螺旋の黄龍騒動記・13。
2008年2月19日 螺旋の黄龍騒動記(完結) ネタバレその他色々ご注意(安全の為どうぞ一回は必ず目を通してください)。
●これは「L the proLogue to DEATH NOTE ~螺旋の罠」の名前自由入力主人公(新米FBI捜査官)が「東京魔人学園剣風帖」のデフォルト主人公緋勇龍麻だったら、というオール妄想炸裂大爆発な二次創作モドキです。
しかも元のゲームが推理ものなので、話が進むごとにバッチリネタバレします。
●加えてこの緋勇さん、先日「九龍妖魔学園紀」の2周目オマケモード「黄龍妖魔学園紀」をクリア済です。
●故に時間軸は2005年9月のお話です。(※ゲームと同じくデスノート本編開始前の設定)
●世界観はデスノの方ではなく、魔人+九龍がメインですので、この世界の《L》は「魔人世界に存在するパラレル《L》」です。故にここはそもそもこの先デスノート事件そのものが起こらないとか、起こったとしても一般人が気が付く前に、新宿を中心に集う魔人軍団によって死神も新世界の神希望者もあっさりボコにされちゃうような世界です。
●そういうパラレルって最悪、不愉快!と思われる方は、どうかここまでの全てをなかったことにしてリターンをお願いします。
●二次創作だし多少弾けてもまぁいいんじゃない?とか、寧ろ名前入力できるゲームには「緋勇龍麻」しか選択肢を持たないぜ!という剛の者な方に少しでも楽しんで頂けたら喜び勇んで真・旧校舎の底までダッシュします。
最後に・・『こんな二次創作に立ち向かう覚悟はありますか?』
<はい(の人は下へスクロールを)
<いいえ(の人はどうぞこのままリターンをお願いします)
では、ゲーム再開です↓
※※※※※※※
強い日差しが前髪を通してなお、瞳を鋭く射る。
熱く肌を焼く太陽と、きらめく海に白い波。そんな光景だけ見ていると、まるでバカンスにでも来ているようだ。
(まぁ、バカンスどころか誘拐監禁されてるわけなんだけど)
デッキ上から波を蹴立てて進む船体を眺めつつ、今更そんな余計なことを考えた、直後。
『緋勇さん、念の為にお尋ねしますが・・・泳ぎに自信はありますか』
実にいいタイミングで端末から飛び出した【ものすごく不穏な未来を想定した】質問に、心の中だけだったはずの苦笑いが本当に口元を歪める羽目になった。
《L》の冗談は結構厳しい。
「陸さえ見えれば『はい』とお答えしたいところなんですけどね」
苦笑を隠さず答えると、端末の向こうでも似たような気配がした。多分《L》もいっそ俺が自力で海を泳ぎ渡ってしまうくらいのスーパーマンだったら話は早いのになぁ、程度のことを考えて自分の想像に苦笑いでもしてたんだろう。まぁ確かにそれだったら楽だと俺も思う。がしかし、如何に《黄龍の器》が人並み外れる身体能力を持っていても流石に海の真ん中に放り出されてまで生還できるとは思えない。
水を司る玄武たる如月ならあるいは、とも思うけど・・・ん?
いや、そもそも《L》の質問は冗談なんだから、そこまで考えるな俺。どーもさっきの【壁壊し事件】以来、どこまでが一般人との境界線か計っちゃうな。やれやれ。
『では、緋勇さんが遠泳に挑戦しなくて済むように頑張りましょう。準備はよろしいですか?』
「・・・よろしいですよ、《L》」
《L》の駄目押しにわざと大げさに肩をすくめて見せ、俺は再び太陽の下から船内へと移動した。
ラウンジに到達してから43分。
もうすぐ表示から【時間】の残数が消え、【分】のみとなるタイムカウンターに一瞬だけ目をやって、俺は再び罠の解除に意識を集中させた。ここまで来ると、ある程度罠のパターンが限られてくる。無論コードの本数や爆薬の位置など細かい部分で手数が変わってくるが、基本的な注意部分が同じの為【作業】の色合いが濃くなってきているのは確かだ。
『集中力を奪うために敢えて同じような罠を大量に用意しているのか、それとも単にこれ以上のパターンを用意しなかったのか・・・。いずれにせよ、この《罠》はそもそもの前提として【解除される】ことを想定されたものである可能性が高いですね』
迷った末にやはり先ほどまでと同じく爆薬を氷結させることにした俺が、解体した罠に手を触れて《力》を集中させ始めたところで《L》からそんな通信が入った。
「つまり、俺が【失敗して爆死する】ことよりも、【繰り返し解除する】ことが相手にとっては有益だということですか?」
『おそらくは』
短い《L》の声にその数十倍にも及ぶ思考が混ぜ込まれている気がして、自然と目が鋭く細まる。
相手方にとって、重要なのは《L》を介入させること。
しかし、だからといってその餌である《人質》が誰でも良かったわけではなく・・・。
「・・・【爆弾を解体する能力を最低限保持している人質】として、《FBI捜査官》が選ばれた?」
俺の呟きに対する《L》の返答は無言の肯定だった。
(てことは、この【罠】こそが事件の主役なのかな)
手のひらの内側で空気が凍りついていくのを感じながら、漠然とそう思う。《L》の思考の中では既にこの【主役】が背負った舞台の全てが見えているのだろうか。
(だとしたら幕を引くタイミングを計るのが《L》で、照明を落とすのが俺ってことなのかな。・・・ま、スイッチを切るのか電球を割るのか、それは状況次第だけど)
そこまで考えたところで、爆薬が完全に凍結したことに気付く。静止したままだった姿勢を誤魔化すように大きく伸びをしながら立ち上がると、思考の欠片が先程の考えに余計なオチをつけた。
(・・・できれば、電球どころか劇場そのものを壊滅させるような羽目にだけは陥りたくないな)
微妙に寒々とした空気を一人で感じ、自分のジョークセンスの無さを勝手に思い知らされる。いかん、縁起でもない。裏密の楽しそうな『うふふ~』という笑い声の幻聴まで聞こえてくる。
うっかりでも声にしなくてよかった・・・。
『緋勇さん』
「はいッ!?」
くだらないことを考えていたせいか《L》の通信に思わず妙なテンションで返事をしてしまった。別にツッコミじゃないっていうのに、まったく。端末の向こうで笑いの気配がするのは絶対気のせいじゃないんだろうなぁ・・・。
『流石です、緋勇さん。此処に来てまだ集中を解く余裕があるとは』
「・・・《L》以外にはちゃんと警戒してますからいいんですよ」
『・・・・・・』
(・・・あ、あれ?)
さらっと追撃されるかと思いきや急に端末の向こうが静かになってしまい、思わず焦る。
言い訳がましい反論をしたから怒らせてしまったんだろうか。確かにぼんやりしてた俺が悪いんだし。
だけど今までの《L》の反応からして、こんな風にいきなり機嫌を悪くするのはちょっと変だ。この程度の言い訳、軽くやり込めて流してしまうだろうと思ってたのに。
(でも確かにこんな状況下だし、冗談を言うにしてもタイミングが悪いっていうことかな。考えてみれば《L》だって長時間詰めっぱなしで疲れてるだろうし)
ここは素直にゴメンナサイってしとこうか、と俺が口を開く寸前。
『・・・失礼しました、緋勇さん』
と、《L》のものとは違う音程で機械音声が喋った。
「《ワタリ》・・・ですか?」
ひょっとして、《L》は口を聞くのも嫌で席を外してしまったんだろうか。
かなり焦った俺の表情を読み取ったのか、相変わらず穏やかな(機械音声なのに、だ)口調で《ワタリ》が状況を説明してくれた。
『申し訳ございません、《L》は予想外の事態に少々反応力が低下しておりまして』
「え?」
『いえ、緋勇さんは何も悪くございませんのでお気になさらず。有り体に申し上げますと、単に照れて突っ伏しておりま『ワタリ!』』
「え?」
いきなり大きな音で機械音声を聞いたので耳がキーンとなる。えーと、今のは《L》?
『・・・失礼しました、緋勇さん』
あ、《L》だ。
「ええと・・すみません、何か余計なこと言いました?」
『いえ、私が未熟なだけです。こちらこそお時間を無駄にしてすみません。さて、次の部屋にささっと参りましょう。さぁさぁ』
「???」
なにやらさっぱり分からないが、とりあえず怒ってはいない・・・のかなぁ。
『さぁさぁ、1時間を切ってしまいました。もう一頑張りですよ緋勇さん』
「は、はぁ」
結局、なんだったんだろう。本当に怒ってはいないみたいだけど、代わりに謎のハイテンションだ。
(まぁ、いいか・・・確かに時間も無いし)
釈然としない気持ちをとりあえず押し込めて、大人しく次の部屋へと向かうことにした俺だった。
――――――――数分後。
『パズルに似ていますね』
すっかりいつもの調子に戻った《L》が、解体したばかりの罠をカメラ越しに確認してそう言った。
「パズル、ですか?この解体作業が?」
同じくすっかり、とはいかないまでも大体いつもの調子の俺が問い返すと、《L》からすかさず『ええ』と返事がきた。
『あるべきところにあるべきものを当てはめていけば、必ず解けるパズルです。普通、【罠】とは出来る限り【解体できないように】作られ、仕掛けられるもの、しかしこれは違う。先程も言いましたが、これは【解体できるように】最初から設定され、配置されているとしか思えません。・・・無論、こちらがミスをすればゲームオーバーにはなりますが・・・』
「・・・ミスをしなければ、クリアできる」
『そうです。人質などという卑怯な手段を使う相手にしては、実にフェアな話ですね?』
くすり、と思わず笑いが漏れた。この皮肉を黙って聞いてるハウスキーパーたちは、一体どんな顔をしてるんだろうな。
『まぁ緋勇さんも私も人間です。万に一つもミスがない、ということもないでしょう。しかしどうでしょうね、気長にそのミスを待つというのは復讐に燃える犯人の行動として心楽しいものでしょうか?』
「俺だったら、余計に苛々しそうですね」
『私もです。さほど短気とは思えない我々が想像しても苛つくような計画、加えて時間が経過すればするほど捜索は進行し不利になる状況。・・・緋勇さん、そんなうんざりするリスクを背負ってまで、彼らは何をするつもりだと思いますか?』
《L》の出した問題に、端末の真っ白な画面を見たまま考え込む。リスクを負っても爆弾を解除させたい意味。そこに世界の頭脳を関与させる意味。これだけの設備投資を行う意味。
復讐ではないのなら。
(・・・?)
復讐ではない、という言葉を反芻したとき、ふと何かが閃いた。
(復讐も、それを望む人間にとっては精神的な利益だ。でも、この犯人は違う?ならば、他に【このリスクに見合う利益を回収する目算がある】・・・・・?)
自分の心音が大きく聞こえる。何か、予想もしなかった大きなものが全てを包んでいる気がする。
俺の僅かな動揺を察したのか否か、《L》はそれ以上会話を続けようとはしなかった。
『時間もないことですし、この問題は宿題にしましょう。答え合わせは最後の罠を解除した後で』
「・・・了解です、《L》」
間違いない。《L》にはもうこの事件の実態が分かっているのだろう。こちらの会話は当然相手方にも筒抜けのため、明確な答えは口にしなかっただけだ。
そして、俺にも《L》のヒントで少しずつではあるが答えが見えてきたように思う。
この事件に関わっているのは、多分テロリストと同様・・・いや、ある意味ではそれ以上に厄介な【組織】であるということが。
―――――ああ、そうか。
そこまで考えて、やっと分かった。
当たり前だったんだ。ここに今いるのは、FBI捜査官ではなく《黄龍の器》なんだから。
(一歩間違えばそれだけの大事になる、だから【喚ばれた】。あー、なんでこんな簡単なこと気が付かなかったんだ。【俺が】巻き込まれたんじゃない、《黄龍》がここに来なければならなかったんだ。てことは)
強い日差しに視界が一瞬白く染まる。
ラウンジフロアの最奥、キートラップの仕掛けられた最後の部屋は、海のよく見える広いカジノルームだった。
『いよいよですね』
《L》の声に、端末へと向き直る。
薄く埃を被ったスロットマシンやルーレット台が置かれた中央、ポーカーテーブルの上に乗せられたダンボール箱の中に【それ】はあった。
「はい」
ダンボール箱を開け中から塊を取り出すと、本命のキートラップ自体はもう一段階金属製の箱に包まれていることが分かった。ご丁寧に引き出し状の開閉部は取っ手を外してある。この取っ手部分は既に別の部屋の探索で発見していたので問題は無かったが、まるで子供のいたずらのような仕掛けに軽い嫌悪感を覚えた。
確かに、【パズル】だ。
ピースはきちんと用意してある。時間制限に間に合うよう組み立てられなければプレーヤーの負け。ゲームオーバーはイコール死。単純明快にして不愉快極まりないルールにのっとったパズルゲーム。
思考が急速に冷えた。【怒り】が生み出す陰気がじわりと脳髄を浸していくのが分かる。
(やめろ)
身体の内側で騒ぎ立てる《力》を強引に押さえつけ、怒りを飲み込む。
《黄龍》の強大なエネルギーそのものに善悪はない。壊すも、守るも、全て《器》の在り方次第とこの宿星を知らされた時に教えを受けた。事実、俺の感情が一定の方向に強く傾けば、《力》は縁を越え溢れ出そうとする。制御できない《力》はただの暴力に過ぎず、人を、街を、この世を害する災いとなる。かつて俺たちが、寛永寺でその暴走を目の当たりにしたように。
ヒトの悪意に立ち向かうのは、同じくヒトであるものの役目。今ここで戦わなくてはならないのは、ただの人間《緋勇龍麻》だ。
(『だから』鎮まれ、俺の中の《黄龍》。今は『その時』じゃない)
俺の意思に従い、波が凪いでいく。完全に制御できていることを確認してから、キートラップを取り出すための取っ手を金属箱へと取り付けた。
いよいよ本番だ。
「宜しくお願いします、《L》」
準備完了を伝える為に端末へと呼びかけると、機械音声がやや間を置いて俺の名を呼んだ。
『緋勇さん』
白い画面を覗き込んだ俺に、機械音声越しの名探偵は相変わらずのリズムを崩さずこう言った。
『この罠をクリアしたら、私お薦めの名パティシエが作ったプリンをプレゼントしましょう』
名パティシエのプリン。
この場にあまりにも不似合いな品名に、画面を見つめる俺の表情が笑いに変わる。
「名パティシェ、ですか?《L》ご推薦なら相当の腕前でしょうね」
『ええ、ただし所謂隠れ家的な存在ですので、今は名前をお教えできませんよ。プレゼントを受け取るまでのお楽しみです』
一呼吸後。
モニターを挟んだ遠い場所で、《L》と俺は多分同時に小さな笑いを噴出した。
『準備完了、ですね』
《L》の声に笑顔のままでこくんと頷く。またしても、この人は。
『前にも言いましたが、緋勇さん、貴方には眉間に皺の寄っていない表情の方が似合います。付け加えるならば、笑顔だとさらに8割り増しです。最後までこの調子で行きましょう』
「了解です、《L》。・・・そろそろお腹も空きましたし、ね」
そう、オードブルばかり並べられるのにはもう飽きた。メインディッシュを片付けなくてはデザートにありつけないんだ。
タイムカウンターの残り時間表示は、0:24。
『始めましょう、緋勇さん』
その言葉と同時に、俺は金属箱を引き開けた。
END。
※※※※※※
ゲーム発売一周年記念を何もせずに終わりました・・・orz
そしてまだこの話も終わりません。
そんなダメっぷりですが一年間(と3週間)ありがとうL(とゲームを作ってくれたこにゃみさん)!いやまだスゥイーツ係現役なんですけど(いったい何周目だお前)。
くっ・・ご、五月までには完結を・・・(えええー)
●これは「L the proLogue to DEATH NOTE ~螺旋の罠」の名前自由入力主人公(新米FBI捜査官)が「東京魔人学園剣風帖」のデフォルト主人公緋勇龍麻だったら、というオール妄想炸裂大爆発な二次創作モドキです。
しかも元のゲームが推理ものなので、話が進むごとにバッチリネタバレします。
●加えてこの緋勇さん、先日「九龍妖魔学園紀」の2周目オマケモード「黄龍妖魔学園紀」をクリア済です。
●故に時間軸は2005年9月のお話です。(※ゲームと同じくデスノート本編開始前の設定)
●世界観はデスノの方ではなく、魔人+九龍がメインですので、この世界の《L》は「魔人世界に存在するパラレル《L》」です。故にここはそもそもこの先デスノート事件そのものが起こらないとか、起こったとしても一般人が気が付く前に、新宿を中心に集う魔人軍団によって死神も新世界の神希望者もあっさりボコにされちゃうような世界です。
●そういうパラレルって最悪、不愉快!と思われる方は、どうかここまでの全てをなかったことにしてリターンをお願いします。
●二次創作だし多少弾けてもまぁいいんじゃない?とか、寧ろ名前入力できるゲームには「緋勇龍麻」しか選択肢を持たないぜ!という剛の者な方に少しでも楽しんで頂けたら喜び勇んで真・旧校舎の底までダッシュします。
最後に・・『こんな二次創作に立ち向かう覚悟はありますか?』
<はい(の人は下へスクロールを)
<いいえ(の人はどうぞこのままリターンをお願いします)
では、ゲーム再開です↓
※※※※※※※
強い日差しが前髪を通してなお、瞳を鋭く射る。
熱く肌を焼く太陽と、きらめく海に白い波。そんな光景だけ見ていると、まるでバカンスにでも来ているようだ。
(まぁ、バカンスどころか誘拐監禁されてるわけなんだけど)
デッキ上から波を蹴立てて進む船体を眺めつつ、今更そんな余計なことを考えた、直後。
『緋勇さん、念の為にお尋ねしますが・・・泳ぎに自信はありますか』
実にいいタイミングで端末から飛び出した【ものすごく不穏な未来を想定した】質問に、心の中だけだったはずの苦笑いが本当に口元を歪める羽目になった。
《L》の冗談は結構厳しい。
「陸さえ見えれば『はい』とお答えしたいところなんですけどね」
苦笑を隠さず答えると、端末の向こうでも似たような気配がした。多分《L》もいっそ俺が自力で海を泳ぎ渡ってしまうくらいのスーパーマンだったら話は早いのになぁ、程度のことを考えて自分の想像に苦笑いでもしてたんだろう。まぁ確かにそれだったら楽だと俺も思う。がしかし、如何に《黄龍の器》が人並み外れる身体能力を持っていても流石に海の真ん中に放り出されてまで生還できるとは思えない。
水を司る玄武たる如月ならあるいは、とも思うけど・・・ん?
いや、そもそも《L》の質問は冗談なんだから、そこまで考えるな俺。どーもさっきの【壁壊し事件】以来、どこまでが一般人との境界線か計っちゃうな。やれやれ。
『では、緋勇さんが遠泳に挑戦しなくて済むように頑張りましょう。準備はよろしいですか?』
「・・・よろしいですよ、《L》」
《L》の駄目押しにわざと大げさに肩をすくめて見せ、俺は再び太陽の下から船内へと移動した。
ラウンジに到達してから43分。
もうすぐ表示から【時間】の残数が消え、【分】のみとなるタイムカウンターに一瞬だけ目をやって、俺は再び罠の解除に意識を集中させた。ここまで来ると、ある程度罠のパターンが限られてくる。無論コードの本数や爆薬の位置など細かい部分で手数が変わってくるが、基本的な注意部分が同じの為【作業】の色合いが濃くなってきているのは確かだ。
『集中力を奪うために敢えて同じような罠を大量に用意しているのか、それとも単にこれ以上のパターンを用意しなかったのか・・・。いずれにせよ、この《罠》はそもそもの前提として【解除される】ことを想定されたものである可能性が高いですね』
迷った末にやはり先ほどまでと同じく爆薬を氷結させることにした俺が、解体した罠に手を触れて《力》を集中させ始めたところで《L》からそんな通信が入った。
「つまり、俺が【失敗して爆死する】ことよりも、【繰り返し解除する】ことが相手にとっては有益だということですか?」
『おそらくは』
短い《L》の声にその数十倍にも及ぶ思考が混ぜ込まれている気がして、自然と目が鋭く細まる。
相手方にとって、重要なのは《L》を介入させること。
しかし、だからといってその餌である《人質》が誰でも良かったわけではなく・・・。
「・・・【爆弾を解体する能力を最低限保持している人質】として、《FBI捜査官》が選ばれた?」
俺の呟きに対する《L》の返答は無言の肯定だった。
(てことは、この【罠】こそが事件の主役なのかな)
手のひらの内側で空気が凍りついていくのを感じながら、漠然とそう思う。《L》の思考の中では既にこの【主役】が背負った舞台の全てが見えているのだろうか。
(だとしたら幕を引くタイミングを計るのが《L》で、照明を落とすのが俺ってことなのかな。・・・ま、スイッチを切るのか電球を割るのか、それは状況次第だけど)
そこまで考えたところで、爆薬が完全に凍結したことに気付く。静止したままだった姿勢を誤魔化すように大きく伸びをしながら立ち上がると、思考の欠片が先程の考えに余計なオチをつけた。
(・・・できれば、電球どころか劇場そのものを壊滅させるような羽目にだけは陥りたくないな)
微妙に寒々とした空気を一人で感じ、自分のジョークセンスの無さを勝手に思い知らされる。いかん、縁起でもない。裏密の楽しそうな『うふふ~』という笑い声の幻聴まで聞こえてくる。
うっかりでも声にしなくてよかった・・・。
『緋勇さん』
「はいッ!?」
くだらないことを考えていたせいか《L》の通信に思わず妙なテンションで返事をしてしまった。別にツッコミじゃないっていうのに、まったく。端末の向こうで笑いの気配がするのは絶対気のせいじゃないんだろうなぁ・・・。
『流石です、緋勇さん。此処に来てまだ集中を解く余裕があるとは』
「・・・《L》以外にはちゃんと警戒してますからいいんですよ」
『・・・・・・』
(・・・あ、あれ?)
さらっと追撃されるかと思いきや急に端末の向こうが静かになってしまい、思わず焦る。
言い訳がましい反論をしたから怒らせてしまったんだろうか。確かにぼんやりしてた俺が悪いんだし。
だけど今までの《L》の反応からして、こんな風にいきなり機嫌を悪くするのはちょっと変だ。この程度の言い訳、軽くやり込めて流してしまうだろうと思ってたのに。
(でも確かにこんな状況下だし、冗談を言うにしてもタイミングが悪いっていうことかな。考えてみれば《L》だって長時間詰めっぱなしで疲れてるだろうし)
ここは素直にゴメンナサイってしとこうか、と俺が口を開く寸前。
『・・・失礼しました、緋勇さん』
と、《L》のものとは違う音程で機械音声が喋った。
「《ワタリ》・・・ですか?」
ひょっとして、《L》は口を聞くのも嫌で席を外してしまったんだろうか。
かなり焦った俺の表情を読み取ったのか、相変わらず穏やかな(機械音声なのに、だ)口調で《ワタリ》が状況を説明してくれた。
『申し訳ございません、《L》は予想外の事態に少々反応力が低下しておりまして』
「え?」
『いえ、緋勇さんは何も悪くございませんのでお気になさらず。有り体に申し上げますと、単に照れて突っ伏しておりま『ワタリ!』』
「え?」
いきなり大きな音で機械音声を聞いたので耳がキーンとなる。えーと、今のは《L》?
『・・・失礼しました、緋勇さん』
あ、《L》だ。
「ええと・・すみません、何か余計なこと言いました?」
『いえ、私が未熟なだけです。こちらこそお時間を無駄にしてすみません。さて、次の部屋にささっと参りましょう。さぁさぁ』
「???」
なにやらさっぱり分からないが、とりあえず怒ってはいない・・・のかなぁ。
『さぁさぁ、1時間を切ってしまいました。もう一頑張りですよ緋勇さん』
「は、はぁ」
結局、なんだったんだろう。本当に怒ってはいないみたいだけど、代わりに謎のハイテンションだ。
(まぁ、いいか・・・確かに時間も無いし)
釈然としない気持ちをとりあえず押し込めて、大人しく次の部屋へと向かうことにした俺だった。
――――――――数分後。
『パズルに似ていますね』
すっかりいつもの調子に戻った《L》が、解体したばかりの罠をカメラ越しに確認してそう言った。
「パズル、ですか?この解体作業が?」
同じくすっかり、とはいかないまでも大体いつもの調子の俺が問い返すと、《L》からすかさず『ええ』と返事がきた。
『あるべきところにあるべきものを当てはめていけば、必ず解けるパズルです。普通、【罠】とは出来る限り【解体できないように】作られ、仕掛けられるもの、しかしこれは違う。先程も言いましたが、これは【解体できるように】最初から設定され、配置されているとしか思えません。・・・無論、こちらがミスをすればゲームオーバーにはなりますが・・・』
「・・・ミスをしなければ、クリアできる」
『そうです。人質などという卑怯な手段を使う相手にしては、実にフェアな話ですね?』
くすり、と思わず笑いが漏れた。この皮肉を黙って聞いてるハウスキーパーたちは、一体どんな顔をしてるんだろうな。
『まぁ緋勇さんも私も人間です。万に一つもミスがない、ということもないでしょう。しかしどうでしょうね、気長にそのミスを待つというのは復讐に燃える犯人の行動として心楽しいものでしょうか?』
「俺だったら、余計に苛々しそうですね」
『私もです。さほど短気とは思えない我々が想像しても苛つくような計画、加えて時間が経過すればするほど捜索は進行し不利になる状況。・・・緋勇さん、そんなうんざりするリスクを背負ってまで、彼らは何をするつもりだと思いますか?』
《L》の出した問題に、端末の真っ白な画面を見たまま考え込む。リスクを負っても爆弾を解除させたい意味。そこに世界の頭脳を関与させる意味。これだけの設備投資を行う意味。
復讐ではないのなら。
(・・・?)
復讐ではない、という言葉を反芻したとき、ふと何かが閃いた。
(復讐も、それを望む人間にとっては精神的な利益だ。でも、この犯人は違う?ならば、他に【このリスクに見合う利益を回収する目算がある】・・・・・?)
自分の心音が大きく聞こえる。何か、予想もしなかった大きなものが全てを包んでいる気がする。
俺の僅かな動揺を察したのか否か、《L》はそれ以上会話を続けようとはしなかった。
『時間もないことですし、この問題は宿題にしましょう。答え合わせは最後の罠を解除した後で』
「・・・了解です、《L》」
間違いない。《L》にはもうこの事件の実態が分かっているのだろう。こちらの会話は当然相手方にも筒抜けのため、明確な答えは口にしなかっただけだ。
そして、俺にも《L》のヒントで少しずつではあるが答えが見えてきたように思う。
この事件に関わっているのは、多分テロリストと同様・・・いや、ある意味ではそれ以上に厄介な【組織】であるということが。
―――――ああ、そうか。
そこまで考えて、やっと分かった。
当たり前だったんだ。ここに今いるのは、FBI捜査官ではなく《黄龍の器》なんだから。
(一歩間違えばそれだけの大事になる、だから【喚ばれた】。あー、なんでこんな簡単なこと気が付かなかったんだ。【俺が】巻き込まれたんじゃない、《黄龍》がここに来なければならなかったんだ。てことは)
強い日差しに視界が一瞬白く染まる。
ラウンジフロアの最奥、キートラップの仕掛けられた最後の部屋は、海のよく見える広いカジノルームだった。
『いよいよですね』
《L》の声に、端末へと向き直る。
薄く埃を被ったスロットマシンやルーレット台が置かれた中央、ポーカーテーブルの上に乗せられたダンボール箱の中に【それ】はあった。
「はい」
ダンボール箱を開け中から塊を取り出すと、本命のキートラップ自体はもう一段階金属製の箱に包まれていることが分かった。ご丁寧に引き出し状の開閉部は取っ手を外してある。この取っ手部分は既に別の部屋の探索で発見していたので問題は無かったが、まるで子供のいたずらのような仕掛けに軽い嫌悪感を覚えた。
確かに、【パズル】だ。
ピースはきちんと用意してある。時間制限に間に合うよう組み立てられなければプレーヤーの負け。ゲームオーバーはイコール死。単純明快にして不愉快極まりないルールにのっとったパズルゲーム。
思考が急速に冷えた。【怒り】が生み出す陰気がじわりと脳髄を浸していくのが分かる。
(やめろ)
身体の内側で騒ぎ立てる《力》を強引に押さえつけ、怒りを飲み込む。
《黄龍》の強大なエネルギーそのものに善悪はない。壊すも、守るも、全て《器》の在り方次第とこの宿星を知らされた時に教えを受けた。事実、俺の感情が一定の方向に強く傾けば、《力》は縁を越え溢れ出そうとする。制御できない《力》はただの暴力に過ぎず、人を、街を、この世を害する災いとなる。かつて俺たちが、寛永寺でその暴走を目の当たりにしたように。
ヒトの悪意に立ち向かうのは、同じくヒトであるものの役目。今ここで戦わなくてはならないのは、ただの人間《緋勇龍麻》だ。
(『だから』鎮まれ、俺の中の《黄龍》。今は『その時』じゃない)
俺の意思に従い、波が凪いでいく。完全に制御できていることを確認してから、キートラップを取り出すための取っ手を金属箱へと取り付けた。
いよいよ本番だ。
「宜しくお願いします、《L》」
準備完了を伝える為に端末へと呼びかけると、機械音声がやや間を置いて俺の名を呼んだ。
『緋勇さん』
白い画面を覗き込んだ俺に、機械音声越しの名探偵は相変わらずのリズムを崩さずこう言った。
『この罠をクリアしたら、私お薦めの名パティシエが作ったプリンをプレゼントしましょう』
名パティシエのプリン。
この場にあまりにも不似合いな品名に、画面を見つめる俺の表情が笑いに変わる。
「名パティシェ、ですか?《L》ご推薦なら相当の腕前でしょうね」
『ええ、ただし所謂隠れ家的な存在ですので、今は名前をお教えできませんよ。プレゼントを受け取るまでのお楽しみです』
一呼吸後。
モニターを挟んだ遠い場所で、《L》と俺は多分同時に小さな笑いを噴出した。
『準備完了、ですね』
《L》の声に笑顔のままでこくんと頷く。またしても、この人は。
『前にも言いましたが、緋勇さん、貴方には眉間に皺の寄っていない表情の方が似合います。付け加えるならば、笑顔だとさらに8割り増しです。最後までこの調子で行きましょう』
「了解です、《L》。・・・そろそろお腹も空きましたし、ね」
そう、オードブルばかり並べられるのにはもう飽きた。メインディッシュを片付けなくてはデザートにありつけないんだ。
タイムカウンターの残り時間表示は、0:24。
『始めましょう、緋勇さん』
その言葉と同時に、俺は金属箱を引き開けた。
END。
※※※※※※
ゲーム発売一周年記念を何もせずに終わりました・・・orz
そしてまだこの話も終わりません。
そんなダメっぷりですが一年間(と3週間)ありがとうL(とゲームを作ってくれたこにゃみさん)!いやまだスゥイーツ係現役なんですけど(いったい何周目だお前)。
くっ・・ご、五月までには完結を・・・(えええー)
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