P3P二次創作SS・9。【P3Pネタばれ&カプあり注意!】
2009年12月25日 二次創作いろいろこれはP3Pの当サイト主人公たちの二次創作です。オリジナル設定満載&フェスネタばれ前提ですので読まれる際はご注意ください。
荒女主で映画祭り。ちょっといつもよりラブ度高め?
今回も全然出てこない人ばっかりな登場人物簡単紹介。
静真(しずま)…P3男主
成美(なるみ)…P3女主
双子でラブラブな主人公。男子(フェスクリア後封印中)はザベス、女子(P3P1周目トライ中)はガキさんといずれくっつく未来予想図。
P1主・玲矢(れいや)が「兄」(※引き取られ先の長男)で、P4主・有人(あると)は「はとこ」。苗字は全員「神那姫(かんなぎ)」です。
色々オリジナル入ってますので詳しくはサイトのSS「時を告げる」を御確認下さい。
とりあえずそんなところです。OKと言っていただける場合のみ、スクロールどうぞ。
↓↓↓
月半ばに訪れた長い連休も、ついに最後の一日となった秋分の日。
残暑も少々和らぎ心地よい秋晴れとなったこの日であったが、その祝日を謳歌しているはずのとある人物は予想外の事態にやや狼狽していた。
「な、泣いてませんよ!?全然泣いてませんから!」
元より深紅の瞳を真っ赤に充血させ、今にもぼろぼろと零れ落ちそうな涙を必死に堪える。そんな少女を前にして、一体どういう反応をすればいいのやら。
見た目はともかく実際は少女よりたった一つしか年上ではない少年は、なるべく彼女の顔を見ないようにしてやりながらその頭を撫でてやった。
「分かった分かった…。いいから落ち着け」
「うう…」
「…ったく、本当におめぇは…」
猫の模様が入ったハンカチを握り締め、どうにか『泣いてない』状態を保とうと頑張っている。その様子が少しばかり滑稽に映り、すっかり困り果てていた少年の表情に優しい微笑みが混じる。
口にすることはなかったが、そんな彼女がとても愛しいと素直に思う事が出来たから。
「先輩、今日はお暇ですか?」
きらきらと目を輝かせた成美が開口一番にそう尋ねて来た時、まったく期待などなかったと言えば嘘になる。
「…なんか、あんのか」
だから否定も肯定もせずにそう問いかけ返すと、素直な後輩はその通り含みの一つもなく「はい」と笑顔で答えた。
「今日は一日だけ復活の映画祭りなんですよ」
「映画祭り…?」
口にしてから、ああ、と思いだす。
そういえば夏の間、ポートアイランドの映画館でそのような催しをやっていた。尤も、荒垣自身は寄り付きもしなかったのでさほど内容を知ってはいないのだが。
疑問符の後は無言になってしまった荒垣に、成美は気を悪くした様子もなくにこにこと説明を始めた。
「元々は夏休みにやってた、日ごとにテーマを決めて何本も一度に映画を上映するお祭りだったんですけど、そのお祭りがなんと今日だけ復活するんです!私、夏の間に通ってたらすっかりあの大画面の迫力にはまっちゃって。せっかくの復活だし、今日も行ってこようと思うんですけど、よかったら先輩も一緒に行きませんか?」
楽しそうに語っていたかと思いきや突然あっさりと誘われて、黙って聞いていた荒垣は一瞬反応が遅れた。
「…俺と、か?」
聞き返すと、成美の表情がほんの少し曇る。
「だめ、ですか」
「あ、いや、別にだめってわけじゃねぇが…」
傷付けてしまったように感じ、どきりとする。デート、という単語が頭を掠めるのを慌てて振り払い、言い訳をしながら無意味にぐしゃりと前髪をかき混ぜた。
まさか、そんな都合のいい話があるものか。
「なんつーか…女のダチと一緒に行った方が、盛り上がるんじゃねぇのか」
意図を探ろうとそんな風に言ってみれば、真っ直ぐに覗き込んでくる深紅の瞳はますますしゅんとなり、元気をなくしてしまう。
「男友達じゃないから、楽しくありませんか…?」
「なっ…」
ただでさえ焦っているところに予想外の言葉が連続し、荒垣も流石に動揺を隠しきれない。
「ち、違っ、俺のことじゃなくてだな、その、おめぇが…いいのかって話で」
どう話せばいいのか分からず、どもりながらなんとか言い直す。
すると、ほっとしたように成美に笑顔が戻った。
「私、先輩と出かけるの楽しいです!」
「っ…そ、そうか…」
そんな風に言われてしまえば、荒垣に出来る返事は一つしかない。
「…んじゃ、行くか」
元より荒垣とて、成美と過ごす時間が増えることを厭うているわけではない。寧ろ真逆だ。
「はい!」
答えた声の嬉しそうな響きに、安堵と幸福感を覚える。ともすればぎこちなくなってしまいそうな自分の態度をどうにか誤魔化ながら、珍しく日のある時間に二人連れ立って寮を出た。
「あのな…こういうのが苦手なら最初からそう言え」
「にっ、苦手なんかじゃにゃいれすっ、いひゃっ!」
「…噛むほど慌てんな…」
…いざ映画祭りの会場に着いてみたところ、大きな看板に書かれた今回のテーマは「ワンニャン王国」。
どう考えても自分は不似合いだろうと思う雰囲気に思わず隣の成美を見れば、誘った本人も「しまったなー」という表情をしていた。今回のテーマを確認してなかったです、ごめんなさい、と正直に謝る彼女に、観たいのかと尋ねたら一瞬間が開いた。…尤も、その目は本人が思っている以上にポスターの可愛い犬猫を追いかけていていたが。
結局黙って成美を連れ、映画館に入ったのが今から6時間ほど前。
(…やべぇ…)
その間延々と流れていた「小さな生き物が様々な困難にあいながらも懸命に生き抜く」ストーリーにうっかり途中で感情移入しすぎた荒垣は、暗い館内から出る際に実はかなり焦っていた。
流石に決して泣いてはいない。が、映画の内容に昔の思い出などもつい重なってしまったりして多少ぐっと来たのは事実である。目ぐらいはちょっと赤いかもしれない。そんなみっともないところを成美に見せるのも気恥ずかしく、先に帰ると言って逃げてしまおうかなどと後ろ向きなことを考えて彼女を盗み見た。のだが。
「か、神那姫っ!?」
次の瞬間、荒垣の思考は真っ白になった。
随分静かだと思っていた隣人は、真っ赤な目を半分以上浸水させた状態でぎゅーっと唇を噛み締めていたのだ。
「泣いてないですよ!?」
あくまでそう言い張る成美を宥め、どうにか映画館の外のベンチに座らせた頃には自分のことどころか映画の内容まで吹っ飛んでいた。
「分かった分かった、俺が悪かった。だから少し大人しくしとけ。…喋んなくていいぞ」
「うー…」
口元にハンカチを当てて蹲っているその背をぽんぽんと叩いてやると、茶色の髪がこくんと小さく頷いた。
大人しくなった成美にほっとしつつも、沈黙に珍しく居心地の悪さを覚えてしまうのはいつもの笑顔がないからだろうか。
「あー…ちょっと待ってろ、なんか冷たいもんでも買ってきてやる」
少し自分も落ち着いた方がいい。そう判断して声をかける。
慌てて顔を上げる気配がしたので、それより先にその頭をくしゃ、とかき混ぜるように撫でた。
「馬鹿、そのままの顔じゃ帰れねぇだろ。すぐ戻るから、大人しくしてろ。いいな?」
こくん、と手の下で再び頭が肯定を示す方向に動くのを確認し、駅の方へと早足で向かう。
「…っとに、あいつは…」
駅前の自販機の並びからスポーツドリンクと水のペットボトルを探し出すと、ポケットの小銭を投入口に放り込んで一人呟く。
泣いてませんよ、と必死に言い募る姿は、強がりにしては度が過ぎるように思えた。
あんなにも表情豊かで素直なくせに、悲しみどころか今回のように感情が高ぶった時でさえ成美は泣いている自分を拒絶する。
まるで彼女は、「泣くこと」を自分に許していないかのようだ。
「考えすぎか…?」
ゴトン、と取り出し口にペットボトルが落ちる。意外に大きな音が、荒垣の思考をそこで断ち切った。
結露を纏った冷たいボトルを掴み出し、ひやりとしたその感触に小さくため息が漏れる。
(何を考えてんだ。らしくねぇ)
彼女に出会ってから、自分の感情が思い通りにならず戸惑うばかりだ。
こんな想いに揺らいでいる場合ではないと分かっているのに、気付けばいつも自分の目は彼女を追っている。今日のように、こんな些細な出来事でさえも、共有する時間が愛しくてならない。
決して届かない、気付かれることすら許されない想いだというのに、捨て去ることもできなくて。
「…チッ」
小さく舌打ちをして元来た方角へと振り返る。あの小さな背中の傍へと戻るまでには、いつもの自分を取り戻していなければ。
傾きかけた陽ざしに一瞬目を眩まされ、幾度かの瞬きの後に成美のいる方角へ目を向けた。
…ペットボトルがコンクリートの階段に落下し、濡れた跡を残して転がる。
それより早く、荒垣は階段を駆け降りていた。
「やめてください!人を待ってるって言ってるじゃないですか!」
気丈に声を上げる少女を、三人の男がニヤニヤと嫌らしく笑いながら取り囲む。
そんな光景を通行人がちらちらと同情交じりに眺めるが、誰も巻き込まれるのを恐れて近づこうとはしなかった。
「強がっちゃってさぁ。どこにいんのぉ、そんな人?」
「んなに泣いてんじゃん。どーせ彼氏に捨てられたんだろ?俺たちが可愛がってやるからさ」
「やだ!放して!」
「暴れんなって!」
掴まれた腕を振り解こうと手を振り回す成美に、他の二人が一斉に手を伸ばす。しかし、それは寸前でぴたりと止まった。
「え、なんだよ、おい…」
「い、痛ぇっ!?」
何者かに腕を強く掴まれ、ギリギリと万力のように締め上げられる。その余りの痛みに悲鳴をあげた男たちは、振り向いてもう一度悲鳴を上げた。
「…てめぇら、そいつに何してやがる」
「あ、お、お前、ツキコーの荒垣…ぎゃあ!!」
掴まれた腕を放り投げるように引かれ、二人の男は後方へと転がる。残された男は成美の腕を掴んだまま硬直していたが、荒垣に睨まれると慌ててその手を放した。
「先輩…!」
解放された安心感に、荒垣の元へと真っ直ぐ駆け寄る。しかしその足が止まるよりも早く、思いもよらぬ力で引き寄せられ、成美は先程とは違う驚きの声を上げた。
「せん、ぱい…?」
荒垣の右腕が包み込むように肩へと回されている。それはすなわち。
(抱きしめ、られてる…?)
強くその胸に押しつけられ、身動きが出来ない。心臓の鼓動さえも聞こえる近さに、息が止まりそうになる。そんな成美の頭上で、腕を掴んでいた男と荒垣の声がした。
「な、なんだよ、荒垣…邪魔すんじゃねぇよ、テメーの女だってかぁっ!?」
おそらくは三人のリーダー格だったのだろう。どうにか体裁を保とうとしているのか、脅えを含みながらも男が威嚇してくる。
しかし、それは最早何の役にも立たなかった。
「…そうだ」
短い返答に、男が小さく「へっ?」と間の抜けた声を出す。成美に聞き取れたのは、そこまでだった。
「っ、せんぱ…」
ぐい、と成美の頭を抱き込むように引き寄せ、腕で耳を覆う。
思った以上に柔らかな身体と、自分より高い体温を間近に感じ、心音だけは誤魔化しがきかないなと頭の隅で考えた。だけど、この言葉は聞かせるわけにはいかない。
本当の気持ちを隠した、この言葉だけは。
「…俺の女だ。手ぇ出すんじゃねぇ…!」
「ひっ…!」
引き攣った声を揚げ、男は既に逃げ出していた仲間の後を追い、こけつまろびつ走り去る。最後に「覚えてろ」というような類の捨て台詞を残したような気もするが、そんなものは当然誰の意識にも引っかかることはなかった。
「…大丈夫か」
そっと腕を緩めると、慌てたようにその顔が上を向く。まだ充血している目はともかく、その頬がそれ以上に真っ赤になっていることに気付き、荒垣は慌てて腕を放した。
「あ、わ、悪りぃ」
「い、いえ、あ、ありがとうございました…!」
頭を下げようとする成美を押しとどめ、逆に荒垣が目を落とす。
「その、気にすんな。…一人にさせた俺が悪い」
「先輩…」
口にした言葉は、決して優しさや彼女を庇う意図ではなかった。傍にいた以上、自分が彼女を守るのは当り前のことだ。それすら出来なかった自分への苛立ちが荒垣の表情を自然と険しくさせる。
けれど。
「でも、先輩、助けてくれました」
「…!」
「嬉しかった、です」
成美の言葉が、暗く波立つ心を穏やかにしてしまう。
俯いていたその顔が幸せそうだと、ちゃんと覗き込めば荒垣にも分かっただろう。でもそれは、今の彼にはまだ踏み込むことのできない先にあった。
俯いた頭を、優しく撫でる。
「…帰んぞ。またあんなのに絡まれたら厄介だ」
「はい…」
そんな言葉しか出てこない自分を情けなく思いながらも、先程までのような苛立ちはもう感じなかった。
駅の改札を出るころには、宵闇が近くに迫っていた。
言葉少なに並んで歩く、その足元にオレンジ色に照らされた長い影か落ちる。近付き過ぎず、けれど、すぐ隣に。
「先輩」
寮が見えたと思った丁度その時、呼びかける声に目線を向ける。
「今日は、ありがとうございました」
深紅の瞳が真っ直ぐに自分を映す。
最初に会った頃は、この何もかもを見透かしてしまいそうな瞳に怖れにも近い感情を抱き、目を逸らしたこともある。けれど今は、違う怖れを感じながらも、決して目を逸らすことが出来ない。
「…!」
その目を見つめたまま、悪いな、と言おうとして、不意に指で口を塞がれた。
驚く荒垣に、漸くいつもの顔で成美が笑う。
「最初に言いましたよ?私、先輩といるの、楽しいです」
だから、自分を悪者にするような言葉は言わないで。
優しい笑顔の中にそんな強い意志を感じて、荒垣は言葉を飲み込んだ。
「ったく、おめぇは…」
代わりに口をついたのは、彼女に対し何度も口にした言葉。
その先はいつも音にならないが、こいつには敵わない、という気持ちの結晶のようなもの。
寮の扉が徐々に近付く。
その扉を開けてしまえば、『二人』の時間は『みんな』の時間に戻ってしまう。
歩を止めずに、けれどほんの少しゆっくりと進む中で、荒垣は成美の頭をくしゃりと撫でた。
「…俺も、楽しかった」
頬がどれほど赤くても、今なら夕焼けのせいで誤魔化せる。
そう考えたのは、きっとどちらも同時だっただろう。
あんまり無防備に近付いてくれるな、と少年は思い、そんなに優しくしないで下さい、と少女は思う。
「…誤解、しちまうだろ…」
「…誤解、しちゃいますよ…?」
二人の小さな声は、望み通り互いには聞こえないまま扉の外で空に消えた。
END。
クリスマスなので甘い話を!と思ったはいいが間に合わなかった(※UPしたのは26日午前4時半)ぁぁぁぁ(馬鹿)しかもさして甘くないという(閉店ガラガラ)。
荒女主で映画祭り。ちょっといつもよりラブ度高め?
今回も全然出てこない人ばっかりな登場人物簡単紹介。
静真(しずま)…P3男主
成美(なるみ)…P3女主
双子でラブラブな主人公。男子(フェスクリア後封印中)はザベス、女子(P3P1周目トライ中)はガキさんといずれくっつく未来予想図。
P1主・玲矢(れいや)が「兄」(※引き取られ先の長男)で、P4主・有人(あると)は「はとこ」。苗字は全員「神那姫(かんなぎ)」です。
色々オリジナル入ってますので詳しくはサイトのSS「時を告げる」を御確認下さい。
とりあえずそんなところです。OKと言っていただける場合のみ、スクロールどうぞ。
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月半ばに訪れた長い連休も、ついに最後の一日となった秋分の日。
残暑も少々和らぎ心地よい秋晴れとなったこの日であったが、その祝日を謳歌しているはずのとある人物は予想外の事態にやや狼狽していた。
「な、泣いてませんよ!?全然泣いてませんから!」
元より深紅の瞳を真っ赤に充血させ、今にもぼろぼろと零れ落ちそうな涙を必死に堪える。そんな少女を前にして、一体どういう反応をすればいいのやら。
見た目はともかく実際は少女よりたった一つしか年上ではない少年は、なるべく彼女の顔を見ないようにしてやりながらその頭を撫でてやった。
「分かった分かった…。いいから落ち着け」
「うう…」
「…ったく、本当におめぇは…」
猫の模様が入ったハンカチを握り締め、どうにか『泣いてない』状態を保とうと頑張っている。その様子が少しばかり滑稽に映り、すっかり困り果てていた少年の表情に優しい微笑みが混じる。
口にすることはなかったが、そんな彼女がとても愛しいと素直に思う事が出来たから。
「先輩、今日はお暇ですか?」
きらきらと目を輝かせた成美が開口一番にそう尋ねて来た時、まったく期待などなかったと言えば嘘になる。
「…なんか、あんのか」
だから否定も肯定もせずにそう問いかけ返すと、素直な後輩はその通り含みの一つもなく「はい」と笑顔で答えた。
「今日は一日だけ復活の映画祭りなんですよ」
「映画祭り…?」
口にしてから、ああ、と思いだす。
そういえば夏の間、ポートアイランドの映画館でそのような催しをやっていた。尤も、荒垣自身は寄り付きもしなかったのでさほど内容を知ってはいないのだが。
疑問符の後は無言になってしまった荒垣に、成美は気を悪くした様子もなくにこにこと説明を始めた。
「元々は夏休みにやってた、日ごとにテーマを決めて何本も一度に映画を上映するお祭りだったんですけど、そのお祭りがなんと今日だけ復活するんです!私、夏の間に通ってたらすっかりあの大画面の迫力にはまっちゃって。せっかくの復活だし、今日も行ってこようと思うんですけど、よかったら先輩も一緒に行きませんか?」
楽しそうに語っていたかと思いきや突然あっさりと誘われて、黙って聞いていた荒垣は一瞬反応が遅れた。
「…俺と、か?」
聞き返すと、成美の表情がほんの少し曇る。
「だめ、ですか」
「あ、いや、別にだめってわけじゃねぇが…」
傷付けてしまったように感じ、どきりとする。デート、という単語が頭を掠めるのを慌てて振り払い、言い訳をしながら無意味にぐしゃりと前髪をかき混ぜた。
まさか、そんな都合のいい話があるものか。
「なんつーか…女のダチと一緒に行った方が、盛り上がるんじゃねぇのか」
意図を探ろうとそんな風に言ってみれば、真っ直ぐに覗き込んでくる深紅の瞳はますますしゅんとなり、元気をなくしてしまう。
「男友達じゃないから、楽しくありませんか…?」
「なっ…」
ただでさえ焦っているところに予想外の言葉が連続し、荒垣も流石に動揺を隠しきれない。
「ち、違っ、俺のことじゃなくてだな、その、おめぇが…いいのかって話で」
どう話せばいいのか分からず、どもりながらなんとか言い直す。
すると、ほっとしたように成美に笑顔が戻った。
「私、先輩と出かけるの楽しいです!」
「っ…そ、そうか…」
そんな風に言われてしまえば、荒垣に出来る返事は一つしかない。
「…んじゃ、行くか」
元より荒垣とて、成美と過ごす時間が増えることを厭うているわけではない。寧ろ真逆だ。
「はい!」
答えた声の嬉しそうな響きに、安堵と幸福感を覚える。ともすればぎこちなくなってしまいそうな自分の態度をどうにか誤魔化ながら、珍しく日のある時間に二人連れ立って寮を出た。
「あのな…こういうのが苦手なら最初からそう言え」
「にっ、苦手なんかじゃにゃいれすっ、いひゃっ!」
「…噛むほど慌てんな…」
…いざ映画祭りの会場に着いてみたところ、大きな看板に書かれた今回のテーマは「ワンニャン王国」。
どう考えても自分は不似合いだろうと思う雰囲気に思わず隣の成美を見れば、誘った本人も「しまったなー」という表情をしていた。今回のテーマを確認してなかったです、ごめんなさい、と正直に謝る彼女に、観たいのかと尋ねたら一瞬間が開いた。…尤も、その目は本人が思っている以上にポスターの可愛い犬猫を追いかけていていたが。
結局黙って成美を連れ、映画館に入ったのが今から6時間ほど前。
(…やべぇ…)
その間延々と流れていた「小さな生き物が様々な困難にあいながらも懸命に生き抜く」ストーリーにうっかり途中で感情移入しすぎた荒垣は、暗い館内から出る際に実はかなり焦っていた。
流石に決して泣いてはいない。が、映画の内容に昔の思い出などもつい重なってしまったりして多少ぐっと来たのは事実である。目ぐらいはちょっと赤いかもしれない。そんなみっともないところを成美に見せるのも気恥ずかしく、先に帰ると言って逃げてしまおうかなどと後ろ向きなことを考えて彼女を盗み見た。のだが。
「か、神那姫っ!?」
次の瞬間、荒垣の思考は真っ白になった。
随分静かだと思っていた隣人は、真っ赤な目を半分以上浸水させた状態でぎゅーっと唇を噛み締めていたのだ。
「泣いてないですよ!?」
あくまでそう言い張る成美を宥め、どうにか映画館の外のベンチに座らせた頃には自分のことどころか映画の内容まで吹っ飛んでいた。
「分かった分かった、俺が悪かった。だから少し大人しくしとけ。…喋んなくていいぞ」
「うー…」
口元にハンカチを当てて蹲っているその背をぽんぽんと叩いてやると、茶色の髪がこくんと小さく頷いた。
大人しくなった成美にほっとしつつも、沈黙に珍しく居心地の悪さを覚えてしまうのはいつもの笑顔がないからだろうか。
「あー…ちょっと待ってろ、なんか冷たいもんでも買ってきてやる」
少し自分も落ち着いた方がいい。そう判断して声をかける。
慌てて顔を上げる気配がしたので、それより先にその頭をくしゃ、とかき混ぜるように撫でた。
「馬鹿、そのままの顔じゃ帰れねぇだろ。すぐ戻るから、大人しくしてろ。いいな?」
こくん、と手の下で再び頭が肯定を示す方向に動くのを確認し、駅の方へと早足で向かう。
「…っとに、あいつは…」
駅前の自販機の並びからスポーツドリンクと水のペットボトルを探し出すと、ポケットの小銭を投入口に放り込んで一人呟く。
泣いてませんよ、と必死に言い募る姿は、強がりにしては度が過ぎるように思えた。
あんなにも表情豊かで素直なくせに、悲しみどころか今回のように感情が高ぶった時でさえ成美は泣いている自分を拒絶する。
まるで彼女は、「泣くこと」を自分に許していないかのようだ。
「考えすぎか…?」
ゴトン、と取り出し口にペットボトルが落ちる。意外に大きな音が、荒垣の思考をそこで断ち切った。
結露を纏った冷たいボトルを掴み出し、ひやりとしたその感触に小さくため息が漏れる。
(何を考えてんだ。らしくねぇ)
彼女に出会ってから、自分の感情が思い通りにならず戸惑うばかりだ。
こんな想いに揺らいでいる場合ではないと分かっているのに、気付けばいつも自分の目は彼女を追っている。今日のように、こんな些細な出来事でさえも、共有する時間が愛しくてならない。
決して届かない、気付かれることすら許されない想いだというのに、捨て去ることもできなくて。
「…チッ」
小さく舌打ちをして元来た方角へと振り返る。あの小さな背中の傍へと戻るまでには、いつもの自分を取り戻していなければ。
傾きかけた陽ざしに一瞬目を眩まされ、幾度かの瞬きの後に成美のいる方角へ目を向けた。
…ペットボトルがコンクリートの階段に落下し、濡れた跡を残して転がる。
それより早く、荒垣は階段を駆け降りていた。
「やめてください!人を待ってるって言ってるじゃないですか!」
気丈に声を上げる少女を、三人の男がニヤニヤと嫌らしく笑いながら取り囲む。
そんな光景を通行人がちらちらと同情交じりに眺めるが、誰も巻き込まれるのを恐れて近づこうとはしなかった。
「強がっちゃってさぁ。どこにいんのぉ、そんな人?」
「んなに泣いてんじゃん。どーせ彼氏に捨てられたんだろ?俺たちが可愛がってやるからさ」
「やだ!放して!」
「暴れんなって!」
掴まれた腕を振り解こうと手を振り回す成美に、他の二人が一斉に手を伸ばす。しかし、それは寸前でぴたりと止まった。
「え、なんだよ、おい…」
「い、痛ぇっ!?」
何者かに腕を強く掴まれ、ギリギリと万力のように締め上げられる。その余りの痛みに悲鳴をあげた男たちは、振り向いてもう一度悲鳴を上げた。
「…てめぇら、そいつに何してやがる」
「あ、お、お前、ツキコーの荒垣…ぎゃあ!!」
掴まれた腕を放り投げるように引かれ、二人の男は後方へと転がる。残された男は成美の腕を掴んだまま硬直していたが、荒垣に睨まれると慌ててその手を放した。
「先輩…!」
解放された安心感に、荒垣の元へと真っ直ぐ駆け寄る。しかしその足が止まるよりも早く、思いもよらぬ力で引き寄せられ、成美は先程とは違う驚きの声を上げた。
「せん、ぱい…?」
荒垣の右腕が包み込むように肩へと回されている。それはすなわち。
(抱きしめ、られてる…?)
強くその胸に押しつけられ、身動きが出来ない。心臓の鼓動さえも聞こえる近さに、息が止まりそうになる。そんな成美の頭上で、腕を掴んでいた男と荒垣の声がした。
「な、なんだよ、荒垣…邪魔すんじゃねぇよ、テメーの女だってかぁっ!?」
おそらくは三人のリーダー格だったのだろう。どうにか体裁を保とうとしているのか、脅えを含みながらも男が威嚇してくる。
しかし、それは最早何の役にも立たなかった。
「…そうだ」
短い返答に、男が小さく「へっ?」と間の抜けた声を出す。成美に聞き取れたのは、そこまでだった。
「っ、せんぱ…」
ぐい、と成美の頭を抱き込むように引き寄せ、腕で耳を覆う。
思った以上に柔らかな身体と、自分より高い体温を間近に感じ、心音だけは誤魔化しがきかないなと頭の隅で考えた。だけど、この言葉は聞かせるわけにはいかない。
本当の気持ちを隠した、この言葉だけは。
「…俺の女だ。手ぇ出すんじゃねぇ…!」
「ひっ…!」
引き攣った声を揚げ、男は既に逃げ出していた仲間の後を追い、こけつまろびつ走り去る。最後に「覚えてろ」というような類の捨て台詞を残したような気もするが、そんなものは当然誰の意識にも引っかかることはなかった。
「…大丈夫か」
そっと腕を緩めると、慌てたようにその顔が上を向く。まだ充血している目はともかく、その頬がそれ以上に真っ赤になっていることに気付き、荒垣は慌てて腕を放した。
「あ、わ、悪りぃ」
「い、いえ、あ、ありがとうございました…!」
頭を下げようとする成美を押しとどめ、逆に荒垣が目を落とす。
「その、気にすんな。…一人にさせた俺が悪い」
「先輩…」
口にした言葉は、決して優しさや彼女を庇う意図ではなかった。傍にいた以上、自分が彼女を守るのは当り前のことだ。それすら出来なかった自分への苛立ちが荒垣の表情を自然と険しくさせる。
けれど。
「でも、先輩、助けてくれました」
「…!」
「嬉しかった、です」
成美の言葉が、暗く波立つ心を穏やかにしてしまう。
俯いていたその顔が幸せそうだと、ちゃんと覗き込めば荒垣にも分かっただろう。でもそれは、今の彼にはまだ踏み込むことのできない先にあった。
俯いた頭を、優しく撫でる。
「…帰んぞ。またあんなのに絡まれたら厄介だ」
「はい…」
そんな言葉しか出てこない自分を情けなく思いながらも、先程までのような苛立ちはもう感じなかった。
駅の改札を出るころには、宵闇が近くに迫っていた。
言葉少なに並んで歩く、その足元にオレンジ色に照らされた長い影か落ちる。近付き過ぎず、けれど、すぐ隣に。
「先輩」
寮が見えたと思った丁度その時、呼びかける声に目線を向ける。
「今日は、ありがとうございました」
深紅の瞳が真っ直ぐに自分を映す。
最初に会った頃は、この何もかもを見透かしてしまいそうな瞳に怖れにも近い感情を抱き、目を逸らしたこともある。けれど今は、違う怖れを感じながらも、決して目を逸らすことが出来ない。
「…!」
その目を見つめたまま、悪いな、と言おうとして、不意に指で口を塞がれた。
驚く荒垣に、漸くいつもの顔で成美が笑う。
「最初に言いましたよ?私、先輩といるの、楽しいです」
だから、自分を悪者にするような言葉は言わないで。
優しい笑顔の中にそんな強い意志を感じて、荒垣は言葉を飲み込んだ。
「ったく、おめぇは…」
代わりに口をついたのは、彼女に対し何度も口にした言葉。
その先はいつも音にならないが、こいつには敵わない、という気持ちの結晶のようなもの。
寮の扉が徐々に近付く。
その扉を開けてしまえば、『二人』の時間は『みんな』の時間に戻ってしまう。
歩を止めずに、けれどほんの少しゆっくりと進む中で、荒垣は成美の頭をくしゃりと撫でた。
「…俺も、楽しかった」
頬がどれほど赤くても、今なら夕焼けのせいで誤魔化せる。
そう考えたのは、きっとどちらも同時だっただろう。
あんまり無防備に近付いてくれるな、と少年は思い、そんなに優しくしないで下さい、と少女は思う。
「…誤解、しちまうだろ…」
「…誤解、しちゃいますよ…?」
二人の小さな声は、望み通り互いには聞こえないまま扉の外で空に消えた。
END。
クリスマスなので甘い話を!と思ったはいいが間に合わなかった(※UPしたのは26日午前4時半)ぁぁぁぁ(馬鹿)しかもさして甘くないという(閉店ガラガラ)。
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