P3P二次創作SS・6。【P3Pネタばれ有り注意!】
2009年12月4日 二次創作いろいろこれはP3Pの当サイト主人公たちの二次創作です。オリジナル設定満載&フェスネタばれ前提ですので読まれる際はご注意ください。
しょーもなさすぎるショートギャグ。テオ好きと真田さん好きには大変申し訳ない内容に。あと一応ですが荒女主前提です。
今回は出てこない人ばっかりですが登場人物簡単紹介。
静真(しずま)…P3男主
成美(なるみ)…P3女主
似てない双子な主人公。男子(フェスクリア後封印中)はザベスに好かれ、女子(P3P1周目トライ中)は荒垣さんとひっそり両想い。
苗字は「神那姫(かんなぎ)」。玲矢(P1主)は2人の「兄」(※引き取られ先の長男)、有人(P4主)はその「はとこ」。
色々オリジナル入ってますので詳しくは「1」を御確認下さい。
とりあえずそんなところです。OKと言っていただける場合のみ、スクロールどうぞ。
↓↓↓
「いやーっ!!!!」
それは戦闘終了後。
鮮やかに敵シャドウを瞬殺した『現場リーダー』が突然そんな悲鳴を上げたものだから、一緒に組んでいた美鶴、真田、アイギスは仰天した。
「ど、どうした!?」
「新手のシャドウか!?」
「成美さん、大丈夫ですか!?」
口々に声をかける3人の前で、成美は両手で顔を覆うようにしてへたり込んでいる。まさか何らかの攻撃を受けていたのか、と焦り駆け寄ろうとする美鶴たちの脳裏に風花の声が響いた。
『成美ちゃん!どうしたの!?』
ナビである風花にも原因が分からないのだろうか。更にメンバーの焦りが募ったその時、突然成美ががばっと顔を上げた。
「成美さん…?」
その顔は、何故か真っ赤で尚且つ怒っているように眉根がきゅっと吊り上がっていた。思ったよりは元気そうだが、大きな真紅の瞳が半分泣きそうに潤んでいる。そんな彼女の様子に周囲が焦りどころかパニックに陥りかけた、瞬間。
「風花!大至急『エスケープ・ロード』してっ!!」
『えっ、うん!う、動かないでね!』
成美の叫びに風花が慌てて答える。同行の3人が口を挟む間もなく、彼らは一気にエントランスへと戻された。
「成美っ!?」
「大丈夫かっ!?」
「何があったんですか!?」
「ワン!」
エントランスで待機していたメンバーがどっと押し寄せる。それを、顔を伏せたままの成美は両の手を思い切り前に突き出す形で『ストップ!』の意思を示した。
「な、成美?」
「…5分」
不思議そうに問いかけるゆかりに珍しく目も合わせぬまま、成美は強く言い放った。
「5分待って!入れ替えるから!!」
「…入れ替え…?」
「ごめんなさい!すぐだから!!」
予想外の言葉に全員がぽかーんとしている間に、成美は制服のスカートを翻し、エントランスの端まで一気に走って行ってしまった。
その位置に、ゆかりがはたと思い出す。
「…って、ペルソナ、の?」
エントランスの階段向かって左隅。何故か成美は休憩時間に、その場所で静かに壁の方向を向いていることが多い。何をするわけでもなく傍目にはぼーっとしているようにも見えるのだが、それが済むと不思議なことに彼女の使うペルソナは増えたり減ったりしているのだった。どういうことなのかとメンバーが問いかけてみたところ、どうも彼女は自分の『中』に存在する複数のペルソナをその意思により消したり戻したり、あまつさえ複数のペルソナを合体させることにより新しいものを作り出したりということが出来るらしい。あの場所にいる時は、その作業をやっているのだと言う。何故そこの場所ではならないのかはよく分からないが、おそらく集中に向く何かがあるのだろう。いつも2、3分、長くて10分にも満たない時間なのだが、戻ってくると結構疲労しているのも集中力をそれだけ消費するからか。
基本的に1つのペルソナしか持ったことのない仲間たちは、不思議がりつつもそう納得していた。
で、現在。
その成美は定位置でぴたりと止まって動かない。やはり『ペルソナの入れ替え』を始めてしまったようだ。
「てか、なんで?さっきの戦闘中に何かあったの?」
エントランス居残り組が同行していた3人に尋ねるが、3人が3人とも顔を見合わせ首を傾げた。
「いや…特に変わったことは無かったはずなのだが」
「はい、敵も成美さんのファーストアタックで全滅しましたし…」
「そういえば、神那姫の使ってたのは初めて見るペルソナだったな。あのマハジオダインはかなりの威力だったが…」
見ていた人間の話を総合しても、これといった理由は見当たらない。全員が等しく『?』のマークを頭上に浮かべる中、ちらちらと全員の視線が向けられるリーダーの背中はエントランスの端でぴくりとも動かずにいた。
一方その頃、当のリーダーはと言えば。
「いやーっ!!!!」
ベルベットルームに飛び込むなり、先程と同じ悲鳴を上げた。
「ど、どうされましたかな、お客じ…むぎゅ」
「成美様!何があったのですか!!」
主であるはずのイゴールの鼻を押しのけ、テオドアが一直線に成美に駆け寄る。ふるふると肩を震わせるその手を取り、床に座り込みそうになる身体を椅子へと導きながらもう一度どうしたのですか、と聞こうと顔を覗き込んだその時。
「…!!!!」
半泣きの瞳で見詰められ、テオドアは火を吹かんばかりに真っ赤になった。一瞬にして使い物にならなくなった部下の姿に鼻を押さえたままのイゴールがため息を吐く。
「…落ち着かれましたかな、少しは」
成美の手を握ったまま硬直しているテオドアに代わり、この場所の主が問いかける。それに対し、まだ半泣きではあるが成美はこくりと頷いた。
「で、どうなされたのですかな、お客人。もしや新しく作られたペルソナがお気に召しませんでしたか?」
「うう…」
イゴールの言葉に、またも成美がこくこくと頷く。
はて、とイゴールは内心首を捻った。
初めてこの部屋を訪れてから早8ヶ月。既にイゴールが知りうる中でもかなり強力なペルソナをいくつも所持している彼女だけに、先日合体により宿したペルソナもそれ相応の能力を秘めているものだ。おまけに受胎にも成功し、申し分ない出来だと合体作業に携わったイゴール自身も満足していたのだが…。
「何か、不具合でもございましたかな」
その問いには首をぶんぶんと横に振る。益々もって訳が分からず、はて、なんと次は訪ねるべきかと思っていると、固まっていたテオドアがようやく復活した。未だ成美の手を離さぬままで、イゴールとの間に割り込むように身を乗り出す。
「な、成美様、何かご不満な点がありましたか?合体方法ですか、継承スキルですか、それとも主の鼻ですか!?なんでも仰って下さい!」
駄目だこいつ早くなんとかしないと。
…とイゴールが思ったかどうかは定かではないが、額に青筋を浮かべる主の視線など何処吹く風といった様子のテオドアにはそもそもどうでもよかった。
「うー…」
主従の間にそんな取り返しの付かない亀裂を入れたとは知らない成美は、一声呻くと小さな声で喋りだした。
「…魔法」
「?」
「魔法を使ったら、マントが…」
「…マント?」
テオドアとイゴールは2人ともとあるペルソナを思い起こしつつ、頭上に『?』を浮かべた。
確かにそのペルソナはマントをつけた姿だったが、そんな格好のペルソナは他にも多い。一体何がいけなかったのだろうか。悩む2人が解答を見出せずにいるうちに、まだ口籠っていた成美は何かを吹っ切ったようにすう、と息を吸い込んだ。
「…マントがねっ!」
「は、はいっ!?」
慌てる主従に、そのままの勢いで成美が叫んだ。
「翻って、お尻が見えちゃうんですっ!」
…一瞬の静寂がベルベットルームを覆う。
「…は」
次の瞬間、テオドアがペルソナ辞典を取り落とした。
ものすごく重い音をたてるそれが主の足を直撃したのは決して故意ではない、と思う。
「なっ、成美様っ!そ、そのような裾の短い服をお召しだからいけないのです!今すぐにお召し替えを…!」
「私じゃないっ!」
「はうっ」
びたん!とおデコを手のひらで叩かれ、テオドアは変な声を出して仰け反った。
「じゃなくて!ペルソナの!トールの!!」
顔を真っ赤にして怒鳴る成美に、ようやくもって主従は「ああ」と同時に納得の声を上げた。尤も、片方は左足を、もう片方は額を押さえた変な格好であったが。
【トール】とは、北欧神話に出てくる雷神である。屈強な男性の姿をしたそのペルソナは、強力な技と力を持つ上に、雷を無効化するアイテムを受胎するのだが…。
「普通に見た時はあんまり気にならなかったけどっ、マントが翻ったらあんな格好なんだもん!いくら強くても毎回あれじゃ恥ずかしいですっ!!」
…そうなのである。現代日本に生きる成美からしてみれば、トールの衣装は【マントの下にレオタード】にしか見えなかった。それでも通常の立ち姿を見たときには結構重厚なマントの羽織り方故にさほど気にはならなかったのだが、呼び出してみてビックリ、雷轟く中いきなり筋肉質の臀部が申し訳程度の布地をまとってバーン!である。年頃の少女にこれは正直きつい。
ちなみにその光景に一瞬成美の脳裏には『屋久島の真田先輩並みに恥ずかしい』という比喩が浮かんでしまったのだが、流石に一生それは口にすまいと堅く誓ったのだった。まったくの余談であるが。
「ゆっ、ゆかりや、風花や、美鶴先輩はっ、みんな可愛かったりカッコ良かったりちゃんと女の子らしいペルソナなのにっ…なんで私のペルソナは変な格好してるのや怖いのがいっぱいいるのー!?最初の方はそうでもなかったけど、強いペルソナになればなるほどなんだかそんなのばっかりで…」
「な、成美様…」
泣きそうになるのを堪えつつ、真っ赤に頬を染めて両手を握り締める『年頃の女の子』に、人外である主従も困り果てた。ペルソナとはそもそも人の心の産物であるが、成美の持つワイルドの力はその心の遥か奥底、人間という種が太古の時代より形成してきたあらゆる仮面を引き出し自分のものにしてしまう。つまりは成美自身の心を引き出しているというよりも、人間全体が持つ心の形全てを『受け入れて』しまう巨大な『器』が成美であり、その器に注ぎ込まれた力が彼女の使うオルフェウス以外のペルソナと言える。彼女の言う「変なの」とか「怖いの」も、確かに彼女の心の欠片ではあろうが、それは本当に細かい砂粒程度のものでしかないはずだ。
…とはいえ、そうだとしても器である当の本人にとってはあまり慰めにならないのだろうが。
「…ではお客人、こうしたらどうですかな」
「えっ…?」
イゴールの言葉に、成美が顔を上げる。奇怪な姿の割に人の好い老人は、少女に一枚のスキルカードを手渡した。
「トールの産み落とすアイテムはお客人にどうしても必要でしょう。このスキルを付けておけば、ペルソナを召喚しなくても成長させることができます。いかがですかな、使用するペルソナは新しくお作りになって、トールは心の中にて育ててみては」
「イゴールさん…」
成美が目をこすりながら【ハイグロウ】のスキルカードを受け取る。その表情が目に見えて明るくなった。
「ありがとうございます!…ごめんなさい、自分の作ったペルソナなのに酷いこと言って…私、ちゃんと最後まで責任もって育てます!もうわがまま言いません!」
うんうん、と頷くイゴールの目には、成美の心の中で嬉し泣きをしているトールの姿がはっきり見えていた。
(ちょっと元気すぎるが、このお客人はほんにええ子じゃのー…)
何故か妙な方言交じりで和んでいるイゴールは、テオドアの刺すような視線が自身に注がれていたことに気付かず済んだ。実はついでに視線どころか辞典までもう一回(しかも角が)飛んできそうな気配であったが、元気を取り戻した成美がテオドアを振り向いたことにより実現する前に阻止された。
「えっと、じゃあ折角だし新しいペルソナも作っちゃいますね!今ちょうどスペースも空いてるし、お金にも余裕出てきたし…まだ作ってない素材数多めのスプレッドに挑戦してみようかな。テオ、辞典を見せてもらっていい?」
「はい!勿論ですとも!」
今までの殺気はどこへやら、ぱぁっと笑顔で分厚い辞典を広げるテオドアと、ほっと一安心していたイゴールは、だからこそ気付かなかった。
「えーっと…まだ作ってない4身以上の合体で…レベルの足りてるのってこれくらいかなぁ…」
成美が買い戻しているペルソナが、何を作るための材料かということに。
「ばかっ!えっち!イゴールさんもテオも大っ嫌いーーーーー!!!!」
「ちっ、違うんです成美様ぁぁぁっ!!」
…見事に張り倒され、赤く腫れ上がった左頬を押さえつつ叫んだテオドアの声は、バタン!!と盛大な音をたてて閉じた青い扉に阻まれた。
「ご、誤解ですっ!私は決してそのような…!…あ、主ぃぃっ!!!何故合体前に気付いて止めて下さらなかったのですかぁぁっ!!」
「い、いや、その、ちと気を抜いてたもんで、まさかよりによってアレを選ばれるとは…、いたたたっ!これ!辞典を振り回すのはやめんかテオ!」
「うわーん!成美様ー!」
青い青い時の止まった部屋の中、主従が静寂をひっくり返す勢いでドタバタとしている頃。
「あっ、終わったの成美…ってどーしたの!?」
「いやぁぁぁぁっ!もうペルソナ呼ばない!帰るぅぅー!!!!」
「えっ、ちょ、成美ッチー!?」
仲間たちが目を丸くする中、普段はみんなの3倍戦っても張り切るリーダーはエントランスを突き抜けてタルタロスからダッシュで駆け去っていく。
「成美さーん!?」
「ま、待つんだ神那姫!」
慌てて追いかける仲間たちがようやく彼女に追いついたのは、既に影時間の明けた寮の中だった。
結局その後、何があったのか成美は黙して語らず、有耶無耶の内にその日の探索はお開きになり…。
「…ああ、なるほどねぇ…。馬鹿だねぇ、こんなもの気にすることないさ、いい素材になりそうだし置いて行きな。…いいよいいよ、ほら、もう元気をお出し」
真宵堂の主人に慰められて少し元気になって帰って来たリーダーが、やっとのことで笑顔を見せるようになったのは2日後だった。
そして、その翌日影時間。
「みんな、ごめんね。今日からまた頑張って探索しましょう!」
「おー!」
元気よく声を合わせる仲間たちがそれぞれ装備を整えていると、成美が真田を呼び止めた。
「あの、真田先輩…よかったらこれ、使って下さい」
「え、その、いいのか?俺だけ…」
「ええ…ちょうど…手に入ったので…」
何故か目をそらし気味に、しかもどこか影を背負った様子の成美には気付かず、真田は『特別扱い』が自分でもよく分からないがちょっと嬉しくてにこやかにそれを受け取った。
「そ、そうか!ありがたく使わせてもらうぞ!」
「…ええ…使えるなら、よかった、です…」
妙にそそくさと去っていく成美の背中を見送りながら、真田はもらった新しい武器を身に付けてみた。
「これは…!」
見た目は若干禍々しいが、付けた瞬間格段に性能が違うと分かる。心なしか自分自身の身体能力も底上げされたようだ。
「ありがとう神那姫…!俺はお前の期待に応えられるよう、精一杯戦うぞ!」
感動のあまりその場でシャドーボクシングなどを始めてしまう真田を、他の部員たちが奇異の目で見やる。
が、その中にリーダーの姿はなかった。
「…なんで?なんであんなにすごい武器になっちゃうの…?上書きも捨てるのも出来ないよぅ…」
ベルベットルームとは正反対の壁の前。真っ赤な顔で膝を抱えるリーダーは、いろんな意味で後悔していた。
『終極の魔手』―――――ペルソナ・『マーラ』と武器合体することによって作れる、拳の最強武器。
真宵堂の店主が厄介払いしたげるよ、と外してくれた「女子には大変恥ずかしい外見のペルソナ」は、店主が試しに合体させてみたらとんでもない武器になってしまったらしい。
「…まぁあんたも複雑だとは思うけどさ、もうこんなんになっちゃったら元がなんだったかもわかんないだろ?あんたの使うもんでもないし、折角だから持ってきな」
そう言われてしまえば、ありがとうございますとしか言えなかった。
ただ持っていてもしょうがないし、最終局面が近いこの状況下では強い武器は確かに欲しい。渡すべきか渡さざるべきか、悩んだものの結局はこうなった次第である。
「…いいもん、もう原型ないもん…忘れよう、忘れていいよね、忘れさせて下さい。うう、やだー、あんなの荒垣先輩に知られたら嫌われちゃうよー、違うの、あれは私じゃないもん、うえーん、静真ぁ…おにーちゃん、有人ぉー…違うよね、私そんなんじゃないよね、そう言ってぇー…」
ぐすんぐすん、とこの場にいない兄弟たちに向って涙ながらに訴える。どんなに強くて元気一杯でも、やっぱり少女、しかも今では恋する乙女。そう簡単には「あんなもの」を見たショックから立ち直れない現場リーダーなのだった。
「…でも、あんなのが最強武器になる真田先輩って…」
ふとそんなことに気が付き、成美の表情が一瞬凍りつく。
「…まさか、そんな。…うん、そうだよね、きっとこういうのもランダムとか偶然とかいろいろあるもんね、うん。ほら、もう行かないと、頑張れ私、めげるなー…」
ぶんぶん、と想像を打ち消し、どうにか元気を出して立ち上がる。
「…イゴールさんたちにも、後で謝りにいこ」
呟いて駆け出すその姿は、傍から見ればなかなかに凛々しかった。
…それからしばらくの間、『何故かリーダーの態度が真田に対し余所余所しい』という噂が立ったが、それに気付いていたのは真田以外の人間だけだったのでこれといって問題はなかったという。
END。
…いろんな意味でごめんなさい(土下座)そんなわけでうちの真田さんはこれを装備しています。見るたびに泣けてくる。
しょーもなさすぎるショートギャグ。テオ好きと真田さん好きには大変申し訳ない内容に。あと一応ですが荒女主前提です。
今回は出てこない人ばっかりですが登場人物簡単紹介。
静真(しずま)…P3男主
成美(なるみ)…P3女主
似てない双子な主人公。男子(フェスクリア後封印中)はザベスに好かれ、女子(P3P1周目トライ中)は荒垣さんとひっそり両想い。
苗字は「神那姫(かんなぎ)」。玲矢(P1主)は2人の「兄」(※引き取られ先の長男)、有人(P4主)はその「はとこ」。
色々オリジナル入ってますので詳しくは「1」を御確認下さい。
とりあえずそんなところです。OKと言っていただける場合のみ、スクロールどうぞ。
↓↓↓
「いやーっ!!!!」
それは戦闘終了後。
鮮やかに敵シャドウを瞬殺した『現場リーダー』が突然そんな悲鳴を上げたものだから、一緒に組んでいた美鶴、真田、アイギスは仰天した。
「ど、どうした!?」
「新手のシャドウか!?」
「成美さん、大丈夫ですか!?」
口々に声をかける3人の前で、成美は両手で顔を覆うようにしてへたり込んでいる。まさか何らかの攻撃を受けていたのか、と焦り駆け寄ろうとする美鶴たちの脳裏に風花の声が響いた。
『成美ちゃん!どうしたの!?』
ナビである風花にも原因が分からないのだろうか。更にメンバーの焦りが募ったその時、突然成美ががばっと顔を上げた。
「成美さん…?」
その顔は、何故か真っ赤で尚且つ怒っているように眉根がきゅっと吊り上がっていた。思ったよりは元気そうだが、大きな真紅の瞳が半分泣きそうに潤んでいる。そんな彼女の様子に周囲が焦りどころかパニックに陥りかけた、瞬間。
「風花!大至急『エスケープ・ロード』してっ!!」
『えっ、うん!う、動かないでね!』
成美の叫びに風花が慌てて答える。同行の3人が口を挟む間もなく、彼らは一気にエントランスへと戻された。
「成美っ!?」
「大丈夫かっ!?」
「何があったんですか!?」
「ワン!」
エントランスで待機していたメンバーがどっと押し寄せる。それを、顔を伏せたままの成美は両の手を思い切り前に突き出す形で『ストップ!』の意思を示した。
「な、成美?」
「…5分」
不思議そうに問いかけるゆかりに珍しく目も合わせぬまま、成美は強く言い放った。
「5分待って!入れ替えるから!!」
「…入れ替え…?」
「ごめんなさい!すぐだから!!」
予想外の言葉に全員がぽかーんとしている間に、成美は制服のスカートを翻し、エントランスの端まで一気に走って行ってしまった。
その位置に、ゆかりがはたと思い出す。
「…って、ペルソナ、の?」
エントランスの階段向かって左隅。何故か成美は休憩時間に、その場所で静かに壁の方向を向いていることが多い。何をするわけでもなく傍目にはぼーっとしているようにも見えるのだが、それが済むと不思議なことに彼女の使うペルソナは増えたり減ったりしているのだった。どういうことなのかとメンバーが問いかけてみたところ、どうも彼女は自分の『中』に存在する複数のペルソナをその意思により消したり戻したり、あまつさえ複数のペルソナを合体させることにより新しいものを作り出したりということが出来るらしい。あの場所にいる時は、その作業をやっているのだと言う。何故そこの場所ではならないのかはよく分からないが、おそらく集中に向く何かがあるのだろう。いつも2、3分、長くて10分にも満たない時間なのだが、戻ってくると結構疲労しているのも集中力をそれだけ消費するからか。
基本的に1つのペルソナしか持ったことのない仲間たちは、不思議がりつつもそう納得していた。
で、現在。
その成美は定位置でぴたりと止まって動かない。やはり『ペルソナの入れ替え』を始めてしまったようだ。
「てか、なんで?さっきの戦闘中に何かあったの?」
エントランス居残り組が同行していた3人に尋ねるが、3人が3人とも顔を見合わせ首を傾げた。
「いや…特に変わったことは無かったはずなのだが」
「はい、敵も成美さんのファーストアタックで全滅しましたし…」
「そういえば、神那姫の使ってたのは初めて見るペルソナだったな。あのマハジオダインはかなりの威力だったが…」
見ていた人間の話を総合しても、これといった理由は見当たらない。全員が等しく『?』のマークを頭上に浮かべる中、ちらちらと全員の視線が向けられるリーダーの背中はエントランスの端でぴくりとも動かずにいた。
一方その頃、当のリーダーはと言えば。
「いやーっ!!!!」
ベルベットルームに飛び込むなり、先程と同じ悲鳴を上げた。
「ど、どうされましたかな、お客じ…むぎゅ」
「成美様!何があったのですか!!」
主であるはずのイゴールの鼻を押しのけ、テオドアが一直線に成美に駆け寄る。ふるふると肩を震わせるその手を取り、床に座り込みそうになる身体を椅子へと導きながらもう一度どうしたのですか、と聞こうと顔を覗き込んだその時。
「…!!!!」
半泣きの瞳で見詰められ、テオドアは火を吹かんばかりに真っ赤になった。一瞬にして使い物にならなくなった部下の姿に鼻を押さえたままのイゴールがため息を吐く。
「…落ち着かれましたかな、少しは」
成美の手を握ったまま硬直しているテオドアに代わり、この場所の主が問いかける。それに対し、まだ半泣きではあるが成美はこくりと頷いた。
「で、どうなされたのですかな、お客人。もしや新しく作られたペルソナがお気に召しませんでしたか?」
「うう…」
イゴールの言葉に、またも成美がこくこくと頷く。
はて、とイゴールは内心首を捻った。
初めてこの部屋を訪れてから早8ヶ月。既にイゴールが知りうる中でもかなり強力なペルソナをいくつも所持している彼女だけに、先日合体により宿したペルソナもそれ相応の能力を秘めているものだ。おまけに受胎にも成功し、申し分ない出来だと合体作業に携わったイゴール自身も満足していたのだが…。
「何か、不具合でもございましたかな」
その問いには首をぶんぶんと横に振る。益々もって訳が分からず、はて、なんと次は訪ねるべきかと思っていると、固まっていたテオドアがようやく復活した。未だ成美の手を離さぬままで、イゴールとの間に割り込むように身を乗り出す。
「な、成美様、何かご不満な点がありましたか?合体方法ですか、継承スキルですか、それとも主の鼻ですか!?なんでも仰って下さい!」
駄目だこいつ早くなんとかしないと。
…とイゴールが思ったかどうかは定かではないが、額に青筋を浮かべる主の視線など何処吹く風といった様子のテオドアにはそもそもどうでもよかった。
「うー…」
主従の間にそんな取り返しの付かない亀裂を入れたとは知らない成美は、一声呻くと小さな声で喋りだした。
「…魔法」
「?」
「魔法を使ったら、マントが…」
「…マント?」
テオドアとイゴールは2人ともとあるペルソナを思い起こしつつ、頭上に『?』を浮かべた。
確かにそのペルソナはマントをつけた姿だったが、そんな格好のペルソナは他にも多い。一体何がいけなかったのだろうか。悩む2人が解答を見出せずにいるうちに、まだ口籠っていた成美は何かを吹っ切ったようにすう、と息を吸い込んだ。
「…マントがねっ!」
「は、はいっ!?」
慌てる主従に、そのままの勢いで成美が叫んだ。
「翻って、お尻が見えちゃうんですっ!」
…一瞬の静寂がベルベットルームを覆う。
「…は」
次の瞬間、テオドアがペルソナ辞典を取り落とした。
ものすごく重い音をたてるそれが主の足を直撃したのは決して故意ではない、と思う。
「なっ、成美様っ!そ、そのような裾の短い服をお召しだからいけないのです!今すぐにお召し替えを…!」
「私じゃないっ!」
「はうっ」
びたん!とおデコを手のひらで叩かれ、テオドアは変な声を出して仰け反った。
「じゃなくて!ペルソナの!トールの!!」
顔を真っ赤にして怒鳴る成美に、ようやくもって主従は「ああ」と同時に納得の声を上げた。尤も、片方は左足を、もう片方は額を押さえた変な格好であったが。
【トール】とは、北欧神話に出てくる雷神である。屈強な男性の姿をしたそのペルソナは、強力な技と力を持つ上に、雷を無効化するアイテムを受胎するのだが…。
「普通に見た時はあんまり気にならなかったけどっ、マントが翻ったらあんな格好なんだもん!いくら強くても毎回あれじゃ恥ずかしいですっ!!」
…そうなのである。現代日本に生きる成美からしてみれば、トールの衣装は【マントの下にレオタード】にしか見えなかった。それでも通常の立ち姿を見たときには結構重厚なマントの羽織り方故にさほど気にはならなかったのだが、呼び出してみてビックリ、雷轟く中いきなり筋肉質の臀部が申し訳程度の布地をまとってバーン!である。年頃の少女にこれは正直きつい。
ちなみにその光景に一瞬成美の脳裏には『屋久島の真田先輩並みに恥ずかしい』という比喩が浮かんでしまったのだが、流石に一生それは口にすまいと堅く誓ったのだった。まったくの余談であるが。
「ゆっ、ゆかりや、風花や、美鶴先輩はっ、みんな可愛かったりカッコ良かったりちゃんと女の子らしいペルソナなのにっ…なんで私のペルソナは変な格好してるのや怖いのがいっぱいいるのー!?最初の方はそうでもなかったけど、強いペルソナになればなるほどなんだかそんなのばっかりで…」
「な、成美様…」
泣きそうになるのを堪えつつ、真っ赤に頬を染めて両手を握り締める『年頃の女の子』に、人外である主従も困り果てた。ペルソナとはそもそも人の心の産物であるが、成美の持つワイルドの力はその心の遥か奥底、人間という種が太古の時代より形成してきたあらゆる仮面を引き出し自分のものにしてしまう。つまりは成美自身の心を引き出しているというよりも、人間全体が持つ心の形全てを『受け入れて』しまう巨大な『器』が成美であり、その器に注ぎ込まれた力が彼女の使うオルフェウス以外のペルソナと言える。彼女の言う「変なの」とか「怖いの」も、確かに彼女の心の欠片ではあろうが、それは本当に細かい砂粒程度のものでしかないはずだ。
…とはいえ、そうだとしても器である当の本人にとってはあまり慰めにならないのだろうが。
「…ではお客人、こうしたらどうですかな」
「えっ…?」
イゴールの言葉に、成美が顔を上げる。奇怪な姿の割に人の好い老人は、少女に一枚のスキルカードを手渡した。
「トールの産み落とすアイテムはお客人にどうしても必要でしょう。このスキルを付けておけば、ペルソナを召喚しなくても成長させることができます。いかがですかな、使用するペルソナは新しくお作りになって、トールは心の中にて育ててみては」
「イゴールさん…」
成美が目をこすりながら【ハイグロウ】のスキルカードを受け取る。その表情が目に見えて明るくなった。
「ありがとうございます!…ごめんなさい、自分の作ったペルソナなのに酷いこと言って…私、ちゃんと最後まで責任もって育てます!もうわがまま言いません!」
うんうん、と頷くイゴールの目には、成美の心の中で嬉し泣きをしているトールの姿がはっきり見えていた。
(ちょっと元気すぎるが、このお客人はほんにええ子じゃのー…)
何故か妙な方言交じりで和んでいるイゴールは、テオドアの刺すような視線が自身に注がれていたことに気付かず済んだ。実はついでに視線どころか辞典までもう一回(しかも角が)飛んできそうな気配であったが、元気を取り戻した成美がテオドアを振り向いたことにより実現する前に阻止された。
「えっと、じゃあ折角だし新しいペルソナも作っちゃいますね!今ちょうどスペースも空いてるし、お金にも余裕出てきたし…まだ作ってない素材数多めのスプレッドに挑戦してみようかな。テオ、辞典を見せてもらっていい?」
「はい!勿論ですとも!」
今までの殺気はどこへやら、ぱぁっと笑顔で分厚い辞典を広げるテオドアと、ほっと一安心していたイゴールは、だからこそ気付かなかった。
「えーっと…まだ作ってない4身以上の合体で…レベルの足りてるのってこれくらいかなぁ…」
成美が買い戻しているペルソナが、何を作るための材料かということに。
「ばかっ!えっち!イゴールさんもテオも大っ嫌いーーーーー!!!!」
「ちっ、違うんです成美様ぁぁぁっ!!」
…見事に張り倒され、赤く腫れ上がった左頬を押さえつつ叫んだテオドアの声は、バタン!!と盛大な音をたてて閉じた青い扉に阻まれた。
「ご、誤解ですっ!私は決してそのような…!…あ、主ぃぃっ!!!何故合体前に気付いて止めて下さらなかったのですかぁぁっ!!」
「い、いや、その、ちと気を抜いてたもんで、まさかよりによってアレを選ばれるとは…、いたたたっ!これ!辞典を振り回すのはやめんかテオ!」
「うわーん!成美様ー!」
青い青い時の止まった部屋の中、主従が静寂をひっくり返す勢いでドタバタとしている頃。
「あっ、終わったの成美…ってどーしたの!?」
「いやぁぁぁぁっ!もうペルソナ呼ばない!帰るぅぅー!!!!」
「えっ、ちょ、成美ッチー!?」
仲間たちが目を丸くする中、普段はみんなの3倍戦っても張り切るリーダーはエントランスを突き抜けてタルタロスからダッシュで駆け去っていく。
「成美さーん!?」
「ま、待つんだ神那姫!」
慌てて追いかける仲間たちがようやく彼女に追いついたのは、既に影時間の明けた寮の中だった。
結局その後、何があったのか成美は黙して語らず、有耶無耶の内にその日の探索はお開きになり…。
「…ああ、なるほどねぇ…。馬鹿だねぇ、こんなもの気にすることないさ、いい素材になりそうだし置いて行きな。…いいよいいよ、ほら、もう元気をお出し」
真宵堂の主人に慰められて少し元気になって帰って来たリーダーが、やっとのことで笑顔を見せるようになったのは2日後だった。
そして、その翌日影時間。
「みんな、ごめんね。今日からまた頑張って探索しましょう!」
「おー!」
元気よく声を合わせる仲間たちがそれぞれ装備を整えていると、成美が真田を呼び止めた。
「あの、真田先輩…よかったらこれ、使って下さい」
「え、その、いいのか?俺だけ…」
「ええ…ちょうど…手に入ったので…」
何故か目をそらし気味に、しかもどこか影を背負った様子の成美には気付かず、真田は『特別扱い』が自分でもよく分からないがちょっと嬉しくてにこやかにそれを受け取った。
「そ、そうか!ありがたく使わせてもらうぞ!」
「…ええ…使えるなら、よかった、です…」
妙にそそくさと去っていく成美の背中を見送りながら、真田はもらった新しい武器を身に付けてみた。
「これは…!」
見た目は若干禍々しいが、付けた瞬間格段に性能が違うと分かる。心なしか自分自身の身体能力も底上げされたようだ。
「ありがとう神那姫…!俺はお前の期待に応えられるよう、精一杯戦うぞ!」
感動のあまりその場でシャドーボクシングなどを始めてしまう真田を、他の部員たちが奇異の目で見やる。
が、その中にリーダーの姿はなかった。
「…なんで?なんであんなにすごい武器になっちゃうの…?上書きも捨てるのも出来ないよぅ…」
ベルベットルームとは正反対の壁の前。真っ赤な顔で膝を抱えるリーダーは、いろんな意味で後悔していた。
『終極の魔手』―――――ペルソナ・『マーラ』と武器合体することによって作れる、拳の最強武器。
真宵堂の店主が厄介払いしたげるよ、と外してくれた「女子には大変恥ずかしい外見のペルソナ」は、店主が試しに合体させてみたらとんでもない武器になってしまったらしい。
「…まぁあんたも複雑だとは思うけどさ、もうこんなんになっちゃったら元がなんだったかもわかんないだろ?あんたの使うもんでもないし、折角だから持ってきな」
そう言われてしまえば、ありがとうございますとしか言えなかった。
ただ持っていてもしょうがないし、最終局面が近いこの状況下では強い武器は確かに欲しい。渡すべきか渡さざるべきか、悩んだものの結局はこうなった次第である。
「…いいもん、もう原型ないもん…忘れよう、忘れていいよね、忘れさせて下さい。うう、やだー、あんなの荒垣先輩に知られたら嫌われちゃうよー、違うの、あれは私じゃないもん、うえーん、静真ぁ…おにーちゃん、有人ぉー…違うよね、私そんなんじゃないよね、そう言ってぇー…」
ぐすんぐすん、とこの場にいない兄弟たちに向って涙ながらに訴える。どんなに強くて元気一杯でも、やっぱり少女、しかも今では恋する乙女。そう簡単には「あんなもの」を見たショックから立ち直れない現場リーダーなのだった。
「…でも、あんなのが最強武器になる真田先輩って…」
ふとそんなことに気が付き、成美の表情が一瞬凍りつく。
「…まさか、そんな。…うん、そうだよね、きっとこういうのもランダムとか偶然とかいろいろあるもんね、うん。ほら、もう行かないと、頑張れ私、めげるなー…」
ぶんぶん、と想像を打ち消し、どうにか元気を出して立ち上がる。
「…イゴールさんたちにも、後で謝りにいこ」
呟いて駆け出すその姿は、傍から見ればなかなかに凛々しかった。
…それからしばらくの間、『何故かリーダーの態度が真田に対し余所余所しい』という噂が立ったが、それに気付いていたのは真田以外の人間だけだったのでこれといって問題はなかったという。
END。
…いろんな意味でごめんなさい(土下座)そんなわけでうちの真田さんはこれを装備しています。見るたびに泣けてくる。
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