螺旋の黄龍騒動記・12。
2008年2月18日 螺旋の黄龍騒動記(完結) ネタバレその他色々ご注意(安全の為どうぞ一回は必ず目を通してください)。
●これは「L the proLogue to DEATH NOTE ~螺旋の罠」の名前自由入力主人公(新米FBI捜査官)が「東京魔人学園剣風帖」のデフォルト主人公緋勇龍麻だったら、という妄想超特急クロスオーバーな二次創作モドキです。
しかも元のゲームが推理ものなので、話が進むごとに全力でネタバレします。
●加えてこの緋勇さん、先日「九龍妖魔学園紀」の2周目オマケモード「黄龍妖魔学園紀」をクリア済です。
●故に時間軸は2005年9月のお話です。(※ゲームと同じくデスノート本編開始前の設定)
●世界観はデスノの方ではなく、魔人+九龍がメインですので、この世界の《L》は「魔人世界に存在するパラレル《L》」です。故にここはそもそもこの先デスノート事件そのものが起こらないor起こっても即日新宿の魔女が死神を使い魔にしちゃったり《M+M》が計算通りにならないキラさんへ鎮魂歌を聴かせに来たりしちゃう世界です。
●そんなパラレル有りえないでしょ馬鹿じゃない?と思われる方は、どうかここまでの全てをなかったことにしてリターンをお願いします。
●コラボネタって楽しいよねとか寧ろ名前入力できるゲームには「緋勇龍麻」と入力するのが私のデフォルトですが何か?という方に少しでも楽しんで頂ければ幸せのあまりジハードも撃てそうな気がします。
最後に・・『こんな二次創作に立ち向かう覚悟はありますか?』
<はい(の人は下へスクロールを)
<いいえ(の人はどうぞこのままリターンをお願いします)
では、ゲーム再開です↓
※※※※※※※
何が起こったのだろうか。
呆然とした私の手から、玩んでいたスプーンが滑り落ちたようだ。高い金属音に聴覚を掻き乱され、同時にはっと我に返る。そうだ、呆けている場合ではない。
(素手で、壁を砕いた?)
モニターを覗き込み、再度その情報を確認する。間違いなく6階の廊下に設置されていた【壁】は理想的と言えるほど周囲には何の影響も与えず、しかしそれ自体は完璧に破壊されている。そしてその残骸の前に何事も無かったかのように立っている緋勇さんはまさに【徒手空拳】であった。驚いたことに、布で拳を覆うことすらしていない。普通ならば壁が砕ける以前に拳の骨が砕けるだろう。
(と言うことは、です)
これがFBIの仕掛けた壮大なドッキリか、はたまた敵側がこの仕掛けを見破られるはずは無いと工事費をケチったか、そんな笑えない冗談でもない限り、現実は一つしかない。
(緋勇さんは、私の予想を遥かに超える身体能力の持ち主だった・・・そういうことですか)
改めて言葉にしてみると、実に答えはシンプルだった。なんのことはない、私は今まで緋勇さんの優れた能力を幾つも目の当たりにしながら、その実彼のポテンシャルに勝手な限界値を設けていたのだ。
【ヒト】という生物の【例外】――――時として【天才】という賞賛の檻に隔離される【種】のことを、私は誰よりも知っているはずであったのに。
[うわぁぁぁぁぁ!!]
「!!」
落ち着きを取り戻した私が何か言葉を発するより早く、通信端末から男の叫び声が響き渡った。
(ハウスキーパー・・!)
紛れも無く恐怖の色を帯びたその声に、私の方が身構える。画面の向こうの緋勇さんは、寧ろきょとんとした表情だった。
[お前、一体何者だ!?]
初めて緋勇龍麻という個人に向けて犯人側から放たれた言葉は、誘拐犯と人質という関係からするとかなり奇妙なものに違いない。結局のところ、彼らは『FBIの捜査官』が必要だっただけなのだと改めて認識する。その肩書きを背負うが故に『偶然』選ばれたはずの人物は、ハウスキーパーの問いを受け、漸く得心がいったというような顔をした。
・・・おそらくは、緋勇さんにとって先ほどの【技】はその程度のものなのだろう。
それが【普通】の世界から逸脱する【力】だなどと、考えもつかなかったほどに。
だから、彼は答える言葉を少し考えた後、結局何も言わずにふっと苦笑を浮かべた。苦笑、と私が表現したものが、ハウスキーパーの目にはどう映ったか。
後に続く言葉には充分予想がついた。
[――――――――化け物]
希代の爆弾魔も大して特殊な語彙は持ち合わせていないものだ、と頭の隅で考える。
犯罪者というものを、ごく普通の倫理観の中で生きる人間は『己とは違う異常な生き物』とよく認識しているが、『ごく普通』という観点から言うのならば、彼らの方がそこに近いのかもしれない。
(少なくとも、【私】よりは)
皮肉でも自嘲でもなく、単に思考の一つとしてその言葉を流しながら、画面を見つめる。
では、緋勇龍麻。
(彼は、どちらなのだろう)
知りたいという思いが、何より私を黙らせた。
一瞬の沈黙が、機械によって繋がれた3つの場所を支配する。直後、その沈黙を打ち破ったのは・・・実に盛大なため息だった。
『呆れた。その【化け物】を誘拐してきたのは何処の誰だっけ?』
[!!]
「・・・・くっ・・」
言葉も無いハウスキーパーに、私の咽喉をこみ上げた笑いが低く震わす。
まったくもって、その通りだ。
辛うじて笑い出すのを堪えている私の前で、緋勇さんは優しげな風貌に似合わぬ毒舌をさらりと続けた。
『大体ビルだの橋だの吹っ飛ばしてる【爆弾魔】が、壁一枚抜かれたくらいで騒がないで欲しいんだけど。その程度の神経でよくこんな【ゲーム】やってられるよな。本当に本物の【ハウスキーパー】?』
[なっ、なんだと!?]
張り詰めた空気が一瞬で解け、入れ替わりに満ちるのはどこか超然として、それでいて妙にのん気な緋勇さんの気配。緊張の糸を弦楽器代わりに弾き、陽気なメロディを奏でてみせたかのような切り返しに、私はついに堪えきれず噴き出した。
[《L》・・・貴様!]
「どうやら緋勇さんの方が貴方より一枚も二枚も上手のようですね、ハウスキーパー。大体彼の言うとおり、【人質】を決めたのはそちらです。今更こちらの手札が《JOKER》だからといって配り直しは利きませんよ」
笑い混じりにそう告げると、再び絶句した気配の後に[し、勝負はこれからだ!覚えてろ《L》!緋勇!]というありきたりの捨て台詞を残し、ハウスキーパーからの回線が途絶えた。
それがあまりにお約束過ぎ、また笑えてしまう。しかし、考えてみれば私は今までこんなに笑う人間だっただろうか。そう思いながら、うっすら涙の浮いた目でモニターを見る。
「緋勇さん」
崩れた壁の前に立つ彼は、私の呼びかけに振り向くと、いたずらっ子のようにぺろっと舌を出して笑った。
『すみません《L》。ちょっとやらかしちゃいました』
その笑顔にほんの僅か苦味のようなものが混じっていると思うのは、私のらしからぬ感傷だろうか。
けれど、分かる。決して彼の中で今のやり取りは気楽なものではなかったのだろう、だが、既に彼は「そんなことは乗り越えて来た」のだ。こうして変わらず笑えるほどに、きっと幾度も。
「いいえ、実に爽快でした。にしても緋勇さん」
『え』
だから、私もこうして笑って言えるのだろう。
「こういう《必殺技》があるのなら、もっと早く教えて下さい。今のはなんという技ですか?」
一瞬だけ驚いたような表情の後、ひどく優しく笑った目を誤魔化すように緋勇さんはわざとらしくずるっとコケてみせた。
「ん?」
『あれ?』
その瞬間2人同時に瓦礫の中に小さな金属を見付け、疑問符が重なる。
「鍵、ですか。しかも随分と新しい・・」
緋勇さんの手に乗せられた親指ほどの大きさの鍵は、明らかに今までのものとは異なる最新型の電子キーだった。少なくとも、この客船内の施設に使われているものではなさそうだ。
「これが何の鍵なのかは分かりませんが・・今後重要な意味を持ってこないとも限りません。確保しておきましょう」
『はい、《L》』
素直にその鍵を仕舞い込む緋勇さんを見ていると、どこか不思議な感じがした。
壁を砕くような豪腕を持つ彼と、楽しそうに料理の話をする彼。
(きっと、どちらも緋勇龍麻・・・彼という存在を構築する不可欠の要素なのだろうが)
異端のようであり、しかし気が付けばどこにでも溶け込んでしまいそうでもある。
彼に向かい、ハウスキーパーは「何者だ」と問うた。それはおそらくずっと、私も知りたかったことだ。
(けれど、今はまだいい)
すっかり冷めてしまった紅茶で唇を湿らせて、いつの間にか座り込んでいた床から足の指先だけで跳ね上がる。
「・・やはりこの姿勢で無いと、頭の回転が鈍くなります」
マイクに拾われない程度の声で呟いて、自分の膝に上体を預けた。
(今は【その時ではない】。私にも彼にも、優先すべき事柄があるのだから)
ゆっくりと咽喉を通る甘さが、私を、《L》を完全に覚醒させる。そう、まだだ。奇しくもハウスキーパーの捨て台詞と重なるが、確かに「ここからが勝負」なのだから。
「では、行きましょうか緋勇さん。驚かせるつもりが先に驚いてしまったのでタイミングがずれてしまいましたが、次は私の番です」
『いや、俺は別に驚かせるつもりじゃなかったんですけど』
「ですが私はびっくりしました。なんと5分16秒間も糖分の摂取を忘れるほどでした。これは私としてはかなりの驚き指数です」
『って、5分くらい糖分取らないで済ませましょうよ。糖尿になりますよ!』
「ですので、同じくらい緋勇さんにも驚いていただかないと私の気が済みません。出来ればそれ以上に驚いていただけると大満足です」
『スルーした!っていうかなんですかその対抗心!そもそもさっきの説明だとどれくらい《L》が驚いたのか良く分からないんですけど俺!』
相変わらずの打てば響く小気味いい反応を返してくれつつ、緋勇さんの視点が壁のあった場所を通り抜けた。6階の【向こう側】に立った緋勇さんが、一拍置いた後に『ああ・・』と深く頷いたのを確認し、満足感と共に小粒のチョコレートを口に放り込む。
『そういう、ことか・・・』
そう、今、緋勇さんが立っているのは6階ではなく、【3階】だ。
地上のホテルと比べてしまえば、いくら豪華客船とはいえそのキャパシティはかなり劣ったものにならざるを得ない。その最たるものが【階層】だ。豪華な内装に比べ、妙に低い階層という矛盾に気付かれないように、彼らは壁でフロアを区切ることにより【階層を増やした】のだ。
『つまり、3階からエレベーターで4階へ向かった時の誤動作・・・あれは俺を【1階に戻すため】と【その事を気付かれないため】の無茶苦茶な動きだったわけですね』
今度こそ正しく『上』へと向かうために歩を進めながら、簡潔にこのトリックを確認し合う。
「ええ、1階から3階まではエレベーターを隠し、階段を使わせておいて、3階から4階と見せかけた1階のもう半分へと誘導されたのです。まったく、手の込んだ仕掛けを考えたものです」
『まったく・・・』
ため息を吐く緋勇さんの目が、端末越しに私へと向けられる。
予想通り、その目は私と同じ疑問を湛えていた。
【では、何のためにこんな手の込んだ仕掛けを作ったのか?】
ハウスキーパーには確かに《L》に対する復讐心があるのだろう。しかし【ハウスキーパーを雇ったクライアント】が存在し、そのクライアントには復讐以外の目的があることはもう分かっている。ここまで大掛かりで、《FBI》や《L》を巻き込む必要のある目的。それは、まさか・・・。
ポーン、とやけに明るいエレベーターの階層表示音が、思考する私の意識を半分引き戻す。ランプは最大の数字である6を越え、【R】を示していた。
「・・さて、ではもうお分かりかとは思いますが・・・これが【答え】の一つです、緋勇さん」
開いたエレベーターの扉の向こうに、光が漏れるもう一つの扉が見えた。迷わずそこへと歩み寄った緋勇さんの手が、勢い良く扉を開く。
そこには、ただ青が広がっていた。
『・・・・海・・・』
緋勇さんが、自分へと言い聞かせるようにその単語を口にした。
無意識だったのだろう、日本語で呟かれたそれはたった2つの音であるのに何故か遠く、私の耳にいつまでも響くように思えた。
「ええ、【海】です」
わざと同じ意味を持つ英語で繰り返した理由は、自分でも良く分からない。
はっとしたように再び端末を覗き込む緋勇さんに、私は今感じた違和感のことを意図的に脳内から消し去った。何日ぶりかの陽の光に眩しそうに目を細めた彼に、その些細な違和感が伝わっていなければいいと思いながら。
『見渡す限り、海ですね・・』
波を蹴立てて進む『元』豪華客船のデッキから乗り出すように海面を眺めていた緋勇さんが、分かってはいたけれど、というように肩をすくめる。
「クリエラ周辺の海域を航海中の大型船舶・・となれば衛星から位置を特定するのも比較的早いはずです。ただ、当然のことながら・・・」
『海で、他国の領域ですからね・・・』
「・・・と、いうことです」
つまりは、場所が特定できたからといって、そう簡単に救出に向かえる訳ではないと言う事だ。
無言のまま、こくりと頷いた緋勇さんが視線をタイムカウンターに向ける。
1:57。
表示された残り時間も、決して多いとは言えない。
(やはり、まだ・・か)
相手方の計画に沿わねばならないのは不本意だが、結局は全ての罠を解除するしか脱出の道は無いようだ。そのことを私が口にしようとした、その直前。
『・・・よぉっし!』
気合の篭った、その割りに不思議と陽気に聞こえる声が紺碧の空に吸い込まれる。見れば、モニターの向こうで強い日差しに照らし出された緋勇さんは、先程までの疲労をリセットでもしたかのように生き生きとした表情をしていた。ぐん、と伸び上がったかと思うと、軽々とした動作で2、3度屈伸し、またぴょいと飛び上がるようにして元の姿勢に戻る。
『では《L》、続きと参りましょうか』
私の口調を真似て端末を覗き込んだ緋勇さんに、苦笑しつつ私も返す。
「はい、緋勇さん。・・おそらく、このラウンジに仕掛けられた罠が最後の一つです。気を抜くわけには行きませんがラスボスは目の前、もう少しの間だけ頑張りましょう」
『勇者にしては、装備が貧弱ですけどね』
探索中に拾い集めたドライバーやハサミなどをがちゃがちゃ言わせて笑う。その瞳が変わらずあの深い光を湛えていることを確認し、再び私は自身の作業に意識を集中させた。
(残された罠はあと一つ。その予測はほぼ確実だろう。けれど無論、それを解除するだけではこの事件は終わらない・・・)
《J》ことジェフリー、そしてハウスキーパーの裏側に潜んだままの黒幕。その目的を探り出し、表舞台へ引きずり出すのが私の役目だ。
視線をモニターから外すことなく、伸ばした右手でティーカップを掴む。
いつの間にか適温のものと交換されていたそれに、手探りで摘んだ角砂糖を放り込めるだけ放り込み、溢れる寸前で手を止める。
(この勝負、負けるわけにはいきません・・・何一つとして、です)
ざり、と本来有り得ない音をたてる紅茶は私の無体な所業にも拘らず、芳しい香りを振りまいていた。
自然光が届くために先ほどまでとは格段に違う視界の中、再び地道な作業に復帰した緋勇さんが無力化した罠を机の上に置く。
「完璧です」
その手際を賞賛しつつ、私はふと思い出したことを口にしてみた。
「ところで緋勇さん」
『はい、なんでしょう?』
「そういえば例の【必殺技】の名前をまだ聞いていませんでした。・・・そこでコケないで下さい。私としては知的好奇心をかなり揺さ振られる興味深い事柄です」
お約束のようにずるっと傾きかけた緋勇さんに先んじて念を押すと、長い前髪の下で黒い瞳が仕方ないなぁと言うように苦笑いした。
『あれは、《掌打》です』
「《掌打》?」
『ええ、その名の通り【掌】での【打撃】ですよ。ただ、充分に練った《氣》を纏わせていたので、単なる打撃以上の破壊力になりましたが』
にこやかに答える緋勇さんの口調から嘘は感じられない。知識として《氣》という概念の存在は知っていたが、あれがそうなのかと素直に驚いた。
「ではあれは、緋勇さんの学んだ武術ではかなり基本的な技ということですか・・・」
今まで好奇心からいくつかの武術を齧り、カポエイラを習得した身ではあるが、世の中にはまだまだ私の予想も及ばぬ領域があるものだ。いや、『極める』というのはどの道でもこういうことなのかもしれない。
感心する私に向かい、画面に映る緋勇さんはそのにこやかな笑顔を少しだけいたずらっぽく変えて、こう言った。
『《L》、必殺技っていうのはもっと《必殺》って時に使うものですよ』
・・・私が、生まれて始めてと断言しても良いほど思いっきり目を見開いたのは言うまでも無い。
END
※※※※※
やっとラウンジまで来たー!・・・のですがまだ終わりませんorz
3月に螺旋本3巻出したかったけどこっちが終わらないとそうもいかなそうです。お、おかしいなー書き始めたときにはこんなに長くなると思ってなかったのに・・!(滝汗)
●これは「L the proLogue to DEATH NOTE ~螺旋の罠」の名前自由入力主人公(新米FBI捜査官)が「東京魔人学園剣風帖」のデフォルト主人公緋勇龍麻だったら、という妄想超特急クロスオーバーな二次創作モドキです。
しかも元のゲームが推理ものなので、話が進むごとに全力でネタバレします。
●加えてこの緋勇さん、先日「九龍妖魔学園紀」の2周目オマケモード「黄龍妖魔学園紀」をクリア済です。
●故に時間軸は2005年9月のお話です。(※ゲームと同じくデスノート本編開始前の設定)
●世界観はデスノの方ではなく、魔人+九龍がメインですので、この世界の《L》は「魔人世界に存在するパラレル《L》」です。故にここはそもそもこの先デスノート事件そのものが起こらないor起こっても即日新宿の魔女が死神を使い魔にしちゃったり《M+M》が計算通りにならないキラさんへ鎮魂歌を聴かせに来たりしちゃう世界です。
●そんなパラレル有りえないでしょ馬鹿じゃない?と思われる方は、どうかここまでの全てをなかったことにしてリターンをお願いします。
●コラボネタって楽しいよねとか寧ろ名前入力できるゲームには「緋勇龍麻」と入力するのが私のデフォルトですが何か?という方に少しでも楽しんで頂ければ幸せのあまりジハードも撃てそうな気がします。
最後に・・『こんな二次創作に立ち向かう覚悟はありますか?』
<はい(の人は下へスクロールを)
<いいえ(の人はどうぞこのままリターンをお願いします)
では、ゲーム再開です↓
※※※※※※※
何が起こったのだろうか。
呆然とした私の手から、玩んでいたスプーンが滑り落ちたようだ。高い金属音に聴覚を掻き乱され、同時にはっと我に返る。そうだ、呆けている場合ではない。
(素手で、壁を砕いた?)
モニターを覗き込み、再度その情報を確認する。間違いなく6階の廊下に設置されていた【壁】は理想的と言えるほど周囲には何の影響も与えず、しかしそれ自体は完璧に破壊されている。そしてその残骸の前に何事も無かったかのように立っている緋勇さんはまさに【徒手空拳】であった。驚いたことに、布で拳を覆うことすらしていない。普通ならば壁が砕ける以前に拳の骨が砕けるだろう。
(と言うことは、です)
これがFBIの仕掛けた壮大なドッキリか、はたまた敵側がこの仕掛けを見破られるはずは無いと工事費をケチったか、そんな笑えない冗談でもない限り、現実は一つしかない。
(緋勇さんは、私の予想を遥かに超える身体能力の持ち主だった・・・そういうことですか)
改めて言葉にしてみると、実に答えはシンプルだった。なんのことはない、私は今まで緋勇さんの優れた能力を幾つも目の当たりにしながら、その実彼のポテンシャルに勝手な限界値を設けていたのだ。
【ヒト】という生物の【例外】――――時として【天才】という賞賛の檻に隔離される【種】のことを、私は誰よりも知っているはずであったのに。
[うわぁぁぁぁぁ!!]
「!!」
落ち着きを取り戻した私が何か言葉を発するより早く、通信端末から男の叫び声が響き渡った。
(ハウスキーパー・・!)
紛れも無く恐怖の色を帯びたその声に、私の方が身構える。画面の向こうの緋勇さんは、寧ろきょとんとした表情だった。
[お前、一体何者だ!?]
初めて緋勇龍麻という個人に向けて犯人側から放たれた言葉は、誘拐犯と人質という関係からするとかなり奇妙なものに違いない。結局のところ、彼らは『FBIの捜査官』が必要だっただけなのだと改めて認識する。その肩書きを背負うが故に『偶然』選ばれたはずの人物は、ハウスキーパーの問いを受け、漸く得心がいったというような顔をした。
・・・おそらくは、緋勇さんにとって先ほどの【技】はその程度のものなのだろう。
それが【普通】の世界から逸脱する【力】だなどと、考えもつかなかったほどに。
だから、彼は答える言葉を少し考えた後、結局何も言わずにふっと苦笑を浮かべた。苦笑、と私が表現したものが、ハウスキーパーの目にはどう映ったか。
後に続く言葉には充分予想がついた。
[――――――――化け物]
希代の爆弾魔も大して特殊な語彙は持ち合わせていないものだ、と頭の隅で考える。
犯罪者というものを、ごく普通の倫理観の中で生きる人間は『己とは違う異常な生き物』とよく認識しているが、『ごく普通』という観点から言うのならば、彼らの方がそこに近いのかもしれない。
(少なくとも、【私】よりは)
皮肉でも自嘲でもなく、単に思考の一つとしてその言葉を流しながら、画面を見つめる。
では、緋勇龍麻。
(彼は、どちらなのだろう)
知りたいという思いが、何より私を黙らせた。
一瞬の沈黙が、機械によって繋がれた3つの場所を支配する。直後、その沈黙を打ち破ったのは・・・実に盛大なため息だった。
『呆れた。その【化け物】を誘拐してきたのは何処の誰だっけ?』
[!!]
「・・・・くっ・・」
言葉も無いハウスキーパーに、私の咽喉をこみ上げた笑いが低く震わす。
まったくもって、その通りだ。
辛うじて笑い出すのを堪えている私の前で、緋勇さんは優しげな風貌に似合わぬ毒舌をさらりと続けた。
『大体ビルだの橋だの吹っ飛ばしてる【爆弾魔】が、壁一枚抜かれたくらいで騒がないで欲しいんだけど。その程度の神経でよくこんな【ゲーム】やってられるよな。本当に本物の【ハウスキーパー】?』
[なっ、なんだと!?]
張り詰めた空気が一瞬で解け、入れ替わりに満ちるのはどこか超然として、それでいて妙にのん気な緋勇さんの気配。緊張の糸を弦楽器代わりに弾き、陽気なメロディを奏でてみせたかのような切り返しに、私はついに堪えきれず噴き出した。
[《L》・・・貴様!]
「どうやら緋勇さんの方が貴方より一枚も二枚も上手のようですね、ハウスキーパー。大体彼の言うとおり、【人質】を決めたのはそちらです。今更こちらの手札が《JOKER》だからといって配り直しは利きませんよ」
笑い混じりにそう告げると、再び絶句した気配の後に[し、勝負はこれからだ!覚えてろ《L》!緋勇!]というありきたりの捨て台詞を残し、ハウスキーパーからの回線が途絶えた。
それがあまりにお約束過ぎ、また笑えてしまう。しかし、考えてみれば私は今までこんなに笑う人間だっただろうか。そう思いながら、うっすら涙の浮いた目でモニターを見る。
「緋勇さん」
崩れた壁の前に立つ彼は、私の呼びかけに振り向くと、いたずらっ子のようにぺろっと舌を出して笑った。
『すみません《L》。ちょっとやらかしちゃいました』
その笑顔にほんの僅か苦味のようなものが混じっていると思うのは、私のらしからぬ感傷だろうか。
けれど、分かる。決して彼の中で今のやり取りは気楽なものではなかったのだろう、だが、既に彼は「そんなことは乗り越えて来た」のだ。こうして変わらず笑えるほどに、きっと幾度も。
「いいえ、実に爽快でした。にしても緋勇さん」
『え』
だから、私もこうして笑って言えるのだろう。
「こういう《必殺技》があるのなら、もっと早く教えて下さい。今のはなんという技ですか?」
一瞬だけ驚いたような表情の後、ひどく優しく笑った目を誤魔化すように緋勇さんはわざとらしくずるっとコケてみせた。
「ん?」
『あれ?』
その瞬間2人同時に瓦礫の中に小さな金属を見付け、疑問符が重なる。
「鍵、ですか。しかも随分と新しい・・」
緋勇さんの手に乗せられた親指ほどの大きさの鍵は、明らかに今までのものとは異なる最新型の電子キーだった。少なくとも、この客船内の施設に使われているものではなさそうだ。
「これが何の鍵なのかは分かりませんが・・今後重要な意味を持ってこないとも限りません。確保しておきましょう」
『はい、《L》』
素直にその鍵を仕舞い込む緋勇さんを見ていると、どこか不思議な感じがした。
壁を砕くような豪腕を持つ彼と、楽しそうに料理の話をする彼。
(きっと、どちらも緋勇龍麻・・・彼という存在を構築する不可欠の要素なのだろうが)
異端のようであり、しかし気が付けばどこにでも溶け込んでしまいそうでもある。
彼に向かい、ハウスキーパーは「何者だ」と問うた。それはおそらくずっと、私も知りたかったことだ。
(けれど、今はまだいい)
すっかり冷めてしまった紅茶で唇を湿らせて、いつの間にか座り込んでいた床から足の指先だけで跳ね上がる。
「・・やはりこの姿勢で無いと、頭の回転が鈍くなります」
マイクに拾われない程度の声で呟いて、自分の膝に上体を預けた。
(今は【その時ではない】。私にも彼にも、優先すべき事柄があるのだから)
ゆっくりと咽喉を通る甘さが、私を、《L》を完全に覚醒させる。そう、まだだ。奇しくもハウスキーパーの捨て台詞と重なるが、確かに「ここからが勝負」なのだから。
「では、行きましょうか緋勇さん。驚かせるつもりが先に驚いてしまったのでタイミングがずれてしまいましたが、次は私の番です」
『いや、俺は別に驚かせるつもりじゃなかったんですけど』
「ですが私はびっくりしました。なんと5分16秒間も糖分の摂取を忘れるほどでした。これは私としてはかなりの驚き指数です」
『って、5分くらい糖分取らないで済ませましょうよ。糖尿になりますよ!』
「ですので、同じくらい緋勇さんにも驚いていただかないと私の気が済みません。出来ればそれ以上に驚いていただけると大満足です」
『スルーした!っていうかなんですかその対抗心!そもそもさっきの説明だとどれくらい《L》が驚いたのか良く分からないんですけど俺!』
相変わらずの打てば響く小気味いい反応を返してくれつつ、緋勇さんの視点が壁のあった場所を通り抜けた。6階の【向こう側】に立った緋勇さんが、一拍置いた後に『ああ・・』と深く頷いたのを確認し、満足感と共に小粒のチョコレートを口に放り込む。
『そういう、ことか・・・』
そう、今、緋勇さんが立っているのは6階ではなく、【3階】だ。
地上のホテルと比べてしまえば、いくら豪華客船とはいえそのキャパシティはかなり劣ったものにならざるを得ない。その最たるものが【階層】だ。豪華な内装に比べ、妙に低い階層という矛盾に気付かれないように、彼らは壁でフロアを区切ることにより【階層を増やした】のだ。
『つまり、3階からエレベーターで4階へ向かった時の誤動作・・・あれは俺を【1階に戻すため】と【その事を気付かれないため】の無茶苦茶な動きだったわけですね』
今度こそ正しく『上』へと向かうために歩を進めながら、簡潔にこのトリックを確認し合う。
「ええ、1階から3階まではエレベーターを隠し、階段を使わせておいて、3階から4階と見せかけた1階のもう半分へと誘導されたのです。まったく、手の込んだ仕掛けを考えたものです」
『まったく・・・』
ため息を吐く緋勇さんの目が、端末越しに私へと向けられる。
予想通り、その目は私と同じ疑問を湛えていた。
【では、何のためにこんな手の込んだ仕掛けを作ったのか?】
ハウスキーパーには確かに《L》に対する復讐心があるのだろう。しかし【ハウスキーパーを雇ったクライアント】が存在し、そのクライアントには復讐以外の目的があることはもう分かっている。ここまで大掛かりで、《FBI》や《L》を巻き込む必要のある目的。それは、まさか・・・。
ポーン、とやけに明るいエレベーターの階層表示音が、思考する私の意識を半分引き戻す。ランプは最大の数字である6を越え、【R】を示していた。
「・・さて、ではもうお分かりかとは思いますが・・・これが【答え】の一つです、緋勇さん」
開いたエレベーターの扉の向こうに、光が漏れるもう一つの扉が見えた。迷わずそこへと歩み寄った緋勇さんの手が、勢い良く扉を開く。
そこには、ただ青が広がっていた。
『・・・・海・・・』
緋勇さんが、自分へと言い聞かせるようにその単語を口にした。
無意識だったのだろう、日本語で呟かれたそれはたった2つの音であるのに何故か遠く、私の耳にいつまでも響くように思えた。
「ええ、【海】です」
わざと同じ意味を持つ英語で繰り返した理由は、自分でも良く分からない。
はっとしたように再び端末を覗き込む緋勇さんに、私は今感じた違和感のことを意図的に脳内から消し去った。何日ぶりかの陽の光に眩しそうに目を細めた彼に、その些細な違和感が伝わっていなければいいと思いながら。
『見渡す限り、海ですね・・』
波を蹴立てて進む『元』豪華客船のデッキから乗り出すように海面を眺めていた緋勇さんが、分かってはいたけれど、というように肩をすくめる。
「クリエラ周辺の海域を航海中の大型船舶・・となれば衛星から位置を特定するのも比較的早いはずです。ただ、当然のことながら・・・」
『海で、他国の領域ですからね・・・』
「・・・と、いうことです」
つまりは、場所が特定できたからといって、そう簡単に救出に向かえる訳ではないと言う事だ。
無言のまま、こくりと頷いた緋勇さんが視線をタイムカウンターに向ける。
1:57。
表示された残り時間も、決して多いとは言えない。
(やはり、まだ・・か)
相手方の計画に沿わねばならないのは不本意だが、結局は全ての罠を解除するしか脱出の道は無いようだ。そのことを私が口にしようとした、その直前。
『・・・よぉっし!』
気合の篭った、その割りに不思議と陽気に聞こえる声が紺碧の空に吸い込まれる。見れば、モニターの向こうで強い日差しに照らし出された緋勇さんは、先程までの疲労をリセットでもしたかのように生き生きとした表情をしていた。ぐん、と伸び上がったかと思うと、軽々とした動作で2、3度屈伸し、またぴょいと飛び上がるようにして元の姿勢に戻る。
『では《L》、続きと参りましょうか』
私の口調を真似て端末を覗き込んだ緋勇さんに、苦笑しつつ私も返す。
「はい、緋勇さん。・・おそらく、このラウンジに仕掛けられた罠が最後の一つです。気を抜くわけには行きませんがラスボスは目の前、もう少しの間だけ頑張りましょう」
『勇者にしては、装備が貧弱ですけどね』
探索中に拾い集めたドライバーやハサミなどをがちゃがちゃ言わせて笑う。その瞳が変わらずあの深い光を湛えていることを確認し、再び私は自身の作業に意識を集中させた。
(残された罠はあと一つ。その予測はほぼ確実だろう。けれど無論、それを解除するだけではこの事件は終わらない・・・)
《J》ことジェフリー、そしてハウスキーパーの裏側に潜んだままの黒幕。その目的を探り出し、表舞台へ引きずり出すのが私の役目だ。
視線をモニターから外すことなく、伸ばした右手でティーカップを掴む。
いつの間にか適温のものと交換されていたそれに、手探りで摘んだ角砂糖を放り込めるだけ放り込み、溢れる寸前で手を止める。
(この勝負、負けるわけにはいきません・・・何一つとして、です)
ざり、と本来有り得ない音をたてる紅茶は私の無体な所業にも拘らず、芳しい香りを振りまいていた。
自然光が届くために先ほどまでとは格段に違う視界の中、再び地道な作業に復帰した緋勇さんが無力化した罠を机の上に置く。
「完璧です」
その手際を賞賛しつつ、私はふと思い出したことを口にしてみた。
「ところで緋勇さん」
『はい、なんでしょう?』
「そういえば例の【必殺技】の名前をまだ聞いていませんでした。・・・そこでコケないで下さい。私としては知的好奇心をかなり揺さ振られる興味深い事柄です」
お約束のようにずるっと傾きかけた緋勇さんに先んじて念を押すと、長い前髪の下で黒い瞳が仕方ないなぁと言うように苦笑いした。
『あれは、《掌打》です』
「《掌打》?」
『ええ、その名の通り【掌】での【打撃】ですよ。ただ、充分に練った《氣》を纏わせていたので、単なる打撃以上の破壊力になりましたが』
にこやかに答える緋勇さんの口調から嘘は感じられない。知識として《氣》という概念の存在は知っていたが、あれがそうなのかと素直に驚いた。
「ではあれは、緋勇さんの学んだ武術ではかなり基本的な技ということですか・・・」
今まで好奇心からいくつかの武術を齧り、カポエイラを習得した身ではあるが、世の中にはまだまだ私の予想も及ばぬ領域があるものだ。いや、『極める』というのはどの道でもこういうことなのかもしれない。
感心する私に向かい、画面に映る緋勇さんはそのにこやかな笑顔を少しだけいたずらっぽく変えて、こう言った。
『《L》、必殺技っていうのはもっと《必殺》って時に使うものですよ』
・・・私が、生まれて始めてと断言しても良いほど思いっきり目を見開いたのは言うまでも無い。
END
※※※※※
やっとラウンジまで来たー!・・・のですがまだ終わりませんorz
3月に螺旋本3巻出したかったけどこっちが終わらないとそうもいかなそうです。お、おかしいなー書き始めたときにはこんなに長くなると思ってなかったのに・・!(滝汗)
コメント