螺旋の黄龍騒動記・14。
2008年2月20日 螺旋の黄龍騒動記(完結) ネタバレその他色々ご注意(安全の為どうぞ一回は必ず目を通してください)。
●これは「L the proLogue to DEATH NOTE ~螺旋の罠」の名前自由入力主人公(新米FBI捜査官)が「東京魔人学園剣風帖」のデフォルト主人公緋勇龍麻だったら、というスーパー妄想ドリーム満載な二次創作モドキです。
しかも元のゲームが推理ものなので、話が進むごとに確実にネタバレします。
●加えてこの緋勇さん、先日「九龍妖魔学園紀」の2周目オマケモード「黄龍妖魔学園紀」をクリア済です。
●故に時間軸は2005年9月のお話です。(※ゲームと同じくデスノート本編開始前の設定)
●世界観はデスノの方ではなく、魔人+九龍がメインですので、この世界の《L》は「魔人世界に存在するパラレル《L》」です。故にこの世界ではそもそもこの先デスノート事件そのものが起こらないとか、起こったとしても陰陽師やM+M機関に即日闇に葬られたり魔女が死神使い魔にしちゃったりします。大体FBIにだってロゼッタと取引しちゃう捜査官がいるという、デスノメンツに大変住みにくい世界です。
●そんな二次創作大嫌い!な方は、どうかここまでの全てをなかったことにしてリターンをお願いします。
●まぁパロディならいいんじゃない?とか、寧ろ名前入力できるゲームには「緋勇龍麻」しか選択肢を持たないぜ!という剛の者な方に少しでも楽しんで頂けたら喜び勇んで蝶の迷宮の井戸に飛び込む勢いです。
最後に・・『こんな二次創作に立ち向かう覚悟はありますか?』
<はい(の人は下へスクロールを)
<いいえ(の人はどうぞこのままリターンをお願いします)
では、ゲーム再開です↓
※※※※※※※
『《L》以外には、ちゃんと警戒してますからいいんですよ』
その答えに、これといって深い意味はなかったに違いない。
私の意地悪へのちょっとしたお返し。そんな軽い気持ちで発した言葉だったのだろう。
「・・・・・・」
だが私は、それにいつものように上手く答えることが出来なかった。
『・・・《L》?』
不審げな緋勇さんの声が聞こえる。早く返事をしなければと思うのに、気の利いたお返しどころか何一つ言葉が思いつかない。私の思考は、別の方向へと囚われてしまっていたからだ。
(そうだった、のか)
【警戒】という単語を聞いた時、何故か不意に理解した。
この人は『自身でそうと決めた相手以外には身に纏った緊張を解くことは無い』のだ。
きっと本人も、明確に意識しているわけではないのだろう。だが。
(思えば、彼は【敵側の】通信が入ったときには微かにも驚きを見せなかった・・・)
ここまでの映像が次々と脳裏に再生される。確かに敵側からの通信は回数としては少ない。だが、それだけにいつも唐突であり、解体作業終了直後や息抜きの会話への割り込みなど、気を緩めた瞬間に入るものが多かったはずだ。しかし私の記憶に残る緋勇さんは、どの場面においてもごく自然にモニターへ視線を投げただけ。取り立てて表情を変化させることもなくそれを聞いていた。その違和感に、改めて私は驚愕する。
仮定に過ぎないが、緋勇さんは私からの通信と【ハウスキーパー】達からの通信を聞き分けているのではないだろうか。
現場にいる以上、こちら側では識別のできないものを彼が感知している可能性はある。発信源の違いなどから生じる微妙な【何か】を無意識に識別しているということは有り得るだろう。直感に優れる緋勇さんならなおさらだ。だとすれば、先程の緋勇さんの言葉は。
(《L》・・・つまり《私》にそれだけの信頼を委ねているのか。常に緊張を身に纏い、警戒を怠らない、そうしなければ生きていけない世界を生き延びてきたのだろう、この人が)
導き出された結論に、息が詰まる。
確かにこれまでの道のりで、ある程度の信頼関係を築けたと確信はしていた。しかし、【無意識の警戒】すら解かれるほどに信頼されているとは、思ってもみなかったのだ。
(私は、緋勇さんに【命を預けられて】いる)
抱えた膝に顔を埋めて、心の中で呟く。
(それは、私が《L》だからだろうか。【世界の頭脳】であり、FBIとも繋がりを持ち、様々な権限と財力を備えた【名探偵】だからか)
違う、と呟きが今度は小さな音になった。
(《私》ゆえに、だ)
確かに私は《L》だ。
だが《L》の全てが私であるのに対し、私にとって《L》は私を示す記号の一つに過ぎない。そして彼が、緋勇さんが知っているのはその記号である《L》。それだけのはず。
だというのに、彼は《L》を通してその後ろの私を、《エル・ローライト》を見ている気がする。
根拠など何も無い。ただの私の独りよがりで身勝手な解釈なのかもしれない。だが、この【勘】は決して間違っていないと、私の中にあるロジックでは解き明かせないものが言うのだ。頭脳でも、力でもなく、ただ《私》という一個人の【存在】をもって、彼は私を【信頼】したのだと。
(この人は、記号の無い《私》を信じてくれている。愚かとも言えるほど、ただ真っ直ぐに)
その信頼を、人の命を預かる重さを、『恐ろしい』と初めて思った。
そして、それ以上に―――――。
多分《私》は『嬉しい』と思ったのだ。
金属が触れ合う小さな音がする。フレームに巻きつけられた針金が鋏で切り外されると、モニターの向こうで四角い箱でしかなかった物体は徐々に【罠】としての素顔を露にしていった。
『・・・・・・』
流石の緋勇さんも、今までに比べ緊張の度合いが高いのだろう。常より更に呼吸の回数が減り、長い前髪に覆われた額の隙間にうっすらと汗が浮いている。
とはいえ、それは彼の判断力を鈍らせる程度のものではなかったようだ。
やがて最後の【罠】は、今まで彼が扱ってきたものと同じように単なる残骸へと姿を変えた。
「お見事です」
手にした爆薬をゆっくりとした動作でテーブルの中央に乗せた後、賞賛の言葉を受けたその人は、やはり今までと同じように無防備に笑顔を見せた。
『ありがとうございます』
モニターの中に変わらない言葉と表情を確認して、私も一瞬微笑んだかもしれない。
しかし我々の纏う空気は瞬時に硬質化した。
(―――――――来る)
機械越しの何処かよりこちらを窺う悪意に満ちた瞳・・・、おそらくは最後の攻勢に出てくるであろう【敵】の気配をそれぞれが感じ取った故に、だ。
無論、予測していたこと。先手を取らせる気などない。
「そして、お疲れ様でした緋勇さん。・・・ここからは、私の仕事です」
先ほどのものとは違う、ある意味「私らしい」笑みが口角を引き上げた。
攻守逆転。仕掛けるのは、もう相手側ではない。《私》だ。
[おい、これで終わったとは・・・]
間を置かず通信に割り込んできたハウスキーパーに向い、見えるはずもないが小さく舌を出す。
「いいえ、【ゲーム】は終わりですよ。いつまでも貴方のような何も知らない代理人を相手にしているわけには行きません」
[な、なんだと!?]
ハウスキーパーの語気に激昂と困惑が混じる。その反応に完全なる確信を持つ。
やはり、この男は単なるスピーカーに過ぎない。
「【何も知らない代理人】と言ったのです。・・・いえ、代理人という言葉すら間違いですね。【人】であれは自らの意思があるはずですから。ハウスキーパー、貴方は単なる【真犯人の操り人形】です」
端末の向こうから余りのことに単語にすらならない呻きが響く。だが、もう【ハウスキーパーという犯罪者】個人の反応などどうでもよかった。《L》の推理は完成された。後は扉の開きかけた真実を明らかにし、この事件を終わらせるだけだ。
「操られたままでは何かと不便でしょう。私が【糸】を切ってあげますよ・・・操り手を引き摺り出すためにもね」
ハウスキーパーを追い詰めるのにさほどの時間は必要なかった。
個々の爆弾の殺傷能力の低さと時間制限の多様さ。
パズルのような解除アイテムの配置。
相当額をつぎ込んだであろう過剰な舞台設定。
これを解除すべき【被害者】に素人ではなく【FBI捜査官】というプロフェッショナルを選んだこと。
更に加え、既に先日【罠】解除によりテロリストグループ【クリエラの月】を壊滅に導いた実績のある《L》をナビゲーションに付けたこと。
「殺傷能力の低い対人トラップを大量に解除する。しかも基本部分は同じものを様々な時間制限で繰り返し。これは一見相手を苦しめる為に仕掛けられたもののようですが、誘拐や爆弾という物騒なキーワードを取り払うと急に別の側面が見えてきます」
私の言葉にハウスキーパーからの反論はない。
元よりプロである自分をアドバイザー程度にしか使う気のないクライアントに対し、若干の不信感はあったのだろう。高額の報酬と自分の罠を解除した《L》に対する復讐が出来るという付加価値が、その不信感を上回ったというところか。
ならば、そこに亀裂を入れるのは容易い。
真実を告げてやるだけで良いのだ。
「少しずつ変化させ、繰り返し行う【作業】・・・・・・それを通常は【実験】と称します。つまり、この事件そのものが【対人罠の性能テスト】を目的とした大掛かりな【実験】なのですよ」
私の言葉に息を呑んだのは犯人側だけのようだった。
おそらく、先ほどまでの私との会話で緋勇さんは既にこの事実を予測していたのだろう。静かな目線がモニターに注がれているのが分かる。
それに対し、ハウスキーパーの狼狽は面白いほど顕著に画面に現れていた。見る見るうちに歪む表情を確認しつつ、私は更にダメージを与える言葉を続ける。
「舞台に客船を選んだのもその為です。こちらも一見すれば捜査の手が及びにくいことや、いざ爆発した時にすべての証拠が海底に沈んでしまうことなど犯罪の露見を逃れる為の仕掛けに思えますが、実際は寧ろ【周囲に被害を及ぼさない為の実験施設】として選択されたのでしょう」
[なん、だと・・・?]
引きつったハウスキーパーの声が微かに聞こえたが、敢えて私はそれを無視した。プライドが非常に高いこの男の怒りを煽り立てるにはこれが一番手っ取り早い。予想通り、ハウスキーパーはあっさりと怒りを爆発させ、先ほどまで仮初めと言えども仲間であったはずの男に食って掛かった。
[どういうことだジェフリー!俺は聞いていないぞそんな話は!貴様ら一体何を企んでやがる!]
襟首を掴み上げられた【J】ことジェフリーが青ざめ弱々しく首を振る。
[わ、私はただ上の指示通りにしただけで・・・]
「ではジェフリー、貴方の【上】は何故このような実験を必要としたのでしょうね?」
更なる追及に、完全に顔色が失せる。やはり彼はこの計画の【真の目的】、そして【黒幕】を知っているのだ。
私は彼らの背後に存在する何者かの視線を感じながら、それを引きずり出す為の最後のキーワードを投げかけた。
「豪華客船グラナダ号。マーメイド社で製造されたこの船は最初の所有者である欧州の観光会社の倒産により、5年前に北米のIT企業リブート社に売却されています。しかし、購入直後に何故か廃船処分となり、以後は行方不明・・・。ところが今回の事件に際し過去半年の衛星写真を調査したところ、このグラナダ号と思われる客船が深夜にクリエラ隣国のドッグから出航する姿が確認されました。ドッグの所有者は、CLN系列の海運会社です」
突如始まった私の《推理》に、一時的に怒気を静めたハウスキーパーのみが奇妙なものを見るようにモニターへと目線を移す。反対にジェフリーは引きつった顔をモニターから背けた。
唯一、緋勇さんだけは僅かにも動くことなく私の声を聞いている。その冷静な態度が時折見せるのんびりとした表情とあまりにも違いすぎて、こんな時だというのに私はほんの少し自分の口元が緩むのを抑えられなかった。
「CLN社、『COMBAT LOGISTICS NETWORK』。ご存知かと思いますが、中東の多国籍軍事産業会社です。・・・おや、不思議ですね。【IT企業】と【豪華客船】という組合せはどうもちぐはぐですが、【軍事産業会社】と【対人罠】・・・これは実に分かりやすいと思いませんか?」
微かに笑みを浮かべたままの口から、白々しくも攻撃的な言葉を紡ぐ。
言葉も時として爆弾と同じように働くものだ。
耳から投下され、脳内で炸裂したそれは、ハウスキーパーの精神を確かに大きく損傷させたのだろう。憤怒の炎を宿した目は、最早目の前のジェフリーではなくどこか他の場所にいるクライアントに向けられていた。突き飛ばすようにして襟首を開放されたジェフリーが、慌ててハウスキーパーと距離をとる。
一瞬の沈黙。
それを打ち破ったのは、場違いな拍手の音だった。
[・・・流石《世界の頭脳》、まさかそこまで読まれるとは思わなかったよ。おめでとうと言っておこう]
流石に顔を映すような愚は犯さない。私の使用するものとは違うが、機械処理を施したと思われる【声】だけが拍手の最後に重なるように異なる3箇所へと響いた。
「貴方が黒幕ですか」
今更聞くのも馬鹿馬鹿しいが、一応そんなお決まりの言葉を吐いてみる。
すると、陳腐な台詞がお気に召したのか、機械越しにくっくっと笑い声が返ってきた。なるほど、定石通りの黒幕には定型の台本がお似合いというわけだ。
[仮に《A》とでも名乗っておこうか。まぁどうせその仮の名もすぐに覚えている必要はなくなるだろうがね]
(やれやれ・・・)
私のため息が聞こえたわけでもなかろうが、笑い声はすぐに消えた。代わりに耳障りな【声】が、限りなく自己の優位を確信した口調で語りだす。
[さて、そこまで見破られているのならば今更隠すこともあるまい。君たちは実によくやってくれた。これほど素晴らしいデータが取れるとは思ってもいなかったよ]
自分の力に酔っているのか、ひどく饒舌な【黒幕】は沈黙を良いことに不愉快極まりない【計画】を自慢げに披露し続ける。
[我々はこのデータを基に優れた【対人罠】を量産することが可能になるだろう。世界に名高い名探偵《L》がFBIの捜査官を使って開発協力した、そう、【《L》ブランド】だ。そんな売り文句はどうかね?]
「・・・悪趣味極まりないですね」
不快を通り越し、口を開くのも億劫だ。まぁそういう私の態度こそ、こうした悪役好みらしい。勝手にべらべらと情報を喋ってくれるのなら好都合というものだが。
[既に君たちがトラップ解除に奔走する姿は記録済みだ。後は大々的な宣伝と共にこの映像を配信すればいい。《L》が兵器開発に関わっていた!実にスキャンダラスでセンセーショナルなCMになるだろう。紛争地域の国家、テロリスト、客はいくらでも付く。まったく、君たちには感謝しなくては!]
高笑いを交えた《A》は更に機嫌よく自分の描いた図面を広げてみせる。
最早無用となったグラナダ号を爆破し証拠を隠滅。その後、彼らに都合よく編集された【トラップ開発実験の模様】がネットにより世界配信される。《L》の権威は失墜、《FBI》は利用されたと自己弁護するほかなく、批判の的となるだろう・・・と。
まったく、呆れかえる。
「そんなに上手くいくと思いますか?」
100%の皮肉だったが、《A》には負け惜しみにしか聞こえなかったようだ。
[ははは!そう言いたい気持ちも分かる、しかしもう遅い。協力に感謝して、Mr.緋勇、優秀なモルモットだった彼の命は見逃してあげようじゃないか。デッキには救命ボートがある。早くこの船から逃げられるよう誘導してあげたまえ。まぁ勿論、この船と運命を共にしたいというのなら止めはしないがね。ジェフリー!予定通りに【処理】しろ]
嘲りに満ちた声は、最後に彼の部下への指示を残してぶつりと途絶えた。
[は、はい]
一拍遅れてジェフリーのかすれた声をマイクが拾う。
しかしその声が耳に入るより早く、【処理】という単語が私の脳髄を電流のように駆け抜けた。
このジェフリーという男は、【船のコントロールを受け持っている】!
「緋勇さん!」
私の声と、彼が通信端末を瞬時に拾い上げ駆け出すのはほぼ同時だった。
(早い!)
余りの反応速度に私の方が一瞬言葉を忘れる。モニターに移る景色はジェットコースターにでも乗っているかのように流れていく。
分かっているのだろうか、向かう場所が。
「ジェフリーはこの船を爆破させ、捜査の及ばない深海に沈めるつもりでしょう。ならば彼は直接この客船をコントロールできる場所にいる、つまり、船内に」
緋勇さんに向けてだけではなく、自分で確認する意味でもあえて口に出してみる。
以前、【クリエラの月】を偽称していたジェフリーは「爆発物が遠隔操作できるかどうか」について答えることが出来なかった。つまり、今回の爆発物に関しては、全てハウスキーパーの管轄であり、彼は深くは関与していないということだ。ならば彼の管轄による【処理】とは船そのもののコントロールによるものだろう。おそらくは、動力部への負荷による爆破―――――。
止めなくては。
そう思い、言葉を続けようとした時に心音が一つ大きく跳ねた。
止める?
誰が?
―――――緋勇、さんが?
『《L》!』
呼びかけに我に返る。
私は今、何を考えようとしていたのか。思考の中に渦巻く何かを振り払い、再度咽喉から声を絞り出す。
「船内にいる以上、爆破といえども自分の脱出を想定しての作業になります。危険な動力部に直接赴いてということはないでしょう。おそらくは操舵室にコントロールシステムがあります」
視線を向ける前に背後からワタリの情報が飛び込む。
「操舵室はデッキを抜けた先です」
『了解!』
それだけ聞けば十分、というように短い返事が響く。それと同時にモニターの映像は更に速度を増した。
まだ速く走れるというのか、この人は!?
「緋勇さん、デッキまでの道は・・・」
言いかけた私へ、モニターを覗き込む黒い瞳が笑いかける。
鮮やかな、王者の瞳で。
『分かります。空気が流れるところでなら、《気》を読むなんて造作もない』
今度こそ本当に声をなくした私は、その時完全に重要な因子を一つ忘れていた。
ハウスキーパー。
あの男が《A》の発言の間に一言も口を開かなかったことに何故気付かなかったのか。
私が悔やむのはもう少し後のことになる。
END。
※※※※※
4月滑り込み更新セーフ!!!
あ、あともうちょっと続きます・・・。
●これは「L the proLogue to DEATH NOTE ~螺旋の罠」の名前自由入力主人公(新米FBI捜査官)が「東京魔人学園剣風帖」のデフォルト主人公緋勇龍麻だったら、というスーパー妄想ドリーム満載な二次創作モドキです。
しかも元のゲームが推理ものなので、話が進むごとに確実にネタバレします。
●加えてこの緋勇さん、先日「九龍妖魔学園紀」の2周目オマケモード「黄龍妖魔学園紀」をクリア済です。
●故に時間軸は2005年9月のお話です。(※ゲームと同じくデスノート本編開始前の設定)
●世界観はデスノの方ではなく、魔人+九龍がメインですので、この世界の《L》は「魔人世界に存在するパラレル《L》」です。故にこの世界ではそもそもこの先デスノート事件そのものが起こらないとか、起こったとしても陰陽師やM+M機関に即日闇に葬られたり魔女が死神使い魔にしちゃったりします。大体FBIにだってロゼッタと取引しちゃう捜査官がいるという、デスノメンツに大変住みにくい世界です。
●そんな二次創作大嫌い!な方は、どうかここまでの全てをなかったことにしてリターンをお願いします。
●まぁパロディならいいんじゃない?とか、寧ろ名前入力できるゲームには「緋勇龍麻」しか選択肢を持たないぜ!という剛の者な方に少しでも楽しんで頂けたら喜び勇んで蝶の迷宮の井戸に飛び込む勢いです。
最後に・・『こんな二次創作に立ち向かう覚悟はありますか?』
<はい(の人は下へスクロールを)
<いいえ(の人はどうぞこのままリターンをお願いします)
では、ゲーム再開です↓
※※※※※※※
『《L》以外には、ちゃんと警戒してますからいいんですよ』
その答えに、これといって深い意味はなかったに違いない。
私の意地悪へのちょっとしたお返し。そんな軽い気持ちで発した言葉だったのだろう。
「・・・・・・」
だが私は、それにいつものように上手く答えることが出来なかった。
『・・・《L》?』
不審げな緋勇さんの声が聞こえる。早く返事をしなければと思うのに、気の利いたお返しどころか何一つ言葉が思いつかない。私の思考は、別の方向へと囚われてしまっていたからだ。
(そうだった、のか)
【警戒】という単語を聞いた時、何故か不意に理解した。
この人は『自身でそうと決めた相手以外には身に纏った緊張を解くことは無い』のだ。
きっと本人も、明確に意識しているわけではないのだろう。だが。
(思えば、彼は【敵側の】通信が入ったときには微かにも驚きを見せなかった・・・)
ここまでの映像が次々と脳裏に再生される。確かに敵側からの通信は回数としては少ない。だが、それだけにいつも唐突であり、解体作業終了直後や息抜きの会話への割り込みなど、気を緩めた瞬間に入るものが多かったはずだ。しかし私の記憶に残る緋勇さんは、どの場面においてもごく自然にモニターへ視線を投げただけ。取り立てて表情を変化させることもなくそれを聞いていた。その違和感に、改めて私は驚愕する。
仮定に過ぎないが、緋勇さんは私からの通信と【ハウスキーパー】達からの通信を聞き分けているのではないだろうか。
現場にいる以上、こちら側では識別のできないものを彼が感知している可能性はある。発信源の違いなどから生じる微妙な【何か】を無意識に識別しているということは有り得るだろう。直感に優れる緋勇さんならなおさらだ。だとすれば、先程の緋勇さんの言葉は。
(《L》・・・つまり《私》にそれだけの信頼を委ねているのか。常に緊張を身に纏い、警戒を怠らない、そうしなければ生きていけない世界を生き延びてきたのだろう、この人が)
導き出された結論に、息が詰まる。
確かにこれまでの道のりで、ある程度の信頼関係を築けたと確信はしていた。しかし、【無意識の警戒】すら解かれるほどに信頼されているとは、思ってもみなかったのだ。
(私は、緋勇さんに【命を預けられて】いる)
抱えた膝に顔を埋めて、心の中で呟く。
(それは、私が《L》だからだろうか。【世界の頭脳】であり、FBIとも繋がりを持ち、様々な権限と財力を備えた【名探偵】だからか)
違う、と呟きが今度は小さな音になった。
(《私》ゆえに、だ)
確かに私は《L》だ。
だが《L》の全てが私であるのに対し、私にとって《L》は私を示す記号の一つに過ぎない。そして彼が、緋勇さんが知っているのはその記号である《L》。それだけのはず。
だというのに、彼は《L》を通してその後ろの私を、《エル・ローライト》を見ている気がする。
根拠など何も無い。ただの私の独りよがりで身勝手な解釈なのかもしれない。だが、この【勘】は決して間違っていないと、私の中にあるロジックでは解き明かせないものが言うのだ。頭脳でも、力でもなく、ただ《私》という一個人の【存在】をもって、彼は私を【信頼】したのだと。
(この人は、記号の無い《私》を信じてくれている。愚かとも言えるほど、ただ真っ直ぐに)
その信頼を、人の命を預かる重さを、『恐ろしい』と初めて思った。
そして、それ以上に―――――。
多分《私》は『嬉しい』と思ったのだ。
金属が触れ合う小さな音がする。フレームに巻きつけられた針金が鋏で切り外されると、モニターの向こうで四角い箱でしかなかった物体は徐々に【罠】としての素顔を露にしていった。
『・・・・・・』
流石の緋勇さんも、今までに比べ緊張の度合いが高いのだろう。常より更に呼吸の回数が減り、長い前髪に覆われた額の隙間にうっすらと汗が浮いている。
とはいえ、それは彼の判断力を鈍らせる程度のものではなかったようだ。
やがて最後の【罠】は、今まで彼が扱ってきたものと同じように単なる残骸へと姿を変えた。
「お見事です」
手にした爆薬をゆっくりとした動作でテーブルの中央に乗せた後、賞賛の言葉を受けたその人は、やはり今までと同じように無防備に笑顔を見せた。
『ありがとうございます』
モニターの中に変わらない言葉と表情を確認して、私も一瞬微笑んだかもしれない。
しかし我々の纏う空気は瞬時に硬質化した。
(―――――――来る)
機械越しの何処かよりこちらを窺う悪意に満ちた瞳・・・、おそらくは最後の攻勢に出てくるであろう【敵】の気配をそれぞれが感じ取った故に、だ。
無論、予測していたこと。先手を取らせる気などない。
「そして、お疲れ様でした緋勇さん。・・・ここからは、私の仕事です」
先ほどのものとは違う、ある意味「私らしい」笑みが口角を引き上げた。
攻守逆転。仕掛けるのは、もう相手側ではない。《私》だ。
[おい、これで終わったとは・・・]
間を置かず通信に割り込んできたハウスキーパーに向い、見えるはずもないが小さく舌を出す。
「いいえ、【ゲーム】は終わりですよ。いつまでも貴方のような何も知らない代理人を相手にしているわけには行きません」
[な、なんだと!?]
ハウスキーパーの語気に激昂と困惑が混じる。その反応に完全なる確信を持つ。
やはり、この男は単なるスピーカーに過ぎない。
「【何も知らない代理人】と言ったのです。・・・いえ、代理人という言葉すら間違いですね。【人】であれは自らの意思があるはずですから。ハウスキーパー、貴方は単なる【真犯人の操り人形】です」
端末の向こうから余りのことに単語にすらならない呻きが響く。だが、もう【ハウスキーパーという犯罪者】個人の反応などどうでもよかった。《L》の推理は完成された。後は扉の開きかけた真実を明らかにし、この事件を終わらせるだけだ。
「操られたままでは何かと不便でしょう。私が【糸】を切ってあげますよ・・・操り手を引き摺り出すためにもね」
ハウスキーパーを追い詰めるのにさほどの時間は必要なかった。
個々の爆弾の殺傷能力の低さと時間制限の多様さ。
パズルのような解除アイテムの配置。
相当額をつぎ込んだであろう過剰な舞台設定。
これを解除すべき【被害者】に素人ではなく【FBI捜査官】というプロフェッショナルを選んだこと。
更に加え、既に先日【罠】解除によりテロリストグループ【クリエラの月】を壊滅に導いた実績のある《L》をナビゲーションに付けたこと。
「殺傷能力の低い対人トラップを大量に解除する。しかも基本部分は同じものを様々な時間制限で繰り返し。これは一見相手を苦しめる為に仕掛けられたもののようですが、誘拐や爆弾という物騒なキーワードを取り払うと急に別の側面が見えてきます」
私の言葉にハウスキーパーからの反論はない。
元よりプロである自分をアドバイザー程度にしか使う気のないクライアントに対し、若干の不信感はあったのだろう。高額の報酬と自分の罠を解除した《L》に対する復讐が出来るという付加価値が、その不信感を上回ったというところか。
ならば、そこに亀裂を入れるのは容易い。
真実を告げてやるだけで良いのだ。
「少しずつ変化させ、繰り返し行う【作業】・・・・・・それを通常は【実験】と称します。つまり、この事件そのものが【対人罠の性能テスト】を目的とした大掛かりな【実験】なのですよ」
私の言葉に息を呑んだのは犯人側だけのようだった。
おそらく、先ほどまでの私との会話で緋勇さんは既にこの事実を予測していたのだろう。静かな目線がモニターに注がれているのが分かる。
それに対し、ハウスキーパーの狼狽は面白いほど顕著に画面に現れていた。見る見るうちに歪む表情を確認しつつ、私は更にダメージを与える言葉を続ける。
「舞台に客船を選んだのもその為です。こちらも一見すれば捜査の手が及びにくいことや、いざ爆発した時にすべての証拠が海底に沈んでしまうことなど犯罪の露見を逃れる為の仕掛けに思えますが、実際は寧ろ【周囲に被害を及ぼさない為の実験施設】として選択されたのでしょう」
[なん、だと・・・?]
引きつったハウスキーパーの声が微かに聞こえたが、敢えて私はそれを無視した。プライドが非常に高いこの男の怒りを煽り立てるにはこれが一番手っ取り早い。予想通り、ハウスキーパーはあっさりと怒りを爆発させ、先ほどまで仮初めと言えども仲間であったはずの男に食って掛かった。
[どういうことだジェフリー!俺は聞いていないぞそんな話は!貴様ら一体何を企んでやがる!]
襟首を掴み上げられた【J】ことジェフリーが青ざめ弱々しく首を振る。
[わ、私はただ上の指示通りにしただけで・・・]
「ではジェフリー、貴方の【上】は何故このような実験を必要としたのでしょうね?」
更なる追及に、完全に顔色が失せる。やはり彼はこの計画の【真の目的】、そして【黒幕】を知っているのだ。
私は彼らの背後に存在する何者かの視線を感じながら、それを引きずり出す為の最後のキーワードを投げかけた。
「豪華客船グラナダ号。マーメイド社で製造されたこの船は最初の所有者である欧州の観光会社の倒産により、5年前に北米のIT企業リブート社に売却されています。しかし、購入直後に何故か廃船処分となり、以後は行方不明・・・。ところが今回の事件に際し過去半年の衛星写真を調査したところ、このグラナダ号と思われる客船が深夜にクリエラ隣国のドッグから出航する姿が確認されました。ドッグの所有者は、CLN系列の海運会社です」
突如始まった私の《推理》に、一時的に怒気を静めたハウスキーパーのみが奇妙なものを見るようにモニターへと目線を移す。反対にジェフリーは引きつった顔をモニターから背けた。
唯一、緋勇さんだけは僅かにも動くことなく私の声を聞いている。その冷静な態度が時折見せるのんびりとした表情とあまりにも違いすぎて、こんな時だというのに私はほんの少し自分の口元が緩むのを抑えられなかった。
「CLN社、『COMBAT LOGISTICS NETWORK』。ご存知かと思いますが、中東の多国籍軍事産業会社です。・・・おや、不思議ですね。【IT企業】と【豪華客船】という組合せはどうもちぐはぐですが、【軍事産業会社】と【対人罠】・・・これは実に分かりやすいと思いませんか?」
微かに笑みを浮かべたままの口から、白々しくも攻撃的な言葉を紡ぐ。
言葉も時として爆弾と同じように働くものだ。
耳から投下され、脳内で炸裂したそれは、ハウスキーパーの精神を確かに大きく損傷させたのだろう。憤怒の炎を宿した目は、最早目の前のジェフリーではなくどこか他の場所にいるクライアントに向けられていた。突き飛ばすようにして襟首を開放されたジェフリーが、慌ててハウスキーパーと距離をとる。
一瞬の沈黙。
それを打ち破ったのは、場違いな拍手の音だった。
[・・・流石《世界の頭脳》、まさかそこまで読まれるとは思わなかったよ。おめでとうと言っておこう]
流石に顔を映すような愚は犯さない。私の使用するものとは違うが、機械処理を施したと思われる【声】だけが拍手の最後に重なるように異なる3箇所へと響いた。
「貴方が黒幕ですか」
今更聞くのも馬鹿馬鹿しいが、一応そんなお決まりの言葉を吐いてみる。
すると、陳腐な台詞がお気に召したのか、機械越しにくっくっと笑い声が返ってきた。なるほど、定石通りの黒幕には定型の台本がお似合いというわけだ。
[仮に《A》とでも名乗っておこうか。まぁどうせその仮の名もすぐに覚えている必要はなくなるだろうがね]
(やれやれ・・・)
私のため息が聞こえたわけでもなかろうが、笑い声はすぐに消えた。代わりに耳障りな【声】が、限りなく自己の優位を確信した口調で語りだす。
[さて、そこまで見破られているのならば今更隠すこともあるまい。君たちは実によくやってくれた。これほど素晴らしいデータが取れるとは思ってもいなかったよ]
自分の力に酔っているのか、ひどく饒舌な【黒幕】は沈黙を良いことに不愉快極まりない【計画】を自慢げに披露し続ける。
[我々はこのデータを基に優れた【対人罠】を量産することが可能になるだろう。世界に名高い名探偵《L》がFBIの捜査官を使って開発協力した、そう、【《L》ブランド】だ。そんな売り文句はどうかね?]
「・・・悪趣味極まりないですね」
不快を通り越し、口を開くのも億劫だ。まぁそういう私の態度こそ、こうした悪役好みらしい。勝手にべらべらと情報を喋ってくれるのなら好都合というものだが。
[既に君たちがトラップ解除に奔走する姿は記録済みだ。後は大々的な宣伝と共にこの映像を配信すればいい。《L》が兵器開発に関わっていた!実にスキャンダラスでセンセーショナルなCMになるだろう。紛争地域の国家、テロリスト、客はいくらでも付く。まったく、君たちには感謝しなくては!]
高笑いを交えた《A》は更に機嫌よく自分の描いた図面を広げてみせる。
最早無用となったグラナダ号を爆破し証拠を隠滅。その後、彼らに都合よく編集された【トラップ開発実験の模様】がネットにより世界配信される。《L》の権威は失墜、《FBI》は利用されたと自己弁護するほかなく、批判の的となるだろう・・・と。
まったく、呆れかえる。
「そんなに上手くいくと思いますか?」
100%の皮肉だったが、《A》には負け惜しみにしか聞こえなかったようだ。
[ははは!そう言いたい気持ちも分かる、しかしもう遅い。協力に感謝して、Mr.緋勇、優秀なモルモットだった彼の命は見逃してあげようじゃないか。デッキには救命ボートがある。早くこの船から逃げられるよう誘導してあげたまえ。まぁ勿論、この船と運命を共にしたいというのなら止めはしないがね。ジェフリー!予定通りに【処理】しろ]
嘲りに満ちた声は、最後に彼の部下への指示を残してぶつりと途絶えた。
[は、はい]
一拍遅れてジェフリーのかすれた声をマイクが拾う。
しかしその声が耳に入るより早く、【処理】という単語が私の脳髄を電流のように駆け抜けた。
このジェフリーという男は、【船のコントロールを受け持っている】!
「緋勇さん!」
私の声と、彼が通信端末を瞬時に拾い上げ駆け出すのはほぼ同時だった。
(早い!)
余りの反応速度に私の方が一瞬言葉を忘れる。モニターに移る景色はジェットコースターにでも乗っているかのように流れていく。
分かっているのだろうか、向かう場所が。
「ジェフリーはこの船を爆破させ、捜査の及ばない深海に沈めるつもりでしょう。ならば彼は直接この客船をコントロールできる場所にいる、つまり、船内に」
緋勇さんに向けてだけではなく、自分で確認する意味でもあえて口に出してみる。
以前、【クリエラの月】を偽称していたジェフリーは「爆発物が遠隔操作できるかどうか」について答えることが出来なかった。つまり、今回の爆発物に関しては、全てハウスキーパーの管轄であり、彼は深くは関与していないということだ。ならば彼の管轄による【処理】とは船そのもののコントロールによるものだろう。おそらくは、動力部への負荷による爆破―――――。
止めなくては。
そう思い、言葉を続けようとした時に心音が一つ大きく跳ねた。
止める?
誰が?
―――――緋勇、さんが?
『《L》!』
呼びかけに我に返る。
私は今、何を考えようとしていたのか。思考の中に渦巻く何かを振り払い、再度咽喉から声を絞り出す。
「船内にいる以上、爆破といえども自分の脱出を想定しての作業になります。危険な動力部に直接赴いてということはないでしょう。おそらくは操舵室にコントロールシステムがあります」
視線を向ける前に背後からワタリの情報が飛び込む。
「操舵室はデッキを抜けた先です」
『了解!』
それだけ聞けば十分、というように短い返事が響く。それと同時にモニターの映像は更に速度を増した。
まだ速く走れるというのか、この人は!?
「緋勇さん、デッキまでの道は・・・」
言いかけた私へ、モニターを覗き込む黒い瞳が笑いかける。
鮮やかな、王者の瞳で。
『分かります。空気が流れるところでなら、《気》を読むなんて造作もない』
今度こそ本当に声をなくした私は、その時完全に重要な因子を一つ忘れていた。
ハウスキーパー。
あの男が《A》の発言の間に一言も口を開かなかったことに何故気付かなかったのか。
私が悔やむのはもう少し後のことになる。
END。
※※※※※
4月滑り込み更新セーフ!!!
あ、あともうちょっと続きます・・・。
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