これはP3Pの当サイト主人公たちの二次創作です。オリジナル設定満載&フェスネタばれ前提ですので読まれる際はご注意ください。

荒女主で風邪引きイベント後の話。ちょい乙女系な。


今回も出てこない人だらけですが登場人物簡単紹介。

静真(しずま)…P3男主
成美(なるみ)…P3女主  

フェスED後、後日談通りの運命辿った男子主と、それを助ける為P3Pで過去をやり直してる女子主という双子の主人公。重度のシスコンと普通のブラコンの仲良し姉弟。
苗字は「神那姫(かんなぎ)」。玲矢(P1主)は2人の「兄」(※引き取られ先の長男)で、有人(P4主)は「はとこ」。

色々オリジナル入ってますので詳しくはサイトに掲載しているSS「時を告げる」を御確認下さい。
とりあえずそんなところです。OKと言っていただける場合のみ、スクロールどうぞ。



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甘い香りがキッチンに広がる。
オーブンの中から取り出したばかりのクッキーは、予想以上に綺麗な焼き色をしていた。
どれもこれも満足のいく出来ではあるが、一応その中で一番焦げているかな?というものをつまみ出し、調理者である少女は端を一口かじってみた。
「…よっし、大成功!」
胸の前で小さくガッツポーズを作りつつ、味見したクッキーの残りの部分を口に放り込む。まだ少し熱すぎるくらいの焼き菓子は、さくさくと小気味の良い音と甘い余韻を残し消えていった。
「さて、と…この調子で次のも焼いちゃうぞー!」
最初からの大成功に気分ものってきた少女…『特別課外活動部・現場リーダー』こと神那姫成美は、最近よく耳にする新人アイドルのCMソングをメロディだけ口ずさみながら冷蔵庫を開け、作ってあった生地を取り出す。ラップでいくつかのブロック状に分けられた生地は、取り出した分以外にもまだまだたくさん積まれていた。

成美が突然こんなに大量のクッキーを焼き始めたのは、ちゃんとした理由があってのことである。
この間、自分たちの先輩である荒垣がみんなのために夕食を作り、振舞ってくれたことに対してお礼をしようと思ったのだ。
「…いや、いいんだけどさ、流石にこれは多すぎない…?」
朝方、こっそりキッチンを覗きに来たゆかりが山と詰まれた材料に呆れたような声を出したが、それにだって訳がある。
「だって、あんなに料理の上手い人に変なもの渡せないじゃない…」
「あー、まー、確かにそうだけどさ」
そもそも同じ『料理』というカテゴリーでお礼をする、というのも成美にとってはかなり勇気の要る行為だった。それなりに経験値の高いお菓子ならば、と選んでみたはいいが、はたして喜んでもらえるかどうか今の段階になっても実は自信がない。
「だからいっぱい作って、中でも出来の良いのばっかり選んで渡そうかなーって」
「そんなことしなくても、成美ちゃんなら大丈夫だと思うけど…」
風花がゆかりと顔を見合わせて『ねぇ』と頷きあう。友人たちの高い評価は嬉しかったが、確実な成功を目指す成美はそれに甘んじてしまうわけにはいかなかった。
「ほら、種類もいっぱい作ってみたいし、料理部で次に作るときの練習にもなるし、ね?それに、余った分はみんなにも配るから」
「やった!実はちょっと期待してたんだー」
「そっか、じゃあ今度の部活で私にも作り方教えてね?」
各々の理由で喜びの声を上げる友人たちに了解の返事をして、早速作業に取り掛かる。風邪引きの時に食事の面倒を見てもらったお礼もあるから今回は自分だけでやりたい、とゆかりと風花は手伝いを断られてしまったのだが、当の2人は別段それを気にすることもなく、寧ろ頑張れ!と声援を送ってキッチンを後にした。
「…で、どう思う、風花。成美と荒垣先輩、なーんかいい感じなんじゃない?最近よく話してるとこ見るしさ」
「…やっぱり、ゆかりちゃんもそう思う?私もね、成美ちゃんと話してる時の荒垣先輩ってすごく優しい目をしてるなーって思ってたんだけど」
「あ、やっぱりやっぱり?成美も珍しく頼ってる感じだし、先輩だったらうちのリーダーを任せてもいいかなぁ…」
「そうだね、信頼できる人だし、2人が上手くいったら素敵だね。でも、ちょっと寂しい気もするけど…」
「まぁ、ね。でもほら、成美ってば彼氏ができても友情を疎かにするタイプじゃないし」
「…うん、そうだよね!」
寮を出た友人たちにそんな事をひそひそと話し合われているなどとはつゆ知らず、キッチンに1日篭る気満々の『うちのリーダー』は、うっかりしているとすぐに柔らかくなってしまうバターの塊と奮闘していたのだった。
・・・それから数時間。
フル稼働中のオーブンが次々と生地を焼き上げていく横で、成美は休みなく作業を続けていた。
焼きあがった型抜きクッキーにアイシングで模様をつける傍ら、ココアや抹茶を混ぜた生地とプレーン生地をブロックに組み、均等に切り分けて並べる。溶かしたチョコレートでコーティングしたものを乾かしながら、搾り出し袋で一口サイズや丸などの形を作る。ゴマやアラザンを散らしてみたり、チョコチップやナッツを乗せてみたり、とにかく思いつくままに並べて焼いてを繰り返す。時折味見・・・よりもちょっと多く自分の口に運んだりもしていたせいか、ふと時計の針に気付けば昼食も食べないうちに午後3時を回っていた。
「えっ、もうこんな時間?」
予想以上の時間経過に改めて手元を見直すと、キッチンのあちこちで所狭しと出来上がったクッキーが甘い香りを振りまいている。
「・・・作りすぎ?」
ゆかりたちの言葉が正しかったかなぁ。ちらりとそう思わなくもないが、まぁ少ないよりはずっといい、はず。そう結論付けて、成美は出来上がったクッキーをざっと並べて数え始める。
シンプルながらチェッカーデザインが決まっているアイスボックスタイプ。上に乗せたナッツやジャムの飾りが可愛らしい絞りだし型。ジンジャーとシナモンは細く伸ばしたものをくるっと捻ってスティックやリボンにしてみたし、定番中の定番である型抜きクッキーとてアイシングの模様やチョコのコーティングできっちりと一手間を加えてある。およそクッキーと名の付くもので作れそうなところは網羅したのではないだろうか。
「ここまでやったら、後はもう先輩の好みの問題だよね・・・」
勿論そこが一番心配な点なのだが。
全体的に甘さは控えめにしておいたものの、そもそも菓子類が嫌いだったらどうしよう。いやでも前に一緒にアイスは食べたし、などと今更ながらに呟きながら手近の道具をまとめていると、ふと1つの抜き型が目に入った。
「あっ…」
丸に四角に星、花、動物、ダイヤにスペード、クローバー。季節外れのツリー型まで買い揃えたクッキー型の中で、たったひとつだけまだ使っていなかったもの。
…ハートの形。
「…どうしよう、これ」
銀色のハート型を手に、成美は深いため息を吐いた。
ハート型なんて、お菓子の形としては別に珍しいものでもない。バレンタインデーならいざ知らず、特別に意味を持たない日に目にすれば、それは単なる記号のひとつに過ぎないだろう。そう思うのに、どうしてもこの形だけは作ろうとするたびに手が止まってしまった。
―――――怖かった、から。
(荒垣先輩…)
最初は、ちょっと怖そうな人だなぁと思っていた。
次に会ったときに、実は優しい人なんだと知った。
『仲間』になって、たくさん話をするようになって、知らなかった面をいくつも知って。
気が付いたら、自然と目で追うようになっていた。
声をかけられれば嬉しい。笑顔を見せてもらえたらもっと嬉しい。そんな気持ちが積み重なったある日、不意に恋をしているのだと自覚した。
(あーあ、どうして好きになっちゃったかな。どう考えても私じゃ望み薄なのに)
気付いてから数日は、これでもかなり悩んだ。荒垣は優しい。でもそれは、『仲間』みんなへの優しさであって、自分だけが向けてもらっているものではないのだと『リーダー』である成美は理解していた。
きっと彼にとって自分は『妹』のようなものなのだ。危なっかしくて放っておけないから、構ってくれる。ただそれだけのことで、他意などないに決まっている。でも。
(『恋は落ちるもの』、か…今から考えると、友近くんてば真理を突いたこと言ってたなぁ)
一度落ちてしまったものはどうしようもない。上手くいく望みなどなくたって、はいそうですかとこの気持ちを消し去れはしないのだから。
ただ、こんな時に波風を立てるような真似だけはしたくなかった。振られて落ち込むのは自分の責任だが、優しい荒垣のことだ、振った相手にだって気を遣ってしまうに違いない。毎日顔を合わせるというのに、一々そんな思いをさせるのも心苦しい。ましてや自分たちは戦いの最中なのだ。ささやかであれ、不協和音は命取りにもなりかねない。
だから、気付かれないようにしなくては。自分は『リーダー』なのだから、せめてこの戦いが終わるまでは。
そう決めて、気持ちをどうにか切り替えられたのはほんの昨日のこと。
「気にしすぎ、だよね。先輩だって、こんなの見たってなんとも思わないに決まってるのに…」
ハートの抜き型をころんとまな板の上に置き、成美はもう一度ため息を吐いた。
気付かれず、今までどおり可愛がってもらえる『後輩』でいられるように、自然に振舞わなくてはいけない。そんな風に考えていたら、ハート型のクッキーですら作るのが怖くなった。ただのマークにしか過ぎないのに、この気持ちがあの人に気付かれてしまいそうで。
「伝わるわけ、ない」
気付いて欲しいのか、気付かれたくないのか。本当はどっちなのか自分でも分からない。でも、どっちだって同じ、『気付かれてはいけない』。
「大丈夫、だよね」
置いたままのハートの型を眺め、呟く。あんなにたくさん作っておいたクッキー生地は、もう1つのブロックを残すのみとなっていた。ためらいながら生地を伸ばす。丁度よい厚みになったところで、銀の抜き型を手に取った。
星、花、ダイヤ、楕円に、長方形。端から順番に型を抜いていく。生地はあっという間に穴だらけになり、型を取れる部分はもうほんのわずかしかない。
ためらいながらも成美はハートの型に手を伸ばし、そして、一度その手を引っ込めた。
「…よし!」
迷いを振り切るようにぐっと拳を握り締め、今度は別の方向に手を伸ばす。摘み上げたのは『食紅』と書かれた小瓶だった。残った生地にごく少量の赤色を混ぜ入れ、ほんのりとピンクに色付ける。深呼吸をひとつして抜き型を手に取った成美は、綺麗に伸ばし直した小さなピンクのクッキー生地からそっとハートの形を取り出した。
「…はぁ」
オーブンの蓋を閉じたところで、力を使い果たしたようにくたりと近くの椅子に座り込む。たったあれだけの作業なのに、成美にとっては大型シャドウに立ち向かう以上に勇気の要ることだった。
「綺麗に出来てなかったら、食べちゃえばいいよね」
呟いて、椅子の上で膝を抱える。焼きあがるまでの時間にラッピングの支度をしなきゃ、そう思いつつも、しばらく成美はぼんやりと熱くなっていくオーブンの中を眺めていた。


夕刻を回り、思い思いの休日を過ごしてきた寮生たちが空っぽだったラウンジを賑わす。
テレビから流れる雑学のバラエティ番組に皆の話題が珍しく集中している頃、少し遅く帰って来た荒垣はその中に加わることなしに通り過ぎた。
「…?」
そのまま真っ直ぐ自分の部屋に戻ろうとキッチン脇を通り過ぎた時、ふと甘い香りに気付く。何の香りだろうかと視線だけを向けると、丁度キッチンから顔を出した成美と目が合った。
「…神那姫」
思わずその名を口にすると、何故か成美はひどく慌ててキッチンから飛び出してきた。
「あ、あの、先輩っ」
「どうした?」
妙にそわそわと落ち着きのない様子に、少しばかり可笑しさを感じながら問いかける。すると、どういう訳か顔を赤らめて目線を逸らされた。
(…笑っちまってたか?)
馬鹿にしたようにでも見えて、怒らせたのだろうか。真っ先にそんな不安を覚え、次には慌てて戻された視線の中に負の感情がないことに安堵する。
そんな自分に呆れながらも、表面上は落ち着いた様子で成美の次の言葉を待っていると、きょろきょろと頻りに後ろの方を気にしていた彼女は「すみません、ちょっとだけ2階のソファーのところで待ってて下さい!」と言い残してキッチンに消えてしまった。
(なんだ?)
今一つ状況が掴めないものの、大人しく2階に上がる。程なくして階段を駆け上がってきた彼女は、シンプルだが丁寧にラッピングされた包みを抱えていた。
「この間のお礼です!」
向き合うなりそう言って包みを差し出され、荒垣は一瞬受け取ることもできずに硬直した。
「…俺に、か?」
動揺のあまり、間の抜けた質問が飛び出す。それに対して成美は大きく3回も頷いた。
「クッキーなんですけど…嫌い、じゃないですか…?」
「あ、ああ」
決して嫌いではない、寧ろ好きな方だと思うのだが、その単語自体を口に出すことが出来ずに曖昧に答える。それでも成美はほっとしたのだろう、ようやく笑った。
「良かった…。あの、そんなには甘くならないようにしましたから」
包みを受け取る時の言葉で、キッチンの周りに漂っていた甘い香りの正体に気付く。
「…お前が作ったのか」
「は、はいっ!あっ、ちゃんと味見はしましたから、大丈夫です!意外といけます!」
慌てて答える成美に対し、咄嗟に笑うことも言葉を返すこともできず、荒垣は誤魔化すようにその頭を撫でた。
「せ、先輩?」
「馬鹿、んなこた心配してねぇよ。…ありがとな、神那姫」
上手く笑えただろうか。それは分からなかったが、「はい」と答えた成美の笑顔はとても嬉しそうで。
それだけで満たされるのだと、辛うじて抱きしめたくなる衝動を抑えることが出来た。


「…予想以上に器用だな、あいつは」
部屋で包みを解きながら、荒垣は改めて自分たちのリーダーが様々な分野で水準以上の能力を発揮していることに感心した。
シンプルにまとめたラッピングは、女性らしく可愛いながらも甘すぎない。籠に入った形で包まれていたクッキーは丁寧に配置されていて、一見すればどこかの店に並んでいてもおかしくない出来栄えだ。
中のひとつを摘み出し、そこでもうひとつのことに気付く。様々な形をしたクッキーは、どう見ても一度や二度の作業で作りきれるものではないだろう。菓子作りは専門外の荒垣だが、そんなことくらいは見れば分かる。おそらく種類ごとにたくさん作った中から、出来のいいものばかりを選りすぐって詰めてくれたに違いない。
「ったく、気ぃ遣いやがって…どんだけ時間かけたんだ…」
自分などにそんな手間をかけて、と思う反面、素直に喜びをも感じてしまう。この間の夕食と、風邪の時のお礼。それ以上の意味などないのは分かっているのに、彼女がわざわざ自分のために時間を割いてくれたことが本当に嬉しい。
(重症だな…)
誰も見ていないことにほっとした。きっと今の自分は馬鹿みたいに幸せそうな顔をしているのだろう。
照れ隠しなのか自分でもよく分からぬままに、荒垣はたくさんのクッキーをひとつひとつ摘み上げて並べてみた。
どれもこれも、丁寧に作られている。
中でも犬の形をしたクッキーには羽のマークが描き加えられており、思わず噴き出した。
「…コロマルってことか?」
まったく、意外に凝り性だ。そんなことを面白がったり感心したりしながら何もなかった机の上にクッキーを広げていく内に、手がぴたりと止まる。
淡いピンクをしたクッキーが、底に転がっている。
その形は、ハート型だった。
「…」
摘み上げて、眺める。
「…なに、動揺してんだ、俺は…」
勝手に速度を上げる鼓動にそう呟いてみるが、何一つ落ち着きを取り戻す役には立たなかった。
ピンクのハート。
それは、ただの「形」に少女らしい「飾り」を施しただけに違いない。そんなことは分かり過ぎるほど分かっているのに、ばくばくと忙しなく高鳴る心臓は理性の声を聞き届けてくれるつもりはないらしい。
熱でも出たように顔が熱い。そっとクッキーを籠に戻し、荒垣は椅子の背もたれに仰け反るように寄りかかった。
「馬鹿か、本当に…」
天井を見上げて深く息を吐き出す。まったく、どうかしている。こんなことくらいで取り乱すなんて。
目を閉じれば成美の笑顔を思い浮かべてしまいそうで、荒垣はそのまま天井を睨みつけた。
「…こんなつもりじゃ、なかっただろうが…」
魅かれていると、気付いたのはいつだっただろうか。こんなに短い間だというのに、そんなことももう思い出せない。自覚したときには遅かった。忘れることも、距離を置くこともできないままに、ただ愛しいという思いだけが募る。叶わないと、叶ってはいけないと、分かっているのに。
ほんのりとピンクに色づけられたハート。まるでそれは、自分の心を見透かされたようだ。あの存在を、欲しいと望む身勝手な心。食いつくしてしまいたいと思う、凶暴な欲。
「食えねぇだろ、んなの。頼むから…」
期待させんな。
呟いた言葉は、何故か甘い響きを帯びていた。

END。


リミットぎりぎりまでは、片想い同士でもだもだと。俺、修羅場終わったら荒ハム(って言うんですね荒女主)両想いないちゃいちゃ話書くんだ…(死亡フラグもういい)
あ、すみません、死亡フラグで思い出しましたがうちの子は基本ED後も死にません(笑)その辺りの話も近いうちに…!(死亡フラグ乱立中)


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