螺旋の黄龍騒動記・1
2008年2月7日 螺旋の黄龍騒動記(完結)ご注意。
●これは「L the proLogue to DEATH NOTE 〜螺旋の罠」の名前自由入力主人公(新米FBI捜査官)が「東京魔人学園剣風帖」のデフォルト主人公緋勇龍麻だったら、というなんじゃそりゃ無茶苦茶な的ネタで書かれる勝手な二次創作モドキです。
●しかもこの緋勇さんは先日「九龍妖魔学園紀」の2周目オマケモード「黄龍妖魔学園紀」をやってきたばっかりという更にちょっと待て的な設定です。
●「螺旋の罠」のゲーム内攻略についてのネタバレはしませんが、ネタはギャグな上、書いてる人間の個人的な趣味丸出しありえねークロスオーバー満載なので、苦手な方はレッツリターンでお願いします。
●それでもいいよって人だけ、ちょっと読んで笑ってもらえれば重畳。
●あと時間軸は勝手に2005年(九龍ED後)です。デスノ本編始まってるとか言われそうですが、そもそもここにいるLが「剣風世界のパラレルL」なのでデスノ事件そのものが無かったオチでお願いします。
いやーここまで来ると流石に引かれますよね!・・え、それでもよろしいですか?
<はい(の人は下へスクロール)
<いいえ(の人は別のところに飛んでね)
では、ゲームスタート!↓
※※※※※※※
2005年、9月7日。
アメリカ。
「・・・・・なんでだろ」
ビルの谷間に沈む夕日を見つめながら、俺はぼんやり『日本語』でそう呟いた。
「どうした、何を黄昏てるんだ緋勇?」
ぽん、と気遣うように肩を叩かれ、振り返る。目を向けた先には、すっかり見慣れた『先輩』の姿があった。
「そう見えましたか?」
かけられた言葉は『英語』。
「ああ、ホームシックにでもかかったのかと思ったぞ」
冗談を交じえて軽快に笑う彼へと返した俺の言葉も、また『英語』。
当然、と思うだろう。ここは『アメリカ』なのだから。
でも俺は、最初の言葉を引っ込める訳には行かなかった。
「しかし、もう三ヶ月になるんだな。早いものだ」
「ええ、どうにかやって来られました。色々と気を遣って下さって、先輩には感謝しています」
俺の心からの言葉に、『先輩』と呼ばれた彼は少し照れたようだった。
「いや、私の出来たことなど大したことじゃないさ。それより緋勇、どうにかなんてものじゃないだろう。君の能力の高さにはみんな舌を巻いてるぞ。期待のホープ、とね」
「・・・はは、煽てても何も出ませんよ」
微妙に乾いた笑いで誤魔化した俺に、「そうやってすぐに『ケンソン』するのは日本人の悪い癖だな」という言葉が返る。
やや真面目な色合いがそこに含まれているのは、おそらく彼の大事な女性のことを思い出したからだろう。俺と同じく日本の血を引いているという彼女が、『謙遜』を美徳とする性格かどうかまで俺は詳しくないのだが。
ひとしきりそんな無駄話を交わした後、わずかな沈黙が流れる。
どうやら『仕事』かな、と、斜めに腰掛けていた椅子を彼の正面へと向ければ、予想通りにそれは来た。
「緋勇、作戦が明日に決定した」
緊張と慎重を込めた言葉は、次の一文の為だったのだろう。
「『前回』は、入ったばかりの君にバックアップを務めてもらったが、今回はフォワードだ。・・・この作戦には国家の威信がかかっているからな。任せたぞ、緋勇」
じわりと重い言い回しに、まぁそうだろうと心の中だけで呟く。『前回』は、酷い失態と多数の犠牲の上に『ある人物』の助力によって辛うじて解決できた事件なのだ。その事件と関わりのある今回の『作戦』では、もう失敗は許されないに違いない。
「了解しました」
先輩・・・・『レイ・ペンバー捜査官』に敬意を表し、深く頷いた俺は、去っていく彼の背中を数秒ほど眺めた後、再び窓の外へ視線を移した。
夕日はもうビルの向こうへと消えてしまい、空の高いところには微かだが星が瞬き始めている。
都会の喧騒と、濁った空気の上で、遥か昔の光を投げかける星。
その星へ向かい、俺はもう一回日本語を、今度はちょっと違う発音で呟いた。
「・・・・だから、本当に・・・『なんでやねん』」
弟のように思っている、何故か関西弁の中国人から学んだ『ツッコミ』は、誰の耳にも届かずむなしく消えていった。
時は3ヶ月前に遡る。
俺、一般的な日本人である(というと流石に仲間内からちょっと待てと言われるだろうが)緋勇龍麻は、エジプトから始まった壮大なる人違いの日々を終え、久し振りに穏やかな日常を母国で過ごしていた。
心配していた龍脈の活性化もなく、これなら日本に戻って普通に生活できるのかな、などと淡い期待が芽生え始めた、そんな時。
俺の携帯に入った1本の電話。
それが新たな事件の幕開けを告げることになろうとは・・・・勿論俺は思いもせずに、通話ボタンをONにした。
《頼むー!助けてくれ龍麻君ー!!》
「鴉室さん?」
途端、受話口から飛び出した声に、慌ててその人の名前を呼びかける。
「何かあったんですか?」
《いやー、それがもうお兄さん本気で困っちゃってて!どうにもこうにも身動き取れないんだよー!頼む!手を貸してくれないか!》
無論、友人に手を貸すにやぶさかではない、が。
「・・・《M+M》絡みですか?」
諸事情が絡めば、そう簡単に承諾も出来ない。
そんな俺の言葉に、電話の向こうは「うっ」と大げさに呻いた。
《やー、相変わらず鋭いね〜。どうだい龍麻、本当にウチに・・・》
「行きませんから」
《つれないねぇベイビー》
最初の必死さはどこへやら、すっかりいつもの調子に戻った鴉室さんに、俺は深々とため息を吐いた。
「で、なんなんですか、俺に手伝わせたいことって」
《お、聞いてくれるか!流石に話が早い!》
「協力するとは言ってませんからね」
一応釘を刺しておいたが、聞いていないのか聞かない振りなのか、テンション高く声は一方的に続く。
《実は今、ちょっと厄介な事件に巻き込まれてさぁ、とある組織に潜入してる仲間が軒並み病院送りになっちまってねー。あ、いやいや、組織っつっても国家機関でいつもはそんな危ない所じゃないぞ?寧ろ青少年が誰も一度は憧れる特殊機関、いやぁ俺も後数年若かったら・・・ってまぁお兄さん今でも若いけどな?》
「で?」
《・・・おいおい冷たいなぁ、龍麻〜。天香卒業してから表裏の彼に感化されてないか?》
「卒業してませんから」
一瞬切ろうかな、と思ったが、諦めてそんな一言だけにしておく。しかしそんな俺の機嫌急降下を察したのか、鴉室さんはやや慌てたようにゲフンゴフンとわざとらしく咳をした。
《いや、ま、それでな?どーしても緊急にその組織に潜入して活動を手伝ってくれる人間が必要なんだが・・これがまた情けないことに、我が機関も人材不足でねぇ。勿論人手だけならどうとでもなるが、問題はその能力なんだよ。優秀かつ、有能にして信頼おける相手となると、もう俺にはたった1人しか思いつく相手がいなくて!しかも今ちょーど壬生君も長期の仕事で連絡取れなくて好都合・・・いやなにこっちの話》
嫌な予感がじんわりと背中を這い登る。
「・・・まさか」
《そのまさか!頼むよ龍麻君!半年・・・いや3ヶ月!3ヶ月だけでいいから!!》
新聞の勧誘みたいなことを言う。
しかし事は月額3千円税別洗剤つきで済む問題じゃない。
大体、ちょっと特殊な宿星の元に生まれた俺だ。大げさかもしれないが、世界の為にもわざわざ騒乱の中に飛び込むなんて話は避けなければならない。
「鴉室さん・・・・」
俺にはちょっと。
そう答えようとした時、言いようも無い悪寒が先ほどの嫌な予感さえ飲み込んで全身を走った。
待て。
こんな話を《俺》に持ちかける?
仮にも《M+M機関》の彼が?
俺の表裏たる壬生紅葉、俺と共に歩む宿星を背負った弟を持つ劉瑞麗、その2人の同僚である彼が?
何の勝算も無しに・・・・?
電話の向こうで、にやりと笑う鴉室さんの顔が見えた気がした。
《勿論、給料は組織の方からも機関の方からもちゃんと出るぞー。それと一緒に、お兄さんからもイイモノを進呈しよう!》
「・・・いい、もの?」
引きつった俺の声に、嬉々とした声が重なる。
《そう!愛と青春のメモリー、天香学園での思い出のスナップアルバムだ!あ、ちゃんとネガは付けるから》
・・・携帯電話を握りつぶさなかったのは、理性というより静か過ぎる殺意のためだったような気がする。
「・・・で、何処へ行けばいいんですか」
低く呟いた俺は、あっさりと返された単語を全力で復唱する羽目に陥った。
《FBI》
「・・・え、『FBI』ィーー!?」
なんでやねん。
今弦月がここにいてくれたら、すかさずそう突っ込んでくれるだろうになぁ。
そんな逃避とも思えることを頭の片隅で考えながら。
そんな訳で、気がつけば俺はアメリカでFBIの捜査官になっていた。(何をどうしたらこんなにあっさり潜入できるのかは分からないが、今更知りたくも無い)
最初の1週間は本当に何の冗談かと思っていたが、赴任早々テロ組織の摘発などにも加わる羽目になり、否が応にも順応せざるを得ない状況へ流れ流れて早3ヶ月弱。
ため息と疑問は尽きないが、それでもどうにか捜査官の任務と《M+M機関》の手伝いを平行してこなし、残りの潜入期間もあと3日となっていた。
「・・・やっと帰れるなぁ」
先ほどレイ捜査官が言っていた『作戦』が、偽捜査官・緋勇龍麻の最後の仕事になるだろう。
その後は新たなM+Mの人間が現場復帰し、俺は晴れてお役御免となる。
「まぁ、滅多に無い経験は出来たし、いいか」
FBIなんて、正直漫画やドラマの中のイメージしかないものだった。その中に自分が所属して、僅かながらも職務を果たしたというのは、終わりも間近い今にして思えばだが、貴重な体験だ。
今度鴉室さんに会ったら《秘拳・黄龍》かな、と思っていたところを《龍星脚》にまけてもいいくらいには。
ただ少々残念なのは、ここで知り合った人々とはもう二度と会えないだろうということだが。
「・・・仕方ないよな・・・」
席を立ち上がり、オフィスを後にする。ふうっと吐いた短いため息は、いつものものと少し違う意味を持っていた。
翌日。
緊張感に満ちた現場で、俺はレイ捜査官と共にある倉庫へと向かっていた。
今日の任務は、『前回』の事件で壊滅したと思われていたテロ組織の残党を摘発するというものだ。
大きな被害を受けた前回の事件ではあるが、今回はあくまで『残党を摘発する』ことが目的であるため、比較的作戦は楽に進むものだと思われていた。
だが。
『緋勇!逃げろ、罠だっ!・・・ぐッ・・』
「レイ先輩!」
倉庫の外で待機していたレイの声が通信機から響く。苦しげな様子からして、負傷したのだろう。
発炎筒の煙に包まれ、視界を奪われた倉庫内で、しかし俺は確実に入口へ向かって駆け出した。
視界に頼る必要など無い。空気の流れと気配、肌に感じる全てが俺にあらゆる情報を伝えてくれる。
それは、俺が長い戦いの中で身に付けてきた《能力》だ。
この《力》は、常に俺を裏切ることは無い。
『相手が人である限り』・・・いや、あるいは『人ではなくても』、そう簡単に、この身を傷付けることは出来ない。
はず、だった。
けれどその時、たった一瞬、何かが俺の足を止めた。
頭蓋を貫いて、全身を駆け抜ける強い感覚。
(これは!?)
その感覚へ俺が意識を向けた僅かな時間・・・ほんの1秒にも満たなかったはずの隙に、俺の身体へと何かが押し当てられた。
「っ・・!!」
電流が全身を走る。薄れ行く意識に、まさか、と思う。
(馬鹿な・・こんな衝撃くらいで・・)
俺が、倒れるはずなんて無いのに。
ありえない事態に呆然とする俺の脳裏で、微かに閃いたのはあの感覚。
逃れられぬ何かが、その意思でこの道を踏破してみせろと挑む、そんな、幾度も覚えのある・・・・。
(ああ、あれは)
星の導きだ。
・・・その思考を最後に、俺の意識は闇に沈んだ。
・・・・どこかで、何かが電子音を立てている。
ピピピ、ピピピ、と規則正しく鳴り響くその音に、俺はゆっくりと目を開けた。
ここは何処だろう。
薄暗い中に、ぼんやりと見えるものは埃っぽい部屋。
そして。
電子音の鳴り響く、携帯端末。
どことなく《H.A.N.T》を思い出させるそれを、俺は僅かな躊躇いの後に手にした。
端末を開くと、白一色の画面にたった一つのアルファベットが表示されていた。
「・・・・『L』」
読み上げたそのアルファベットに、不意に意識が覚醒する。
この3ヶ月で知った、そのアルファベットの『特別な意味』。
それは、確か・・・・・。
『緋勇さん』
端末が、合成された機械音声で俺の名を呼んだ。
『緋勇龍麻さん。・・あなたは、緋勇さんですか?』
それが問いなら、俺の答えはたった一つしかない。
「はい」
短い俺の返事に、感情の無い機械音声がそれでも何故か満足げに聞こえる[音]を返す。
『よかった。ご無事でしたか』
今のところは。と思ったのは、俺か、相手か・・・両方か。
そうして、機械音声は告げたのだ。
俺の『最後の任務』がそう簡単に終わるはずなどないのだと。
『・・・私は《L》です』
世界の頭脳、と呼ばれる、希代の名探偵。
その名を耳にして、俺はどうしても堪えきれず、一言だけ・・・ただし、力一杯叫んだ。
「またかぁぁぁぁぁーーーーー!!」
・・・これが俺の、《いつもの》巻き込まれ事件始まりの合図となったのだ。
END。
※※※※※
ついついやっぱり書いてしまった[螺旋の罠・黄龍編]。
続くような続かないような続けたいような(苦笑)。
すみませんまぁ見逃してください。
●これは「L the proLogue to DEATH NOTE 〜螺旋の罠」の名前自由入力主人公(新米FBI捜査官)が「東京魔人学園剣風帖」のデフォルト主人公緋勇龍麻だったら、というなんじゃそりゃ無茶苦茶な的ネタで書かれる勝手な二次創作モドキです。
●しかもこの緋勇さんは先日「九龍妖魔学園紀」の2周目オマケモード「黄龍妖魔学園紀」をやってきたばっかりという更にちょっと待て的な設定です。
●「螺旋の罠」のゲーム内攻略についてのネタバレはしませんが、ネタはギャグな上、書いてる人間の個人的な趣味丸出しありえねークロスオーバー満載なので、苦手な方はレッツリターンでお願いします。
●それでもいいよって人だけ、ちょっと読んで笑ってもらえれば重畳。
●あと時間軸は勝手に2005年(九龍ED後)です。デスノ本編始まってるとか言われそうですが、そもそもここにいるLが「剣風世界のパラレルL」なのでデスノ事件そのものが無かったオチでお願いします。
いやーここまで来ると流石に引かれますよね!・・え、それでもよろしいですか?
<はい(の人は下へスクロール)
<いいえ(の人は別のところに飛んでね)
では、ゲームスタート!↓
※※※※※※※
2005年、9月7日。
アメリカ。
「・・・・・なんでだろ」
ビルの谷間に沈む夕日を見つめながら、俺はぼんやり『日本語』でそう呟いた。
「どうした、何を黄昏てるんだ緋勇?」
ぽん、と気遣うように肩を叩かれ、振り返る。目を向けた先には、すっかり見慣れた『先輩』の姿があった。
「そう見えましたか?」
かけられた言葉は『英語』。
「ああ、ホームシックにでもかかったのかと思ったぞ」
冗談を交じえて軽快に笑う彼へと返した俺の言葉も、また『英語』。
当然、と思うだろう。ここは『アメリカ』なのだから。
でも俺は、最初の言葉を引っ込める訳には行かなかった。
「しかし、もう三ヶ月になるんだな。早いものだ」
「ええ、どうにかやって来られました。色々と気を遣って下さって、先輩には感謝しています」
俺の心からの言葉に、『先輩』と呼ばれた彼は少し照れたようだった。
「いや、私の出来たことなど大したことじゃないさ。それより緋勇、どうにかなんてものじゃないだろう。君の能力の高さにはみんな舌を巻いてるぞ。期待のホープ、とね」
「・・・はは、煽てても何も出ませんよ」
微妙に乾いた笑いで誤魔化した俺に、「そうやってすぐに『ケンソン』するのは日本人の悪い癖だな」という言葉が返る。
やや真面目な色合いがそこに含まれているのは、おそらく彼の大事な女性のことを思い出したからだろう。俺と同じく日本の血を引いているという彼女が、『謙遜』を美徳とする性格かどうかまで俺は詳しくないのだが。
ひとしきりそんな無駄話を交わした後、わずかな沈黙が流れる。
どうやら『仕事』かな、と、斜めに腰掛けていた椅子を彼の正面へと向ければ、予想通りにそれは来た。
「緋勇、作戦が明日に決定した」
緊張と慎重を込めた言葉は、次の一文の為だったのだろう。
「『前回』は、入ったばかりの君にバックアップを務めてもらったが、今回はフォワードだ。・・・この作戦には国家の威信がかかっているからな。任せたぞ、緋勇」
じわりと重い言い回しに、まぁそうだろうと心の中だけで呟く。『前回』は、酷い失態と多数の犠牲の上に『ある人物』の助力によって辛うじて解決できた事件なのだ。その事件と関わりのある今回の『作戦』では、もう失敗は許されないに違いない。
「了解しました」
先輩・・・・『レイ・ペンバー捜査官』に敬意を表し、深く頷いた俺は、去っていく彼の背中を数秒ほど眺めた後、再び窓の外へ視線を移した。
夕日はもうビルの向こうへと消えてしまい、空の高いところには微かだが星が瞬き始めている。
都会の喧騒と、濁った空気の上で、遥か昔の光を投げかける星。
その星へ向かい、俺はもう一回日本語を、今度はちょっと違う発音で呟いた。
「・・・・だから、本当に・・・『なんでやねん』」
弟のように思っている、何故か関西弁の中国人から学んだ『ツッコミ』は、誰の耳にも届かずむなしく消えていった。
時は3ヶ月前に遡る。
俺、一般的な日本人である(というと流石に仲間内からちょっと待てと言われるだろうが)緋勇龍麻は、エジプトから始まった壮大なる人違いの日々を終え、久し振りに穏やかな日常を母国で過ごしていた。
心配していた龍脈の活性化もなく、これなら日本に戻って普通に生活できるのかな、などと淡い期待が芽生え始めた、そんな時。
俺の携帯に入った1本の電話。
それが新たな事件の幕開けを告げることになろうとは・・・・勿論俺は思いもせずに、通話ボタンをONにした。
《頼むー!助けてくれ龍麻君ー!!》
「鴉室さん?」
途端、受話口から飛び出した声に、慌ててその人の名前を呼びかける。
「何かあったんですか?」
《いやー、それがもうお兄さん本気で困っちゃってて!どうにもこうにも身動き取れないんだよー!頼む!手を貸してくれないか!》
無論、友人に手を貸すにやぶさかではない、が。
「・・・《M+M》絡みですか?」
諸事情が絡めば、そう簡単に承諾も出来ない。
そんな俺の言葉に、電話の向こうは「うっ」と大げさに呻いた。
《やー、相変わらず鋭いね〜。どうだい龍麻、本当にウチに・・・》
「行きませんから」
《つれないねぇベイビー》
最初の必死さはどこへやら、すっかりいつもの調子に戻った鴉室さんに、俺は深々とため息を吐いた。
「で、なんなんですか、俺に手伝わせたいことって」
《お、聞いてくれるか!流石に話が早い!》
「協力するとは言ってませんからね」
一応釘を刺しておいたが、聞いていないのか聞かない振りなのか、テンション高く声は一方的に続く。
《実は今、ちょっと厄介な事件に巻き込まれてさぁ、とある組織に潜入してる仲間が軒並み病院送りになっちまってねー。あ、いやいや、組織っつっても国家機関でいつもはそんな危ない所じゃないぞ?寧ろ青少年が誰も一度は憧れる特殊機関、いやぁ俺も後数年若かったら・・・ってまぁお兄さん今でも若いけどな?》
「で?」
《・・・おいおい冷たいなぁ、龍麻〜。天香卒業してから表裏の彼に感化されてないか?》
「卒業してませんから」
一瞬切ろうかな、と思ったが、諦めてそんな一言だけにしておく。しかしそんな俺の機嫌急降下を察したのか、鴉室さんはやや慌てたようにゲフンゴフンとわざとらしく咳をした。
《いや、ま、それでな?どーしても緊急にその組織に潜入して活動を手伝ってくれる人間が必要なんだが・・これがまた情けないことに、我が機関も人材不足でねぇ。勿論人手だけならどうとでもなるが、問題はその能力なんだよ。優秀かつ、有能にして信頼おける相手となると、もう俺にはたった1人しか思いつく相手がいなくて!しかも今ちょーど壬生君も長期の仕事で連絡取れなくて好都合・・・いやなにこっちの話》
嫌な予感がじんわりと背中を這い登る。
「・・・まさか」
《そのまさか!頼むよ龍麻君!半年・・・いや3ヶ月!3ヶ月だけでいいから!!》
新聞の勧誘みたいなことを言う。
しかし事は月額3千円税別洗剤つきで済む問題じゃない。
大体、ちょっと特殊な宿星の元に生まれた俺だ。大げさかもしれないが、世界の為にもわざわざ騒乱の中に飛び込むなんて話は避けなければならない。
「鴉室さん・・・・」
俺にはちょっと。
そう答えようとした時、言いようも無い悪寒が先ほどの嫌な予感さえ飲み込んで全身を走った。
待て。
こんな話を《俺》に持ちかける?
仮にも《M+M機関》の彼が?
俺の表裏たる壬生紅葉、俺と共に歩む宿星を背負った弟を持つ劉瑞麗、その2人の同僚である彼が?
何の勝算も無しに・・・・?
電話の向こうで、にやりと笑う鴉室さんの顔が見えた気がした。
《勿論、給料は組織の方からも機関の方からもちゃんと出るぞー。それと一緒に、お兄さんからもイイモノを進呈しよう!》
「・・・いい、もの?」
引きつった俺の声に、嬉々とした声が重なる。
《そう!愛と青春のメモリー、天香学園での思い出のスナップアルバムだ!あ、ちゃんとネガは付けるから》
・・・携帯電話を握りつぶさなかったのは、理性というより静か過ぎる殺意のためだったような気がする。
「・・・で、何処へ行けばいいんですか」
低く呟いた俺は、あっさりと返された単語を全力で復唱する羽目に陥った。
《FBI》
「・・・え、『FBI』ィーー!?」
なんでやねん。
今弦月がここにいてくれたら、すかさずそう突っ込んでくれるだろうになぁ。
そんな逃避とも思えることを頭の片隅で考えながら。
そんな訳で、気がつけば俺はアメリカでFBIの捜査官になっていた。(何をどうしたらこんなにあっさり潜入できるのかは分からないが、今更知りたくも無い)
最初の1週間は本当に何の冗談かと思っていたが、赴任早々テロ組織の摘発などにも加わる羽目になり、否が応にも順応せざるを得ない状況へ流れ流れて早3ヶ月弱。
ため息と疑問は尽きないが、それでもどうにか捜査官の任務と《M+M機関》の手伝いを平行してこなし、残りの潜入期間もあと3日となっていた。
「・・・やっと帰れるなぁ」
先ほどレイ捜査官が言っていた『作戦』が、偽捜査官・緋勇龍麻の最後の仕事になるだろう。
その後は新たなM+Mの人間が現場復帰し、俺は晴れてお役御免となる。
「まぁ、滅多に無い経験は出来たし、いいか」
FBIなんて、正直漫画やドラマの中のイメージしかないものだった。その中に自分が所属して、僅かながらも職務を果たしたというのは、終わりも間近い今にして思えばだが、貴重な体験だ。
今度鴉室さんに会ったら《秘拳・黄龍》かな、と思っていたところを《龍星脚》にまけてもいいくらいには。
ただ少々残念なのは、ここで知り合った人々とはもう二度と会えないだろうということだが。
「・・・仕方ないよな・・・」
席を立ち上がり、オフィスを後にする。ふうっと吐いた短いため息は、いつものものと少し違う意味を持っていた。
翌日。
緊張感に満ちた現場で、俺はレイ捜査官と共にある倉庫へと向かっていた。
今日の任務は、『前回』の事件で壊滅したと思われていたテロ組織の残党を摘発するというものだ。
大きな被害を受けた前回の事件ではあるが、今回はあくまで『残党を摘発する』ことが目的であるため、比較的作戦は楽に進むものだと思われていた。
だが。
『緋勇!逃げろ、罠だっ!・・・ぐッ・・』
「レイ先輩!」
倉庫の外で待機していたレイの声が通信機から響く。苦しげな様子からして、負傷したのだろう。
発炎筒の煙に包まれ、視界を奪われた倉庫内で、しかし俺は確実に入口へ向かって駆け出した。
視界に頼る必要など無い。空気の流れと気配、肌に感じる全てが俺にあらゆる情報を伝えてくれる。
それは、俺が長い戦いの中で身に付けてきた《能力》だ。
この《力》は、常に俺を裏切ることは無い。
『相手が人である限り』・・・いや、あるいは『人ではなくても』、そう簡単に、この身を傷付けることは出来ない。
はず、だった。
けれどその時、たった一瞬、何かが俺の足を止めた。
頭蓋を貫いて、全身を駆け抜ける強い感覚。
(これは!?)
その感覚へ俺が意識を向けた僅かな時間・・・ほんの1秒にも満たなかったはずの隙に、俺の身体へと何かが押し当てられた。
「っ・・!!」
電流が全身を走る。薄れ行く意識に、まさか、と思う。
(馬鹿な・・こんな衝撃くらいで・・)
俺が、倒れるはずなんて無いのに。
ありえない事態に呆然とする俺の脳裏で、微かに閃いたのはあの感覚。
逃れられぬ何かが、その意思でこの道を踏破してみせろと挑む、そんな、幾度も覚えのある・・・・。
(ああ、あれは)
星の導きだ。
・・・その思考を最後に、俺の意識は闇に沈んだ。
・・・・どこかで、何かが電子音を立てている。
ピピピ、ピピピ、と規則正しく鳴り響くその音に、俺はゆっくりと目を開けた。
ここは何処だろう。
薄暗い中に、ぼんやりと見えるものは埃っぽい部屋。
そして。
電子音の鳴り響く、携帯端末。
どことなく《H.A.N.T》を思い出させるそれを、俺は僅かな躊躇いの後に手にした。
端末を開くと、白一色の画面にたった一つのアルファベットが表示されていた。
「・・・・『L』」
読み上げたそのアルファベットに、不意に意識が覚醒する。
この3ヶ月で知った、そのアルファベットの『特別な意味』。
それは、確か・・・・・。
『緋勇さん』
端末が、合成された機械音声で俺の名を呼んだ。
『緋勇龍麻さん。・・あなたは、緋勇さんですか?』
それが問いなら、俺の答えはたった一つしかない。
「はい」
短い俺の返事に、感情の無い機械音声がそれでも何故か満足げに聞こえる[音]を返す。
『よかった。ご無事でしたか』
今のところは。と思ったのは、俺か、相手か・・・両方か。
そうして、機械音声は告げたのだ。
俺の『最後の任務』がそう簡単に終わるはずなどないのだと。
『・・・私は《L》です』
世界の頭脳、と呼ばれる、希代の名探偵。
その名を耳にして、俺はどうしても堪えきれず、一言だけ・・・ただし、力一杯叫んだ。
「またかぁぁぁぁぁーーーーー!!」
・・・これが俺の、《いつもの》巻き込まれ事件始まりの合図となったのだ。
END。
※※※※※
ついついやっぱり書いてしまった[螺旋の罠・黄龍編]。
続くような続かないような続けたいような(苦笑)。
すみませんまぁ見逃してください。
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