大勝利~でご機嫌~。ひーちゃんに自慢できないのは~残念だけど~、代わりに『いいもの』貰ったしね~」
満足げな声に、一触即発の冷戦状態となっていた二人が彼女へと視線を戻す。
黒一色の中からにゅうと突き出る女の手にあるのは先程まで撫でまわしていた水晶では無く、似た輝きを放つ小瓶であった。
小瓶を目にした二人の表情が、明らかに曇る。
「『いいもの』かねェ…」
男の飄々とした態度が崩れ、心底不安そうに呟いた。言葉にはしないが、スーツの女も近い意見なのだろう、美しい相貌を陰らせてじっと友を見やる。…彼らの不安げな視線に気付いた女は、元より体格差で上下に離れていたそれを更に引き離すように腰を曲げ、這い寄るような動作で二人を下から覗き込んだ。
「大丈夫よ~。ノートが使えなければ~、安全なペット~。とっても可愛いわ~。…それにね~」
姿勢を元に戻し、くるりと真っ黒な背を向ける。右の人差し指と親指の間に小瓶を挟み込み、ゆっくりとした動作で掲げ持つと、小瓶は街灯の鈍い白色光を反射して場違いなほどきらきらと美しく輝いた。
―――――――――その中で、もぞもぞと蠢く黒い塊を人の目から覆い隠すように。
光に透かした小瓶の中身をひとしきり楽しく鑑賞した女が、首だけをくるりと振り返らせて悪戯っぽく…というにはやや不気味に…微笑んだ。
「…餌がリンゴだけでいいなんて~、経済的~。うふふふふ~」
ああ、と他の二名が諦めたように天を仰ぐ。
「解決、したのでしょうか…」
「こりゃ、後でインケン陰陽師に嫌味を食らうかね…」
はぁぁ、と深く吐いたため息が冬の寒さに白く曇る。
研ぎ澄まされた冷気の中、月に照らされた三つの影はやがて雑踏へと紛れて消えた。

END。



※※※※※

終わった…(倒)

えー、これにて本当の本当に「螺旋の黄龍」終了です。
今回の「オチ」は、割と最初に考えてはいたのですが、何分メインである龍麻もLも一切出てこない、しかもゲームの内容とももう関係がない、そしてデスノの主人公である例のあの人が出てしまう…という三重苦。どーしよかなーとぐだぐだしていたら…いつの間にかもう4年も書き始めてから過ぎてたんですね…orz
今年は色々と同人・創作活動について考えるきっかけもあり、まずはとにかく目の前にあるものを「完結」させていくことを目指そうと、今回の最終更新に至りました。
結局最後まで迷いはあったものの、拙いながらもこの世界を書き切れたということに安堵しております。黄龍&Lのコンビにもすっかり愛着がわきすぎてしまったので、きっとこれからも私が黄龍同人続ける限りはちょこちょこどこかしらに顔を出してくるんじゃないのかな(笑)
今までお付き合いくださった皆様、本当に有難うございました!なんだかんだでこの螺旋、一番感想をもらった作品になりました。完全なる「俺得パラレル」でありながら、世界観を共有して楽しんでくださる皆様がいてくださったことで、もういいやと放置せずにここまで書けたのだと思います。心から感謝致します。ありがとうございました!

それでは、またいつか別の作品でお会いできますように。

2012.12.6  島津晶左

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