螺旋の黄龍騒動記・11。
2008年2月17日 螺旋の黄龍騒動記(完結) ネタバレその他色々ご注意(安全の為どうぞ一回は必ず目を通してください)。
●これは「L the proLogue to DEATH NOTE ~螺旋の罠」の名前自由入力主人公(新米FBI捜査官)が「東京魔人学園剣風帖」のデフォルト主人公緋勇龍麻だったら、というドッキンばくばく妄想炸裂クロスオーバー二次創作モドキです。
しかも元のゲームが推理ものなので、話が進むごとにバリバリネタバレします。
●加えてこの緋勇さん、先日「九龍妖魔学園紀」の2周目オマケモード「黄龍妖魔学園紀」をクリア済です。
●故に時間軸は2005年9月のお話です。(※ゲームと同じくデスノート本編開始前の設定)
●世界観はデスノの方ではなく、魔人+九龍がメインですので、この世界の《L》は「魔人世界に存在するパラレル《L》」です。故にここはそもそもこの先デスノート事件そのものが起こらないor起こっても大した被害になる前に死神ごと狩っちゃうような《力》持つ者が何人も存在する世界です。
●そんなパラレル最悪!思われる方は、どうかここまでの全てを消去!の上リターンをお願いします。
●クロスオーバーって面白!とか寧ろ名前入力できるゲームには「緋勇龍麻」と入力するのが私のデフォルトですが何か?という方に少しでも楽しんで頂ければ嬉しくて旧校舎に突撃します。
最後に・・『こんな二次創作に立ち向かう覚悟はありますか?』
<はい(の人は下へスクロールを)
<いいえ(の人はこのままリターンをお願いします)
では、ゲーム再開です↓
※※※※※※※
『お待たせしました、緋勇さん』
そう言ってあっさりと戻ってきた《L》は、どうやら【ティータイム】を存分に満喫してきたらしい。
はっきりとした事はまだ教えてくれなかったけれども、一番効果的な場面でそれを利用するつもりなんだろう。
『次のトラップを解除する頃には、とっておきの種明かしをご披露しますよ』
相変わらずの機械音声に子供のような茶目っ気を含ませた言葉からして、《L》はひどくご機嫌のようだ。
ということは、その『種明かし』には相当な威力があると見ていい。
(じゃあ、俺の役目はその場面まで問題なく事態を進めるってことか)
それを考えると、当事者だというのに俺も何だかちょっとワクワクしてしまう。
(いけないいけない、気を引き締めないと)
俺は先程手に入れたばかりの用途不明なメダルをひっくり返して調べながら、笑ってしまいそうになる口元を無理矢理引き結んだ。
微かな唸りを上げていた中央部が、やがて絞り込むようにその音を細くする。
(・・・ふう)
最後の部品が取り外され、6階のキートラップがついに沈黙した。
無意識に回数を減らしていた呼吸が、安堵のため息と共に通常へと戻る。
途中、電気が流れる仕掛けに引っ掛かって軽くダメージがきたけれど、幸い大きなミスには繋がらなかった。やれやれ、本当に良かった。今までの傾向を見るにキートラップの連動というのはハッタリである可能性が強くて、それなら一つ爆発させても多分俺の《氣》で防御することは出来る・・とは思うんだけど、まさか人ひとり吹っ飛ばす爆発の前で無傷の姿を見せるわけにもいかないものなぁ。
はぁ、《能力》を隠さなきゃいけないっていうのもなかなか辛い。
(ってぼんやりしてる場合じゃないな)
罠を解除した直後、焦ったように通信に割り込んできた【ハウスキーパー】と《L》の緊迫した会話は端末を通して続いている。
先程の地上では観測されなかった地震。そして、「狭い通路と低い天井」「廊下の端にある別の材質の壁」「3階毎に統一されたインテリア」「乾燥した気候にも拘らず腐食の進む室内」など、このホテルの特異な状態から導き出される【解答】。それを明らかにする為に《L》の反撃が始まったようだ。
『―――つまり、我々は最初から大きな勘違いをしていたということになります。これら全ての点を矛盾無く説明する為には、最も根本的な部分を訂正しなければならなかった。最大の間違いはここが【地上】ではないということです』
[・・・どういう、ことだ?ホテルが空を飛んでいるとでも?]
動揺の色を見せるハウスキーパーに、《L》が『いいえ』と短く答えた。
うー、はらはらするなぁ。
《L》のヒントで俺にもトリックの核心部分は大体分かっている・・のだけれども、明確にそれがどういう形に成立しているのか説明しろと言われたら難しいところだ。気になってしょうがない。蚊帳の外にいるうちにとこっそり抱え込んだ爆薬を氷結させるために《氣》を練りつつ、俺は端末から流れ出す会話の続きに真剣に耳を傾けた。
一呼吸の後、無機質な機械音の鎧を纏った《L》の言葉がついに謎の一つを解き明かす。
『ここはそもそも【ホテル】ではない。しかし私も緋勇さんも、最初の部屋を見た時にそう思い込んでしまった。無論それは意図的に行われた舞台設定のために、です。さて、では地上に存在せず、しかし豪奢な宿泊施設を持つ特殊な空間とは?乾燥したクリエラ地方で室内が錆びやカビに浸食される唯一の場所とは?・・・そう、緋勇さんが監禁されている場所は【客船】です』
[っ・・・・!!]
ハウスキーパーの声が叫びになりかけて消える。
(ああ・・!)
同時に俺も声にならない声をあげていた。
【客船】という単語に今までの疑問が一瞬で氷解して行く。地面の上ではない。そう聞かされた時にすぐさま『海』という答えには行き着いていたのだけれど、そもそもこの施設全体が常に『動いている』とまでは想像できなかった。それというのもあまりにも安定した足場ゆえだ。あのたった一度の大きな揺れがなかったら、違和感なんか抱かなかったに違いない。
『【グラナダ号】。廃船になったはずの豪華客船です。内装に使われているランプが最初の所有者であった【マーメイドグループ】の関連施設にのみ卸されている特殊なものであったため、このからくりにさえ気付けば特定は容易でした』
何も反論を思いつかないのだろう、急に静かになったハウスキーパーへ《L》の指摘が更に続く。
『狭い通路、低い天井は客船と考えれば当然の造りです。そしてもう一つ、この6階まですべての通路の端にあった材質の違う壁・・・それこそが、このトラップボックスのコアとも言うべきトリックなのです』
[う・・・っ]
ハウスキーパーが忌々しげに呻く。それは《L》の推理がすべて真実であることを肯定しているようなものだ。あまりの鮮やかさに、端末のこちら側は当事者にも関わらず、まるでドラマでも見ているような気分だ。
(今更だけど《L》が敵でなくて本当に良かった・・・)
思わずそんなことを考える。今までも「こいつが敵じゃなくて良かった!」って思う相手は何人もいたわけだけど、今回ほど真剣に考えたことはなかったかもしれない。なんといってもまず『力押し』が絶対通用しそうにないんだもんな、この人って。《力》だけあっても敵わないような・・・。
『緋勇さん』
「あ、はい!」
余計な事をつらつら考えていたら、いきなりこちらに話を振られて慌てた返事になってしまった。
画面の向こうから『聞いてましたか?』というプレッシャーを感じるのは、気のせいだといいなぁ・・・。
『改めて、緋勇さん』
繰り返されたので、気のせいじゃなかったらしい。こういうとこ、《L》ってちょっと御門に似てるような気がするなぁ・・・ってなんかこう、嫌な想像をしてしまった。・・・忘れよう。集中!
「はい、《L》」
『先ほど申し上げた種明かしの時間です。1階から常に廊下の端を塞いでいた【壁】、すべての謎を解く鍵となるあの邪魔者を取り払ってしまいましょう』
【壁】と言われ、脳裏にその映像が浮かんだ。本来の廊下の壁とは明らかに違う材質で、最奥にいつも設置されていた頑丈な壁。幾つかの階で軽く叩いて確かめてみたが、反響音からするに反対側には空間があるようでずっと《L》も俺も気になっていたんだっけ。
ん?でも、それを取り払う?
(って、どうするつもりなんだろう、《L》)
俺が聞き返そうとしたその時、端末の向こうから耳を疑うような言葉が聞こえてきた。
『では緋勇さん、先程解除したキートラップの爆薬部分を持って例の壁へ向かって下さい』
・・・。
・・・・・え?
『既に起爆部分は無力化されていますから滅多なことはないかと思いますが、油断は禁物です』
え?
思わず凍りつく俺の前で、《L》は流れるように話を進めていく。
『ハウスキーパー。貴方の仕掛けた爆薬を使わせて貰いますが、異論はありませんね?』
[くっ・・・勝手にしろ・・・!!]
ぶつんと乱暴に切れる回線の音を聞きながら、俺は動揺の余り思考が真っ白になる寸前だった。
いや、だって。
爆薬ってさっき俺が凍らせちゃったんだってばー!
不味い不味い本当に不味い。自分でやっといてなんだけど、そう簡単に溶けるもんじゃないんだって、これ!しかも溶けたところで、もう使い物にならないんだって!うわあ、やっちゃったー!!
『緋勇さん?さっきから様子が変ですが、もしや体調でも・・・?』
「いえッ!大丈夫です《L》!!」
『そ、そうですか?それならいいのですが・・』
反射的に「大丈夫」なんて言ったけど全然大丈夫じゃないだろう俺!
心配してくれる《L》に申し訳ないと思いつつも、気の利いた返事をする余裕はない。うわぁぁぁ、本当にどうしようー!!!
良い解決法も思いつけないまま、とりあえず爆薬を持って部屋を出る。が、勿論その中身は完全に凍っていて壁なんか壊せるはずもない。
慎重に持ち運びをしてる振りをして、その実少しでも時間を稼げるようにゆっくりとした動作で移動するけれど、元々大した距離じゃない1フロア内、あっという間に目の前には今の俺にとって鬼門とも言える【壁】がそびえ立っていた。
本当に、どうしよう。
ああもう、こんな時リカの【なんでも爆弾に変える】能力があったらなぁ!それか、九龍みたいにポケットにごろごろ爆弾が入っていれば、天香の遺蹟みたいに壁ぐらい簡単に・・・。
・・・・ん?
壁を、壊す?
『緋勇さん、それでは爆薬を壁の前にセットして下さい。起爆装置代わりになるように中の火薬を・・』
「・・・・《L》」
《L》の言葉を遮って、俺は端末を覗き込んだ。
『ど、どうしました、緋勇さん?』
思いっきり真顔な俺(多分相当目が据わってるはず)に、若干《L》が引いてるのが分かるけれど、今はそれどころじゃない。
要は壁だ。
言い換えれば、「たかが」壁だ。
確かに天香では九龍が【ガスHG】やらなんやらで爆破して通路を開けることが基本だったけれど、もう一度言おう、「たかが壁」だ。
「【壊せれば】いいんですよね、《L》」
『・・・はい?』
爆薬を使うのは、それが手っ取り早く破壊できる方法だからであって、「爆薬を使って壊さなければいけないから」じゃない。つまりはそういうことだ。
「あの壁を、【壊せば】いいんですよね?爆弾じゃなくても」
繰り返す。要するに、壊せばいいんだ。それならば。
『あ、はい、そうなんですが・・しかし壊すのに今の緋勇さんでは他に手段が』
「あります」
再び《L》の言葉を遮って、俺はもう一度画面をしっかりと覗き込んだ。
今度はほっとした気分も含めた、そりゃもうかんっぺきな笑顔で。
「爆薬より確実で、安全な方法があります。俺に任せて頂けますか?」
頂けなければ困る。
そんな笑顔に込めた強固な思いが伝わったのか、一瞬遅れて《L》から『わかりました、お任せします』との答えが返ってきた。
(よぉぉぉっし!!やった、乗り切ったー!!)
歓喜と安堵が一気に押し寄せて、心の中だけでガッツポーズを作る。いやもう本当に焦った。俺なりに考えて取った策だったけど、やっぱり素人が余計なことするものじゃないのかなぁ。
ま、それはとりあえずいいや。後で考えよう。ともかくも、今はこの壁を壊さなきゃ。
『一体どうやって・・・?』
「大丈夫です、見てて下さい」
端末が壊れないようにちょっと離れた位置に置き、壁へと向かう。
そういえば、もう7時間近く手元の作業ばっかりやってたんだよなぁ。
災い転じて福となす、とは言い過ぎだけど、軽くとはいえ久しぶりに身体が動かせるのは有り難い。
軽く壁に触れ、強度を確認してから幾度か拳を握って指先の感覚を確かめる。
「・・・よし!」
ひゅう、と息を吸い込んで、腰を低く落とす。壊すのはあくまでこの【壁】だけだ。周囲に影響を及ぼさないよう、破片を飛び散らせないよう、拳筋をイメージして《氣》を一気に高める。
行くぞッ!!
『ひっ、緋勇さん!?』
《L》が俺を呼ぶ声と、インパクトの瞬間はほぼ同時だった。
ドゥッ、という低音が響き渡り、《氣》をまとわせた俺の掌が触れた中央部分がそのまま吹き飛ぶ。
ゆっくり姿勢を戻した俺の目の前で、サッカーボールほどの大きさの穴が開いた部分から微細なヒビがさぁっと壁全面に広がり、そこだけが綺麗に砂のように崩れ落ちた。
よーし、コントロール完璧!
と、満足げにぱしっと拳を打ち鳴らした時、俺の後ろから[うわぁぁぁぁぁっ!?]という絶叫が聞こえてきた。
ん?今のは【ハウスキーパー】?
[なななな、なんだなんだ!?ひっ、緋勇!なんなんだお前はー!?]
・・え、なんだと言われても。
「古武術の《技》だけど」
あっさりと答えた俺に、ハウスキーパーがひきつった声で怒鳴る。
[武術!?そんなわけあるか!お前、ただのFBIじゃないのか!?何者だ!?]
いや、FBIの時点で結構「ただの」じゃない気はするんだけど。ってそんなことは置いといて、え、ここそんなに驚かれるところかなぁ。だって《氣》こそ十分練ったけど、龍脈の《力》は使ってないぞ俺。このぐらい、ちゃんと学んでれば《力》を持たない普通の人にだって辿り着ける境地だと思うんだけどな。
・・・・え、もしかして、不味かった?
『緋勇さん・・・・』
《L》の声が次の言葉を探すように俺の名前を呼んだ。
うーん、もしかすると俺・・・・・。
やらかしちゃった、のかなぁ・・・?
END
※※※※※※※※※※
年内間に合わなかったー!というわけで6階今更の更新です。
オフの本の方で先にばれネタ書いてしまったのが悔やまれる・・・。
正月休み中にあと一回更新は無理かなぁ・・・。
●これは「L the proLogue to DEATH NOTE ~螺旋の罠」の名前自由入力主人公(新米FBI捜査官)が「東京魔人学園剣風帖」のデフォルト主人公緋勇龍麻だったら、というドッキンばくばく妄想炸裂クロスオーバー二次創作モドキです。
しかも元のゲームが推理ものなので、話が進むごとにバリバリネタバレします。
●加えてこの緋勇さん、先日「九龍妖魔学園紀」の2周目オマケモード「黄龍妖魔学園紀」をクリア済です。
●故に時間軸は2005年9月のお話です。(※ゲームと同じくデスノート本編開始前の設定)
●世界観はデスノの方ではなく、魔人+九龍がメインですので、この世界の《L》は「魔人世界に存在するパラレル《L》」です。故にここはそもそもこの先デスノート事件そのものが起こらないor起こっても大した被害になる前に死神ごと狩っちゃうような《力》持つ者が何人も存在する世界です。
●そんなパラレル最悪!思われる方は、どうかここまでの全てを消去!の上リターンをお願いします。
●クロスオーバーって面白!とか寧ろ名前入力できるゲームには「緋勇龍麻」と入力するのが私のデフォルトですが何か?という方に少しでも楽しんで頂ければ嬉しくて旧校舎に突撃します。
最後に・・『こんな二次創作に立ち向かう覚悟はありますか?』
<はい(の人は下へスクロールを)
<いいえ(の人はこのままリターンをお願いします)
では、ゲーム再開です↓
※※※※※※※
『お待たせしました、緋勇さん』
そう言ってあっさりと戻ってきた《L》は、どうやら【ティータイム】を存分に満喫してきたらしい。
はっきりとした事はまだ教えてくれなかったけれども、一番効果的な場面でそれを利用するつもりなんだろう。
『次のトラップを解除する頃には、とっておきの種明かしをご披露しますよ』
相変わらずの機械音声に子供のような茶目っ気を含ませた言葉からして、《L》はひどくご機嫌のようだ。
ということは、その『種明かし』には相当な威力があると見ていい。
(じゃあ、俺の役目はその場面まで問題なく事態を進めるってことか)
それを考えると、当事者だというのに俺も何だかちょっとワクワクしてしまう。
(いけないいけない、気を引き締めないと)
俺は先程手に入れたばかりの用途不明なメダルをひっくり返して調べながら、笑ってしまいそうになる口元を無理矢理引き結んだ。
微かな唸りを上げていた中央部が、やがて絞り込むようにその音を細くする。
(・・・ふう)
最後の部品が取り外され、6階のキートラップがついに沈黙した。
無意識に回数を減らしていた呼吸が、安堵のため息と共に通常へと戻る。
途中、電気が流れる仕掛けに引っ掛かって軽くダメージがきたけれど、幸い大きなミスには繋がらなかった。やれやれ、本当に良かった。今までの傾向を見るにキートラップの連動というのはハッタリである可能性が強くて、それなら一つ爆発させても多分俺の《氣》で防御することは出来る・・とは思うんだけど、まさか人ひとり吹っ飛ばす爆発の前で無傷の姿を見せるわけにもいかないものなぁ。
はぁ、《能力》を隠さなきゃいけないっていうのもなかなか辛い。
(ってぼんやりしてる場合じゃないな)
罠を解除した直後、焦ったように通信に割り込んできた【ハウスキーパー】と《L》の緊迫した会話は端末を通して続いている。
先程の地上では観測されなかった地震。そして、「狭い通路と低い天井」「廊下の端にある別の材質の壁」「3階毎に統一されたインテリア」「乾燥した気候にも拘らず腐食の進む室内」など、このホテルの特異な状態から導き出される【解答】。それを明らかにする為に《L》の反撃が始まったようだ。
『―――つまり、我々は最初から大きな勘違いをしていたということになります。これら全ての点を矛盾無く説明する為には、最も根本的な部分を訂正しなければならなかった。最大の間違いはここが【地上】ではないということです』
[・・・どういう、ことだ?ホテルが空を飛んでいるとでも?]
動揺の色を見せるハウスキーパーに、《L》が『いいえ』と短く答えた。
うー、はらはらするなぁ。
《L》のヒントで俺にもトリックの核心部分は大体分かっている・・のだけれども、明確にそれがどういう形に成立しているのか説明しろと言われたら難しいところだ。気になってしょうがない。蚊帳の外にいるうちにとこっそり抱え込んだ爆薬を氷結させるために《氣》を練りつつ、俺は端末から流れ出す会話の続きに真剣に耳を傾けた。
一呼吸の後、無機質な機械音の鎧を纏った《L》の言葉がついに謎の一つを解き明かす。
『ここはそもそも【ホテル】ではない。しかし私も緋勇さんも、最初の部屋を見た時にそう思い込んでしまった。無論それは意図的に行われた舞台設定のために、です。さて、では地上に存在せず、しかし豪奢な宿泊施設を持つ特殊な空間とは?乾燥したクリエラ地方で室内が錆びやカビに浸食される唯一の場所とは?・・・そう、緋勇さんが監禁されている場所は【客船】です』
[っ・・・・!!]
ハウスキーパーの声が叫びになりかけて消える。
(ああ・・!)
同時に俺も声にならない声をあげていた。
【客船】という単語に今までの疑問が一瞬で氷解して行く。地面の上ではない。そう聞かされた時にすぐさま『海』という答えには行き着いていたのだけれど、そもそもこの施設全体が常に『動いている』とまでは想像できなかった。それというのもあまりにも安定した足場ゆえだ。あのたった一度の大きな揺れがなかったら、違和感なんか抱かなかったに違いない。
『【グラナダ号】。廃船になったはずの豪華客船です。内装に使われているランプが最初の所有者であった【マーメイドグループ】の関連施設にのみ卸されている特殊なものであったため、このからくりにさえ気付けば特定は容易でした』
何も反論を思いつかないのだろう、急に静かになったハウスキーパーへ《L》の指摘が更に続く。
『狭い通路、低い天井は客船と考えれば当然の造りです。そしてもう一つ、この6階まですべての通路の端にあった材質の違う壁・・・それこそが、このトラップボックスのコアとも言うべきトリックなのです』
[う・・・っ]
ハウスキーパーが忌々しげに呻く。それは《L》の推理がすべて真実であることを肯定しているようなものだ。あまりの鮮やかさに、端末のこちら側は当事者にも関わらず、まるでドラマでも見ているような気分だ。
(今更だけど《L》が敵でなくて本当に良かった・・・)
思わずそんなことを考える。今までも「こいつが敵じゃなくて良かった!」って思う相手は何人もいたわけだけど、今回ほど真剣に考えたことはなかったかもしれない。なんといってもまず『力押し』が絶対通用しそうにないんだもんな、この人って。《力》だけあっても敵わないような・・・。
『緋勇さん』
「あ、はい!」
余計な事をつらつら考えていたら、いきなりこちらに話を振られて慌てた返事になってしまった。
画面の向こうから『聞いてましたか?』というプレッシャーを感じるのは、気のせいだといいなぁ・・・。
『改めて、緋勇さん』
繰り返されたので、気のせいじゃなかったらしい。こういうとこ、《L》ってちょっと御門に似てるような気がするなぁ・・・ってなんかこう、嫌な想像をしてしまった。・・・忘れよう。集中!
「はい、《L》」
『先ほど申し上げた種明かしの時間です。1階から常に廊下の端を塞いでいた【壁】、すべての謎を解く鍵となるあの邪魔者を取り払ってしまいましょう』
【壁】と言われ、脳裏にその映像が浮かんだ。本来の廊下の壁とは明らかに違う材質で、最奥にいつも設置されていた頑丈な壁。幾つかの階で軽く叩いて確かめてみたが、反響音からするに反対側には空間があるようでずっと《L》も俺も気になっていたんだっけ。
ん?でも、それを取り払う?
(って、どうするつもりなんだろう、《L》)
俺が聞き返そうとしたその時、端末の向こうから耳を疑うような言葉が聞こえてきた。
『では緋勇さん、先程解除したキートラップの爆薬部分を持って例の壁へ向かって下さい』
・・・。
・・・・・え?
『既に起爆部分は無力化されていますから滅多なことはないかと思いますが、油断は禁物です』
え?
思わず凍りつく俺の前で、《L》は流れるように話を進めていく。
『ハウスキーパー。貴方の仕掛けた爆薬を使わせて貰いますが、異論はありませんね?』
[くっ・・・勝手にしろ・・・!!]
ぶつんと乱暴に切れる回線の音を聞きながら、俺は動揺の余り思考が真っ白になる寸前だった。
いや、だって。
爆薬ってさっき俺が凍らせちゃったんだってばー!
不味い不味い本当に不味い。自分でやっといてなんだけど、そう簡単に溶けるもんじゃないんだって、これ!しかも溶けたところで、もう使い物にならないんだって!うわあ、やっちゃったー!!
『緋勇さん?さっきから様子が変ですが、もしや体調でも・・・?』
「いえッ!大丈夫です《L》!!」
『そ、そうですか?それならいいのですが・・』
反射的に「大丈夫」なんて言ったけど全然大丈夫じゃないだろう俺!
心配してくれる《L》に申し訳ないと思いつつも、気の利いた返事をする余裕はない。うわぁぁぁ、本当にどうしようー!!!
良い解決法も思いつけないまま、とりあえず爆薬を持って部屋を出る。が、勿論その中身は完全に凍っていて壁なんか壊せるはずもない。
慎重に持ち運びをしてる振りをして、その実少しでも時間を稼げるようにゆっくりとした動作で移動するけれど、元々大した距離じゃない1フロア内、あっという間に目の前には今の俺にとって鬼門とも言える【壁】がそびえ立っていた。
本当に、どうしよう。
ああもう、こんな時リカの【なんでも爆弾に変える】能力があったらなぁ!それか、九龍みたいにポケットにごろごろ爆弾が入っていれば、天香の遺蹟みたいに壁ぐらい簡単に・・・。
・・・・ん?
壁を、壊す?
『緋勇さん、それでは爆薬を壁の前にセットして下さい。起爆装置代わりになるように中の火薬を・・』
「・・・・《L》」
《L》の言葉を遮って、俺は端末を覗き込んだ。
『ど、どうしました、緋勇さん?』
思いっきり真顔な俺(多分相当目が据わってるはず)に、若干《L》が引いてるのが分かるけれど、今はそれどころじゃない。
要は壁だ。
言い換えれば、「たかが」壁だ。
確かに天香では九龍が【ガスHG】やらなんやらで爆破して通路を開けることが基本だったけれど、もう一度言おう、「たかが壁」だ。
「【壊せれば】いいんですよね、《L》」
『・・・はい?』
爆薬を使うのは、それが手っ取り早く破壊できる方法だからであって、「爆薬を使って壊さなければいけないから」じゃない。つまりはそういうことだ。
「あの壁を、【壊せば】いいんですよね?爆弾じゃなくても」
繰り返す。要するに、壊せばいいんだ。それならば。
『あ、はい、そうなんですが・・しかし壊すのに今の緋勇さんでは他に手段が』
「あります」
再び《L》の言葉を遮って、俺はもう一度画面をしっかりと覗き込んだ。
今度はほっとした気分も含めた、そりゃもうかんっぺきな笑顔で。
「爆薬より確実で、安全な方法があります。俺に任せて頂けますか?」
頂けなければ困る。
そんな笑顔に込めた強固な思いが伝わったのか、一瞬遅れて《L》から『わかりました、お任せします』との答えが返ってきた。
(よぉぉぉっし!!やった、乗り切ったー!!)
歓喜と安堵が一気に押し寄せて、心の中だけでガッツポーズを作る。いやもう本当に焦った。俺なりに考えて取った策だったけど、やっぱり素人が余計なことするものじゃないのかなぁ。
ま、それはとりあえずいいや。後で考えよう。ともかくも、今はこの壁を壊さなきゃ。
『一体どうやって・・・?』
「大丈夫です、見てて下さい」
端末が壊れないようにちょっと離れた位置に置き、壁へと向かう。
そういえば、もう7時間近く手元の作業ばっかりやってたんだよなぁ。
災い転じて福となす、とは言い過ぎだけど、軽くとはいえ久しぶりに身体が動かせるのは有り難い。
軽く壁に触れ、強度を確認してから幾度か拳を握って指先の感覚を確かめる。
「・・・よし!」
ひゅう、と息を吸い込んで、腰を低く落とす。壊すのはあくまでこの【壁】だけだ。周囲に影響を及ぼさないよう、破片を飛び散らせないよう、拳筋をイメージして《氣》を一気に高める。
行くぞッ!!
『ひっ、緋勇さん!?』
《L》が俺を呼ぶ声と、インパクトの瞬間はほぼ同時だった。
ドゥッ、という低音が響き渡り、《氣》をまとわせた俺の掌が触れた中央部分がそのまま吹き飛ぶ。
ゆっくり姿勢を戻した俺の目の前で、サッカーボールほどの大きさの穴が開いた部分から微細なヒビがさぁっと壁全面に広がり、そこだけが綺麗に砂のように崩れ落ちた。
よーし、コントロール完璧!
と、満足げにぱしっと拳を打ち鳴らした時、俺の後ろから[うわぁぁぁぁぁっ!?]という絶叫が聞こえてきた。
ん?今のは【ハウスキーパー】?
[なななな、なんだなんだ!?ひっ、緋勇!なんなんだお前はー!?]
・・え、なんだと言われても。
「古武術の《技》だけど」
あっさりと答えた俺に、ハウスキーパーがひきつった声で怒鳴る。
[武術!?そんなわけあるか!お前、ただのFBIじゃないのか!?何者だ!?]
いや、FBIの時点で結構「ただの」じゃない気はするんだけど。ってそんなことは置いといて、え、ここそんなに驚かれるところかなぁ。だって《氣》こそ十分練ったけど、龍脈の《力》は使ってないぞ俺。このぐらい、ちゃんと学んでれば《力》を持たない普通の人にだって辿り着ける境地だと思うんだけどな。
・・・・え、もしかして、不味かった?
『緋勇さん・・・・』
《L》の声が次の言葉を探すように俺の名前を呼んだ。
うーん、もしかすると俺・・・・・。
やらかしちゃった、のかなぁ・・・?
END
※※※※※※※※※※
年内間に合わなかったー!というわけで6階今更の更新です。
オフの本の方で先にばれネタ書いてしまったのが悔やまれる・・・。
正月休み中にあと一回更新は無理かなぁ・・・。
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